ステイゴールド その1
「しっかしめんどくせーなー!なんで自殺とかすんのかな? んでまた、後追い自殺とか意味わかんねー!バッカじゃねーの!あー!バカだわやっぱ!自分から死ぬんなら生れてくんなよなー!死んだコイツらゆで卵にも追いつけねーぜ!」
放課後、浅田家の2階、浅田の部屋で浅田兄の成人誌の記事を読みながら佐藤がいつもの冷たくデカイ声でひとり言を言った。
こういう場合、浅田は反応せずにシカトするように決めていた。
佐藤は誰かに答えてほしくて言っているわけではない。例え何らかの反応があったとしても奴はもうすでにその話題に興味を無くしていることが多いからだ。
しかし、浅田はなぜ自殺した人とゆで卵を奴が比較しているのか気になってしかたがなかった。
「オレは半熟がいいぞー!パサパサの固めはもひとつだー!死んだお前は生卵―!」と変な節回しで唄っている。手にある成人誌はヌードグラビアのページで止まっている。
「オレは半熟―!君にボイルしてほしいぃぜー!ボイルボイルあっそれそれ!ボイルボイル!あっそれそれ!」
いよいよ意味がわからない。
浅田の部屋ではオフコースの切ない曲が流れていた。浅田は意外にロマンチストなのだ。
いたたまれなくなった浅田は口を尖らせながら佐藤に言った。
「おえーっ! オフコース聴きながらエロ本読むなよー!」
佐藤はグラビアから目を離さずに
「別に聴いてねーよ。」
と素っ気無く応えた。
浅田は佐藤に本日打ち明けることがあった。しかし、浅田は迷っていた。浅田は高校進学前から自身のヴィジュアルについて悩むことが多かった。髪型や服装、さりげない仕草など全てにおいて自分がいかにカッコ良くできるかを日々考え、悩み、時にコンプレックスに陥ることがあった。
中学時代に佐藤はそんな浅田を「なんや!しょーもな!おもんない奴っちゃ!」と一蹴し、とりあうことはなかった。ゆえに浅田はそんな佐藤にこの悩みを打ち明けることにひどく戸惑いがあった。しかし、こんな話はこんな佐藤にしか話せない現実もあった。
「佐藤… オレ オペすんねん… 」
締め付けられるような声で浅田が意を決して言った。
成人誌をめくる佐藤の手が止まった。
「なんやそれ」
と佐藤はグラビアから目を離さずにめんどくさとうに言った。
「そやねん オレ オペすんねん… 」
「せやから オペってなんやねん!」
「そやねん オレ、オペすんねん!」
「せやから オペってなんや!って聞いとんねん!おまえアホか!」
佐藤は犬目で浅田を睨み、キレ気味で声を大きくした。
「あ オペって手術のことやねん。オレ手術すんねん。」
浅田は慌てて言い換えた。
「どこを?どっか悪いのか?」
また佐藤の声はめんどくさそうに小さくなった。
「いや…別に悪くはないんやけど……」と浅田はうつむいた。夕方の日差しのせいで顔に影が射している。
沈黙が続いた。
突然佐藤が、ベランダ側の窓を椅子に座ったまま無造作に開けた。
窓の向こうは畑になっており、窓を開けた瞬間に肥料である糞尿の匂いが二人の鼻を襲った。
「ほら臭いー!あかんねんて!開けたらあかんねんて!くっさいねんてー!ほらやっぱくっさいねんてー!」
浅田が迷惑そうに窓を閉める。
黙って佐藤はまたグラビアに視線を落とした。
浅田の緊張がいっそう高まった。
まだ部屋の中に糞尿の匂いはほのかに残っていた。
「お前さ…来週の火曜日の放課後って暇か?」
浅田はまたもや意を決して佐藤に聞いてみた。
「おー 別に予定ないで」
「ちょと付き合ってくれへん?香里園やねんけど…。」浅田は嬉しそうに細い目を輝かせた。
「ええで。オレも小遣い貰ったら欲しいレコードがあってん。」
浅田はホッとした。とりあえず予定は押えた。
そして本題だ。しかし、どう切り出すか迷っていた。