英田作品の中ではもっとも好きな「夜シリーズ」、咲き誇って完結。
東京で居場所をなくして大阪に移り住んだ元刑事が極道の情人になる。
よくある設定で、ほかにもモチーフが似ている作品はいくつかある。
近いものでは「真昼の月」も同シチュエーション。
が、そこは、筆力がある人が書けば、シチュエーションが被ろうが、テーマが被ろうが
人物設定が被ろうが、リアルな人間が一人ひとり違うように、全く別作品になるいい例といえる。
もともとBLは男同士のハーレクインロマンス&ファンタジーという大前提があるんだから
ある程度被るのはむしろ当然なんだけどね。アラブだとか花嫁だとか…
「真昼」がギャグも織り交ぜていて、二人の立場としては、受氏はあくまでも一般人であるのに対し、
「夜」は受氏(秋津)の背景がよりハードで、血なまぐさく、シリアス。
そして巻を重ねる毎に、心理的スタンスどころか、立場も近づいていく。
「夜シリーズは」内容もだけど、そのタイトルが秀逸。
1巻目でくどかれ絆され、愛も生きがいも見失っていた受氏(秋津)の心が「蘇り」
2巻目で愛情を確かめ、受氏、攻め氏(久我)共に過去の呪縛から解放され「赦され」
3巻目で一生を共にする覚悟を決め、夜のなかで艶やかに「咲き誇る」
3作を通して、練り上げられ、確立されたキャラクターの心情が実にスムーズに伝わってくる。
「エス」もそうだけど、作者は「男の矜持」 というものにひどく拘っている。
受氏には、グジグジしたり、誤解して悩んだりするような暇はない。
(物語によってはそれはそれでいい、好きだから)
とてもストレートな応酬の連続で、エッチにおいても一方的ということは無く、共に能動的な男同士。
そして相手にとって、あるいは二人の将来において、必要なら気持ちを後回しにして、
やるべき事を優先させる、当然ながら「男」としての本質を決して見失わない、
気骨のある受氏に圧倒される。
以下はネタバレ
3巻になるとお互いの気持ち(愛情)に揺るぎは無いものの、
自分の世界とはかかわらずに一生守り抜きたいと考える久我に対して、
久我の傍にいて、久我のために一生を捧げ、同じ世界で対等な立場として生きたいと願う秋津。
組織の次期トップと目される久我だが、その傲慢不遜な態度を苦々しく思う
同組織の実力者との調停を計らないことには、頂点に立てないと悟った秋津は、久我のために奔走する。
時には、久我を置き去りにして、秋津は極道の頂点を目指す男の補佐としての自分を確立する。
覚悟を決めた男の潔さ、極道よりも肝の据わった強かさ、とにかく秋津がかっこいい!
そして、そんな秋津に触発され、久我も一回り大きな男に成長する。
ある意味、受けによる攻め育成モノ??
こんな最強の姐(バシタ)を手に入れた久我は、きっと極道の頂点を極めるのでしょう。
そして、対立する「館野さん」実にいい男!
実に懐の深い、そしてナンバー2にふさわしい度量のある男でした。
ちょこちょこと、ごまかしてダークな部分をぼかす作品が多い中、
これほどガッツリと極道(夜)の世界に飛び込んでいく受けも珍しい。
「ラブシェイク」や「NGだらけ」「ピジョンブラッド」「ひと目」のような作品は他作家でも書ける。
(決して悪いとは言わないけど、やはり魅力度は落ちる)
これからもしっかりと自我の確立した、ずっしりと人生を背負っている、
きっちりと男気がある、カッコいい男同士の、矜持を戦わせるような作品を書いて欲しいと思う。