忘れていた、訳じゃない。
パイとのレイヴンで交わした契りと、憑神の掟。
ただ、この時の俺は、勝利という言葉に貪欲になっていた。
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俺が、憑神となりアリ-ナで勝利を収めた。
どうだ、とばかりに拳を握り締め、観客席を向くと、目に映ったのは。
あいつの。
パイのなんとも言えない、寂しそうな表情だった。
掟。
例によって、レイヴンのHOMEに呼び出され、今に至る。
ク-ンはいつもの様に、のほほんと喋りを辞めないし、
パイに至っては口を利くどころか、終始、無言を貫いていた。
それどころか、ハセヲの目すら見ようとも。合わせようともしない。
「おい。パイ。」
あいつが振り向いたら、いつもの様にからかってやろうと。
そう思っていた。
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ハセヲが私を呼んだ。
何故、私が。あいつに!
こんな神経を使わなければならないのだろう。
はぁ・・・と口から遠慮無しに出てくるタメ息を鷲掴みにして
目の前で、のん気にしているク-ンにぶつけてやりたい衝動に駆られる。
「なに・・・よ。」
いつもの様に、強気に。私らしく。
そう振舞ったはずだった。
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「お・・・おい。パイ・・?」
いつもの強気な彼女の瞳には、炎が常に存在した。
だが、今はソレがない。
茶色の赤みを含んだルビーにも似た彼女の。
パイの瞳には、うすっらと涙が浮かんでいるのが解る。
すっ・・と視線を落とすと、彼女が拳を握り締めているのが解る。
コレは。
戦闘中も、痛い時、苦しい時。
こう拳を握り締め、一人でじっと耐えるのが彼女のクセだった。
「自分では気付いてないみたいだな・・・」
誰に返すでもなく呟くと、彼女は精一杯の虚勢を張り、首を傾げる。
・・・はぁ・・・。
今度は、ハセヲがタメ息をつく。
「なぁ・・・俺が、お前を泣かせる様なこと。何かしたかよ・・・?」
「・・・・――憑神・・。」
「あ?」
「アンタ。アリ-ナでっ・・・!」
アリ-ナ。
憑神。
その2つを聞いて浮かんだ。観客席に居たパイの表情。
だが、それもスグにパイの上げた声でかき消される。
「アンタ。約束したわよね!?まだ憑神出来るかどうかも解らないアンタが・・っ!!
どうして!!・・・・・もうっ!!!!!」
ダン!とハセヲの胸に叩き付けられたパイの拳は、
それほどまでに威力は無く、力なく垂れ下がっていく。
「・・・もぅ・・・・・。」
「(牛かよ・・・。)・・・・・・解った。悪かった。」
ハセヲの、この弁明が今の彼女にどれだけ効果があるのか・・。
「もう。心配掛けないで。」
弱く。それでも胸を締め付けられる程に強くパイが俺の指先に触れる。
「ったく・・・どっちが掟破りなんだか・・・」
そんな彼女にハセヲは、また軽い眩暈を覚えたのだった。