母はイライラしてよく怒っていた。

母は強いと思っていた。

 

でも母は良く泣いていた。

「なんでなんやろう…」

「なんで?なんで?」と

答えも出ないことに

自問自答してたかのように

見えた。

 

「あんたさえ居なければ」

と言い泣いていた。

「あんたなんか産まなければ良かった」

また泣いていた。

 

しょっちゅう泣いてた。

 

母は弱かった。

 

どうしていいかわかんないから

「ママ。だいじょうぶ?」

 

そういうのがいっぱいいっぱいだった。

 

「大丈夫!」と

返ってくることは

これまでもなかったし

これからも一生ないと思っている。

 

母にとって大丈夫という言葉が

存在しないようなそんな気さえする。

 

強さの中にはっきりとした弱さが

こんなにも存在する人は

あたしが生きてきて逢った人の中で

母だけだ。

 

 

 

ある日、母はイライラして早朝帰ってきた。

 

相当酔って居たので

近づかないように

人形遊びをしていると

母は泣き始めた。

 

ワンワン泣き始めて

10分くらいは泣いていた。

 

「ママ。だいじょうぶ?」

 

そう離れた場所から言うと

「あんたがおるから大丈夫じゃないわ」

と 母に言われた。

 

「そうなんだね」って言うと

 

「生意気なガキやな!

 

何だその目つきわ!

あんたのパパにそっくりな目で

あたしをみやんといて!!」

 

と そのときに持っていた

コップを投げつけて来た。

 

コップはあたしの頭にあたり

そのままバウンドして部屋の柱にあたり

バリンと割れた。

 

その音と母の威力が怖くて怖くて

コップの当たった頭が痛くて

 

「ママ あんずちゃんは大丈夫だよ」

 

と言うと

 

母は「うるさいガキ―」と発狂した。

 

そして力づくで

あたしの腕を掴むと

力づくで押し入れに閉じ込めようとした。

 

泣かないあたしに母もむきになって

お腹を蹴り飛ばした。

 

「いやだ。やめてママ。」

 

何度言っても母には伝わらず

我慢していたおしっこを

垂れ流した。

 

そしたら母は「ほんまに仕事を増やす子やな」と

平手打ちをして「中に入れー!」と

また発狂した。

 

そして押し入れに入ると暗闇と狭さで

このまま死んでしまうのかという恐怖が襲って来て

ポロポロと涙がこぼれた。

 

いくらあけようとしても閉じられた襖の外で

母はワンワンと声を出して泣いた。

 

ひたすら母が泣いてるのを聞いて

狭くて暗くて怖いけどこの襖を開けたら

もっと怖い気がして

じっと体育座りをして

母が泣き止むのを待った。

 

あけてもらえたのは夜母が仕事へ行く寸前。

 

「あんたお風呂入って着替えしときーよ」

 

自分のおしっこの匂いでぐちゃぐちゃなパンツを

そっと洗濯機に入れてふたをパタンとしめた。

 

 

-------------

 

 

あたしは未だに

「大丈夫 大丈夫」と

言ってしまう時が多い。

大人になっても

たいがいのことは

大丈夫と過信してる部分もある。

でもダメな時でも

「大丈夫」と言ってしまう。

 

そんな時に主人は気づく。

「大丈夫ではない」と。

 

この人にあたしは救われた

そんな気さえする。

 

主人に救われ

子供たちに人間として

育ててもらっている。

 

その気持ちがあれば

あたしはこの先もきっと

「大丈夫」と

それは胸を張って言える。

 

 

「大丈夫」