スモタン(ザ・スモールタウンボーイズ)への道 3回目
スモタン(ザ・スモールタウンボーイズ)への道 3回目
ツッツタッタッツッツタッタ・・・
佐藤は唇をとがらせて目をつむり、一心不乱に単調な8ビートを叩き続ける。
バスドラがもたつき、不用意なタイミングで無駄なシンバルを叩きまくっては、また単調な8ビートに戻る。
浅田も一心不乱にGのコードをかき鳴らしながら分厚いタラコ唇をとがせて声にならない声で何やらぶつぶつ言っている。
「聴こえねえーよ!なんでもいいからからデケえ声でうたってみりゃいいんだよっ!」と佐藤が妙に気合の入った目つきで浅田に叫んだ。
「わかったって!わかったって!」と必死になってギターのフレットを睨みつけながら答えた。
そして、吹っ切れたように楽器室の天井を見上げながら歌いだした。しかし、なぜかオペラ声である。
テノール調と言えばいいのか・・・妙に通る低い声でやたらビブラートを利かせながら
「かわがあー ながい~ かわがあー ながあいぃ~ かわがあーながいー ながすぎるんだあ~」
と天井を見上げながら歌っている。時折、悦に入っているのか目を閉じたりしている。
佐藤の唇の右端が少しつりあがった。笑いをこらえているのである。8ビートのテンポをしだいに上げながら佐藤に向かって叫んだ。
「ええぞー!浅田!すげーよ!いい感じ!」
浅田は細い目でにやりと笑い、調子づいて厚いタラコ唇を大きく広げてテノール声で続けて次のフレーズを唄い出した。
「かわがあー 伸びる~ 皮があ~ のびいるう~ 皮があ伸びて~ 長くてえ~ 伸びて 伸びすぎちゃったあ~」
歌い終える途中で佐藤は笑いをこらえきれずにスティックを放り投げて大声で腹を抱えて笑いだした。浅田も同じくギターを弾く手を止めて笑い出した。
「っつーかお前コレ!おまえのチンコの唄やん・・」
笑いながら言っているため佐藤の声は裏返っていた。
「何でもええって言ったやんっ!リバーとチンコの皮のダブルミーニングやん?かっけーやん!」
浅田は得意げにニヤニヤ笑いながら言った。
「うん!ほんまや!うん!ながい!やべーわ!」
黒目を光らせて佐藤は言った。
楽器室は妙なグルーブ感と何かが生まれる前の新鮮な空気に包まれていた。
「よっしゃ!もっかい行くでえー!浅田が歌うぜ! ながいっ!」
と佐藤が叫んでまたドラムを叩き出した。
浅田も佐藤に合わせてGのコードをかき鳴らしながらテノール声で歌いだした。
佐藤の唇の左端がまたつりあがっている。時々浅田に合わせて一緒に歌ったりしている。二人だけのビートは熱を帯びてだんだんとテンポが上がっていく。
調子づいている浅田は目をつむりながらテノールにビブラートをやたら利かせて歌い続ける。
急に佐藤がスネアの上にスティック二本を放り投げて、キレぎみで浅田に叫んだ。
「おんまえ!さっきからGのコードばっかじゃんよーっ!きんもちわりーわ!」
浅田は太い唇を尖らせて
「だってオレGしか押さえられへんもん・・・」
と困惑した顔でテノール声で答えた。
「もうその声はええっちゅうねん!ほんま知らねーのかよ!他のコード!」
「うん・・・」
浅田は珍しく申し訳なさそうにうつむいてGのコードをポロンと鳴らした。
「あーっ!めんどくせーなあ!」
佐藤は天井をしばらく見上げていたが、急に何か思いついたように浅田に向かい合ってまた竹内力口調で
「よっしゃわかったわ。あとはわしに任せたらんかい~!」
と言った。また唇の右端が少しつりあがっていた。