求道者~二つの力を追い求めた漢達の記録~ | 心よろず屋

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常態行動心理学者の瀬木と申します。
此処では心に纏わる様々な事をテーマに日々綴ります。
心に纏わる凡ての事にお答えを差し上げます。
貴方の心の宿り木は此処に有ります。

人は弱い、固い鱗も鋭い牙も超人的跳躍力もない。
人間に許されたのは知恵を持つ事のみである。

人間が地上の覇者となれたのは
知恵が他の生物よりも優れていたからに他ならない。

故に人間はその特性を最大限に活かして
文明を築き時代を切り開いてきた。

そして現代の人間社会が形成されたといって良い。

力に優劣があるように知恵にも優劣がある。
然し実際には力にも知恵にも優劣は存在せず、
唯、その方向性が違うのみであり優劣は存在せず。

然し愚かな人間は本来あるはずのない優劣を産み出した。
其は己の弱さを隠す為である。

或る者は力を求めに求めた。
人はその怪力に驚き、その力に戦いた。

或る者は知を求めに求めた。
人はその知力に驚き、その知力に戦いた。

その両者が遂にぶつかる時が来た。
誰の目にも勝者は明らかに見えた。

屈強な力自慢の男と知力のみに秀でたひ弱な男。
誰も知力に秀でた彼に期待を抱く物は居なかった…
嫌、一人だけ居た。

彼の婚約者だけは彼の勝利を確信していた、
正確には祈り続けていた。

試合が開始され力を追い求めた男は
一気に知を追い求めた男に襲いかかっていった。

だが何故かその攻撃は全て空を切り
一撃たりとも知を追い求めた男には当たらなかった。

力を追い求めた男は焦りだし
尚も攻勢を強め猛攻撃を仕掛けていった。

然しその攻撃は全て紙一重で交わされ
やはり一撃も食らわせる事は出来なかった。

徐々に疲れが見え始めた力を追い求めた男に対し
知を追い求めた男は息の乱れさえない。

観客の目が段々と知を追い求めた男に向き始めた。

実は此の試合は裏で賭け事として扱われていた。

大方の予想通り力を追い求めた男が
勝つようになっていたのだが此処で風向きが変わった事に気付いた胴元は裏で画策し知を追い求めた男を何とか
負傷させその動きを止めようとしたのである。

そこで吹き筒に毒矢を仕込み観客に紛れて
知を追い求めた男に向けて発射した。

背後から放たれた矢はそのまま
彼の背中へ向けて真っ直ぐ伸びていった。

何かキラリと光る物を見つけた力を追い求めた男は
それが毒矢だと気付いた。

そして業と知を追い求めた男を高く飛ばせ
その矢を体に受けたのである。

地に降り立った知を追い求めた男もそれに気づき
直ぐ様駆け寄った。

何故こんな馬鹿な事をした、そのままにしておけば
お前は俺に勝てたかもしれぬのにと。

卑怯な真似迄して俺は勝ちたくない、
胴元は是が非でも俺を勝たせたいようだが、
卑怯な真似迄して勝ったとしても
其は力で勝った事にはならない。

俺は力こそ最強だと世に知らしめたかった、
だから卑怯な真似はしたくないと。

事は露見し試合は中止、八百長を企てた胴元は捕縛。
掛け金は元の持ち主にそのまま返金され試合は終わった。

其から程なくして戦争が始まり力を追い求めた男は
武将として活躍し、その彼を陰で支えたのは
言うまでもない知を追い求めた男であった。

彼らの活躍により戦に勝利し
人々は力も知も両方大事である事を知った。

何より正直である事を尊ぶようになったと言う。