めんどうな事態
グアテマラシティでの博物館めぐり3つめは国立考古学民族学博物館である。
開館時間直後に入館するとさっそく問題が発生した。
チケットの支払いは現金のみだが、われわれが札を出すとつりがないという。
渡したのは高額紙幣ではなかったが、それでもつりがない。
「カードで払えないなら小銭ぐらい用意しておけ」と思うがそれはこの博物館に限ったことではなく、海外ではわりとよくある事態である。
で、「おつりはあとで返すから、帰るとき寄って」と言われることもたまにあるが、われわれは経験上「今すぐ返してもらわなければより面倒だ」ということも知っている。
わたしは受付の女性に
「あなたはいつまで受付にいるのか。
つりが発生していると一筆書いてくれ」
と頼んだ。
担当が変わった際にこちらがスペイン語で説明しなくてすむようにするためである。
しかし女性は紙とペンはよこすものの自ら何も書こうとはせず、わたしは何度も同じことを頼まなくてはならなかった。
膠着状態に陥り途方に暮れていると、女性は意味がわからないといった様子でこう言った。
「どうして? 45分から1時間くらいで見終わるわよ?」
わたしの血圧は瞬時に上昇した。
グアテマラに見るべきものはたくさんあるのに、貴様、バカにしているのか!
1時間で見終わる?
マヤ文明をなめるなッッ!!
と、なぜ外国人のわたしが熱くならなければならないのかわからないが、そんなやりとりをしているうちに別の客が来て現金を出し、われわれはその場でつりを受け取る運びとなって、やれやれやっと入館であった。
石碑の森で
結果から言うと、この博物館は45分で見終わることは到底不可能な充実ぶりで、1日がかりで観覧した。
受付の女はやはりマヤをナメくさっていたのだ。
そして考古学民族学と銘打っていてもそのほとんどを考古学展示に割いており、民族学についてはあまり気合いが入っていないように見えたので、ほぼ考古学博物館として考えてよいと思う。
8つのテーマに分かれた展示はそれぞれ見応えがあったが、この博物館のハイライトは、噴水のある中庭を囲んだスペースに展示されている石碑であろう。
6〜9世紀頃の大型の石碑や石像が林立しており、わたしはまるで石碑の森に迷い込んだ気分になった。
天井高い建物を活かしたダイナミックな展示だ。
白い石に彫り込まれた文字と絵。
それを下から上へと見上げる。
ときにスリランカ、シギリヤ遺跡の壁画「シギリヤレディ」を思い出すような流れるような筆致の人物や、同じくスリランカの遺跡でよく見る「マカラ」に似た動物(怪物?)もあるかと思えば、コミカルでかわいらしく「いかにもマヤ」なデザインもあって何周しても飽きない。
ああ、わたしはやはり、中南米が好きである。
わたしと夫はどっぷりとマヤに浸り、なかなか森から出られなくなってしまったのだった。
(「マッシュルームストーン」と呼ばれる石像。
動物や人がくっついているものもあり、使用方法には諸説あるよう(儀式など)。
アンデス文明では性的な場面を表した土器が多々あったため、わたしははじめこれは男性器を表しているのではないかと思ったが、マヤではそうした造形はあまり見当たらないようだ。
なーんだ)
(モザイク状の器。
前部には動物の形のような突起がある)
(昔のフィギュアも現代に負けていない。
頭飾りの細かさに脱帽)
(カンガルー……?)
(このようなタイプの器は初めて見た。
慌てた女の子のようなファンシーなキャラクターが描かれているように見えてしまう)
(何と言ったらいいのかわからないが、人が動物に食われているデザインは珍しくはない)
(文字は絵であり絵は文字である。
一つ一つにさまざまな生物が見える)
(胸当てなどの装飾、右手に持っているもの、そうしたものすべての意味を知ることができたらいいのに)