スリランカの果物
スリランカの朝食付きの宿では、朝からロティ、カレー、ストリング•ホッパー、トーストなどが出てきてどこも盛りだくさんであったが、炭水化物だけでなくフルーツもこれまた盛りだくさんであった。
厚切りのパイナップルやマンゴー、パパイヤ。
日本では缶詰めでしか食べられないようなものが惜しげもなく並べられている。
加工食品に慣れきったわたしにとって、毎日フレッシュな果物を食べるという生活はスリランカでの特別な体験だった。
以下は印象に残った果物についての覚え書きである。
バナナ
スリランカでは複数の種類のバナナが売られており、日本で見る太くて長いの(下ネタではない)もあるが、そのへんの露天でたくさん吊り下がっているのはむしろ短くて太いの(下ネタではない)や皮が黒くて短くて細めなの(下ネタではない!)が主流だ。
この皮が黒くてちょっと汚らしくて貧相なバナナが一番おいしい。
甘味とねっとりした歯応えを兼ね備えているからである。
わたしと夫は1日の観光の最後にバナナを露店やスーパーで買い、夜食や翌日のおやつにしてたらふく食った。
皮が赤い品種もあり、それは値段が高いがおいしいと「地球の歩き方」にあったので食べてみたが、おいしいはおいしいけど特別飛び抜けておいしい感じはせず、いつもどおりおいしかった。
マンゴー
東南アジアにくるといつも「豊かさとは何なのか」と考えさせられる。
スリランカのインフラは脆弱で平均年収も日本と比べ低いであろう。
しかし庶民が日常的にマンゴーを食べる。
カレーの具材にもしている。
日本では高級すぎて手が届かないマンゴーに簡単にアクセスできることを、果てしなく豊かだと感じる。
豊かさの基準が揺らぐ瞬間である。
キャンディの宿で、宿一家のお母さんの親友が育てたというマンゴーを食べた。
マンゴーはどこで食ってもうまいが、このマンゴーは柑橘系の香りが漂ってきて、うまいだけでなく上品で爽やかで人生で一番おいしかった。
おいしいマンゴーはオレンジの香りがする。
このマンゴーのことは決して忘れまい。
アノーダ
「これは庭でとれたアノーダだよ。ヘルシーな果物なんだ」
といって出されたのは白いパイナップルのようなものであった。
アノーダってなんなのーだ。
味は見た目通りパイナップルのようであったが、よりしっとりした食感であった。
ウッドアップル
スムージーの材料としてよく出てくるのはバナナ、マンゴー、パパイヤであるが、それに次いでよくあるのがパッションフルーツ、アボカド、ウッドアップルである。
ウッドアップルのスムージーは茶色い。
味と食感はバナナに近いがそこにリンゴの酸味が加わり、ついでに納豆を入れてミキサーにかけたような味である。
いかにも健康によさそうでどろっとした食感もよいが、ほのかな納豆風味が好みの分かれるところであろう。
正直飲みやすいときと飲みにくいときがあったので、熟れ具合によるのかもしれない。
ランブータン
赤いウニみたいなトゲトゲの謎のフルーツ(トゲはやわらかい)。
夫が食べたいというのでスーパーで買った。
こんなのよく食べるなあと思いながら夫の動向を見守っていたが、皮をむくとプリッとした白い尻のような果肉が出てきて、味はライチに似ていておいしい。
夫の食に対する好奇心を見直した。
エッグフルーツ
「ヴィーガンに『これタマゴだぞ、ほら食ってみろ!』って言って食わせるんだよ。
まさに彼らも食べられるタマゴなんだ」
と宿のおじさんが言うので食べてみると、たしかに卵の黄身を連想するクリーミーな味。
人生でもう一度食べたい。
ベリ
スーパーできれいな緑色をしていたので試しに買ってみることにした。
野菜売り場の店員に「今食べ頃なのはどれか」と尋ねたところ、彼女はいくつか手にして匂いを嗅いだあと、その中のひとつを選んでくれた。
良い香りがするものが食べ頃だという。
彼女の判断は信頼できる気がする。
宿で真っ二つに割ってもらうと中身は濃い黄色だった。
味は印象に残っていないが、繊維質で種はぬるっとしていた。
「そんなにおいしくないけどヘルシーだよ」と宿のお兄さんは言ったが、印象には残らなくてもけっこうおいしかった。
***
スリランカの食事はこんなのばっかりだ。
フルーツでもカレーでもよくわからない食材が出てきて、
「これは英語ではなんというのかわからないがヘルシーだ」と言われる。
ナチュラルでフレッシュでヘルシー、なんかよくわからないけどおいしい。
見た目と味が一致せず、舌が慣れるまでに時間がかかることもあるが、慣れるとどれもおいしい。
「食べたことのない食材や料理に出会う」というのは夫の旅の楽しみであるが、わたしもスリランカではそんな楽しみを毎食のように享受していたのだった。