真夜中の


海を漂う海月が一匹。


暗闇の中で


消え入りそうな声で囁く


生きることの悲しさ。


遣るせなさ。


孤独に傷つく心を持たず


体躯は痛みを感じない。


それでもゼラチン状をした


消化器官に抱かれた


エーテル質のその中に


この世が生まれたときからの


記憶を秘めて生きている。


真夜中の


海を漂う海月が一匹。


暗闇の中で


消え入りそうな声で囁く


生きることの悲しさ。


遣るせなさ。
誰かに誇れるものなど


なにもないまま生きてきた。


人目を避けるように身を隠し


静かな暮らしを望んでいた。


他人と自分を隔てる


高い壁を作ることで


傷つくことも傷つけることも


ないような暮らしを望んでいた。


水と空気だけで生きる植物のように


平穏なる日々に憧れる。


この身も心も大地と繋がり


大いなる意思と共に生きることができたら


どんなに素晴らしいだろう。




しかし、現実はそうはいかない。


人一人の存在はあまりに大きく、あまりに重い。


その大きさが、重さが、壁をいとも簡単に打ち崩していく。




そして思い出す。




誰にも心を開けなかったこと。




本当はずっと淋しかったこと。




そしてそのことを




誰かに伝えたかったこと。
最果ての場所を目指す旅人の


その孤独に、自分を照らし合わせても


人は一人では生きていけない。


それは心が弱いからじゃない。


愛し愛される人と出会うために


人は皆、孤独と共に生きている。




銀河の中を漂う星屑の


その孤独に、自分を照らし合わせても


人は一人では輝けはしない。


それは心が醜いからじゃない。


愛し愛される人のためだけに


人は皆、その輝きを取り戻せる。




世界の終わりを夢見る少年の


その孤独に、自分を照らし合わせても


人は一人では立ち直れない。


それは心が壊れるからじゃない。


愛し愛される人と出会えたとき


人は皆、何度だって立ち直れる。
人は無だ。




死んでしまえばなにも残らない。




自分が死んだあとの世界を、誰が予想できるだろう。




生きることに価値が無いのなら、死ぬことにも価値はない。




だが価値とはなんだ?




そんなものは始めから存在しない。




死によって全てが無に帰す。




それが唯一の真実。




人は無だ。
声が聞こえた。




声は僕を知っていた。




声は僕がそうするように僕に尋ねた。




君は誰だい?




自分の中にいつまでも響くような声。




優しい雨のように




冷たい風のように




体になにかを刻んでは消えていく。




声よ




教えてくれ。




生きるとはなんだ?




声はなにも答えない。




そしてそのまま




なにも言わなくなった。