場面も感情も、細部まで妙に具体的で、夢特有の筋の通らなさがありながら、どこか現実と地続きのような感覚が残っている。
古い家への引っ越し
夢の中で私は、古い一軒家に引っ越すことになっていた。
どうやら一人暮らしではなく、何人かとの共同生活らしい。
私に割り当てられたのは2階の部屋。
八畳ほどの広さで、畳敷き。壁際には大きな本棚があり、長年使われてきた家独特の、少し湿ったような匂いがする。
決して新しくはないが、妙に落ち着く部屋だった。
「まあ、悪くないな」
そんなことを思いながら、引っ越し初日のざわざわした気分を抱えつつ、隣人と一緒に外へ食事に出ることになった。
鉄塔に登る人影
近所のご飯屋さんは人気があるらしく、私たちは店の前で並ぶことになった。
順番を待っていると、ふと視界の端に違和感が走る。
見上げると、大きな電線用の鉄塔がそびえ立っている。
そして、その鉄塔を――人が登っている。
「あそこ」
思わず指をさして声を出すと、隣にいた友人も同じ方向を見上げた。
人影はどんどん上へ、上へと登っていく。思っていた以上に高い。
次の瞬間だった。
人影が、落ちた。
「……今、落ちたよね?」
自分の声が、やけに遠く聞こえた。
友人は何も言わず、ただ大きく目を見開いて頷いた。動揺が隠せていない。
一瞬、時間が止まったような空気になる。
ところが――
しばらくすると、地面に落ちたはずの人影が、何事もなかったかのように動き出し、別の鉄塔へ向かって歩いていくのが見えた。
「……何かの仕事、なのかな?」
現実感のない光景に、二人で首を傾げるしかなかった。
結局、誰も騒ぎ出すこともなく、そのまま私たちは店に入り、普通にご飯を食べた。
この時点ですでに夢らしいのに、夢の中の私は、それを深く疑うこともなかった。
消えたトイレ
家に帰ると、急に強い便意を催した。
トイレを探して廊下を歩くが、どこにも見当たらない。
「え、トイレないの?」
焦りながら、隣の部屋をノックする。
出てきた住人に事情を説明すると、なぜかあっさりした顔で言われた。
「ここだよ」
案内された部屋には、テレビとオーディオ機器が置いてあり、その周囲に本やカップ麺の空き容器が散乱している。
完全に生活感の塊だ。
言われるがまま、それらを片付けると――
そこに現れたのは、驚くほど小さなトイレだった。
しかも、なぜか便器には箸が突っ込んである。
理解が追いつかないまま、友人にじっと見つめられ、妙な緊張感に包まれながら用を足す。
夢とはいえ、かなりの羞恥プレイである。
届いた謎のDVD
ようやく自分の部屋に戻ると、今度は宅配便が届いた。
受け取って箱を開けると、中に入っていたのは一本のDVD。
タイトルを見て、思わず声が出た。
「東京リベンジャーズ外伝 刈谷喧騒編」
「東京リベンジャーズなのに、愛知県刈谷市……?」
ツッコミどころ満載のタイトルに、強烈な違和感を覚えた瞬間――
目覚め
そこで、目が覚めた。
天井を見つめながら、しばらく現実に戻れずにいた。
鉄塔から落ちても平然と歩く人。
テレビの横に隠されたトイレ。
箸の刺さった便器。
そして、存在しないはずの「刈谷喧騒編」。
どれもおかしいのに、夢の中では妙に納得して行動していた自分がいる。
目覚めた今、こうして書き出してみると、
この夢は「引っ越し」「共同生活」「見知らぬ土地」「違和感を受け入れてしまう感覚」――
そんな不安と好奇心がごちゃ混ぜになった、頭の中の整理箱のようにも思える。
意味があるのか、ないのかは分からない。
ただ一つ言えるのは、
やたらとリアルで、妙に愛知県刈谷市が主張してくる夢だった。
次に見る夢は、せめてトイレの場所が普通であることを願いたい。
