第1 〔設問1〕
1 午前11時から午前11時30分までの留め置きの適法性
(1) 「強制の処分」(197条1項但書)該当性
同留め置きは、「強制の処分」に該当し、強制処分法定主義(197条1項但書)や令状主義に反して、違法とならないか問題となる。
ア 197条1項但書は、強制処分について法定という重い効果を要求し、199条1項等は、強制処分について令状という厳格な要件を要求している。そうすると、このような重い効果や厳格な要件に見合った重要な利益を侵害するような行為を「強制の処分」であると解すべきである。
そこで、相手方の意思に反し、重要な利益を侵害する処分が「強制の処分」であると解する。
イ まず、甲は、甲車から降りて歩き出しているので、同留め置きは甲の意思に反するといえる。
次に、甲は、Pから進路を塞がれているため、移動の自由が制約されている。もっとも、甲は車の中では自由にすることができるのであるから、実質的に逮捕といえるほどの重要な移動の自由が侵害されたとまではいえない。
ウ したがって、同留め置きは「強制の処分」に該当しない。
(2) 任意処分の限界
同留め置きは「強制の処分」に該当しなくとも、任意処分の限界を超えるため違法とならないか問題となる。
ア 同留め置きは任意処分であっても、移動の自由を侵害するのであるから、無制約に行えると考えるのは妥当ではない。
そして、任意処分についても捜査比例の原則(197条1項本文)が妥当するので、捜査の必要性・緊急性と被侵害法益の性質・程度を比較衡量して相当性が認められなければ、任意処分の限界を超え、違法であると解する。
イ 甲は、エンジンの空吹かしを繰り返しており発進せず、全開の運転席窓から大声で意味不明な言葉を発するという不審な行動をしていたため、何らかの薬物中毒の可能性がある。そして、甲には、目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど、覚せい剤使用者特有の様子が見られ、覚せい剤取締法違反の有罪判決を受けた前科もあるため、覚せい剤自己使用の嫌疑がある。そうすると、甲に対して留め置きをして嫌疑を確かめる必要性がある。
また、甲は、エンジンの空吹かしを繰り返して発進しない状態であったため、甲車の運転をすることを阻止しないと交通事故の危険もあったため、留め置きをする緊急性もある。
他方、同留め置きの時間はわずか30分にすぎず、Pは有形力をもって留め置きを行ったわけでもなく、パトカーで甲車を囲んだわけでもない。また、甲も「仕方ねえ。」「警察署に行くくらいならここにいる」等言い、自分から甲車に戻っている。そうすると、Pの甲に対する留め置きは未だ説得の域を出ていないといえるので、前述の必要性・緊急性に鑑みれば、相当性が認められる。
ウ したがって、任意処分の限界を超えない。
(3) よって、同留め置きは適法である。
2 午前11時30分から午後4時30分までの留め置きの適法性
(1) 「強制の処分」該当性
前述の「強制の処分」の定義に従って判断する。
まず、甲は甲車を降りて歩き出しているのだから、同留め置きは甲の意思に反するといえる。
次に、確かに、同留め置きは、5時間と長く、Pによって甲の体に対する有形力が行使されるものであるし、パトカーを用いて甲車を囲むというような態様でもってされているから、重要な移動の自由が侵害されたとも思える。
しかし、甲が甲車の中で自由にできる以上は、実質的に逮捕といえるほどの重要な移動の自由が侵害されたとはいえない。
したがって、同留め置きは「強制の処分」とはいえない。
(2) 任意処分の限界
前述の任意処分の限界の規範に従って判断する。
まず、午前11時から午前11時30分にかけての留め置きの必要性と緊急性は同留め置きにおいても妥当する。
更に、午前11時30分に甲の尿を差し押さえるべき物とする捜索差押許可状を請求するようPからQに対して指示している。このような強制採尿令状が請求される段階においては、強制採尿を円滑かつ迅速に行うために対象者の身柄を確保しておく高度の必要性がある。
そうすると、同留め置きは、前述の通り、時間、態様といった観点から強度の移動の自由の制約ではあるが、留め置きをする高度の必要性があるから、相当性が認められる。
したがって、同留め置きは任意処分の限界を超えない。
(3) よって、同留め置きは適法である。
第2 〔設問2〕
1 ①接見指定の適法性
前提として、甲は現行犯逮捕されており、「身柄の拘束を受けている」ので、甲は接見交通権を有している(39条1項)。
(1) 接見指定の可否(39条3項本文)
ア 39条3項本文の趣旨は、身柄拘束期間には厳格な期間制限があるところ、一つしかない被疑者の身柄に対してなされる捜査機関と弁護人の活動を時間調整する点にある。
そうすると、弁護人等の申し出た内容の接見等を認めたのであれば、捜査に顕著な支障が生じる場合、「捜査のために必要がある」といえる。
イ 検察官Sは、午前9時45分から甲の弁解録取手続を開始した。そして、弁護士Tは、午前9時50分に、午前10時30分から接見したいと言った。弁解録取が終了するのは午前10時20分と見込まれ、接見の場所まで移動に30分を要するから、Tの申し出た接見の内容に従うと、現在行われている弁解録取手続を中断しなければならない。
そうすると、捜査に顕著な支障が生じることとなる。
ウ したがって、「捜査のために必要がある」といえる。
(2) 接見指定の適否(39条3項但書)
ア 「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」か否かは、接見の重要性を考慮した上で、接見の時間を指定することで捜査に顕著な支障が生じることを避けることができるか否かで判断する。
イ 甲のTとの接見は初回接見である。甲はまだ弁護人を選任していないところ、初回接見は弁護人を選任する機会であるし、今後の取り調べ等の捜査に対してどのように対応していくかの助言を得られる最初の機会でもある。そうすると、非常に重要な接見であるため、即時又は近接した時間に接見が認められることが必要である。
そして、Sは甲の接見の時間を弁解録取手続が終了した直後の午前11時と指定しているため、近接した時間に接見を認めることとなっている。
ウ したがって、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に侵害する」とはいえない。
(3) よって、①接見指定は適法である。
2 ②接見指定の適法性
(1) 接見指定の可否
前述した基準で判断する。
Sは甲に対して、午前10時25分、これから取調べを行うことを決定した。Tが申し出た接見の内容に従うと、これから予定された取調べを行うことができなくなる。
そうすると、捜査に顕著な支障が生じるので、「捜査のために必要がある」といえる。
(2) 接見指定の適否
前述した基準で判断する。
甲の接見は初回接見であるので、即時又は近接した時間の接見がなされることが必要である。
そして、甲に対する取調べは未だ始まっていなかったので、接見をした後に行うことによって生ずる捜査への支障は小さい。また、Sが取調べを行うことを決定したので、甲が自白をしようか迷っていたからであったが、甲に対して取調べ前に弁護人からの助言を与えるべきである。
したがって、「被疑者の防禦の準備をする権利を不当に侵害する」といえる。
(3) よって、②接見指定は違法である。
第3 〔設問3〕
1 ③の証言は、「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠」(320条1項、以下「伝聞証拠」という)にあたり、証拠能力が認められないのではないか検討する。
伝聞法則の趣旨は、知覚・記憶・表現・叙述といった供述過程には誤りが介入するおそれがあり、反対尋問等の信用性テストを経なければ、推論を誤る危険がある点にある。そうすると、伝聞証拠とは、公判廷外供述を内容とする証拠であり、要証事実との関係で原供述の内容の真実性を証明するために用いる証拠であるものであると解する。
2 乙の被疑事実は甲に対する覚せい剤譲渡であった。そして、譲渡時に乙に覚せい剤であるとの認識があったかが争点となっていた。そうすると、検察官は乙に覚せい剤であることの認識があったことを立証する必要がある。
③の証言中の『お前が捕まったら、俺も刑務所行きだから気を付けろよ。』という発言は、乙が渡したビニール袋に何らかの違法薬物が入っていることを前提としたものである。そうすると、この発言の存在から乙が譲渡時に覚せい剤であるとの認識があったと推認することができる。
したがって、要証事実は前述した発言の存在であり、原供述の内容の真実性とは関係がないので、③の証言は伝聞証拠とはならない。
3 よって、③の証言の証拠能力は認められる。
第4 〔設問4〕
1 弁護人Uの下線部④の質問及びこれに対する乙の供述は、「相当でない」ものとして295条1項により制限されないか検討する。
2 「相当でない」
(1) 295条1項の趣旨は、審理の無駄を排除する点にある。そこで、審理に無駄を生じさせる場合、「相当でない」といえると解する。そして、審理に無駄が生じるかは、審理の経過及び結果、供述の内容を考慮して判断する。
(2) 乙は、丙方にいたとは言ったが、丙が本名であるか分からず、丙方で何をしていたか覚えていないという曖昧な供述をしていた。このような供述を踏まえて、争点は、乙が丙方にいたかではなく、乙方にいたかというものとなっている。
そして、乙は新たに戊方にいたことを具体的に供述しようとしているが、これはそれまでに形成された争点と矛盾するものではない。
そうすると、乙の供述は審理に無駄を生じさせるものとはいえない。
(3) したがって、「相当でない」といえない。
3 よって、295条1項により制限されることはない。
