「あしたへフリーキック」の手抜きにならない使いまわし | はばら研ブログ

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アニメーター・アニメ監督の羽原信義さんのファンブログです。

「あしたへフリーキック」第26話で、主人公・隼の祖父である修造は、
隼への想いを、来訪者たちへ語る。大企業体の会長でもある彼は、執務室
で回転式の椅子に腰掛け、出入口とは逆方向のおおきな窓の外を見ている。
話が熱を帯びるとともに、彼は椅子を回転させ、来訪者のほうをカメラ目線
でふりかえる。そのまま語ってゆくのかと思いきや、修造はもう一度、さっき
と同じアングルで出入口のほうをふりかえる。いつの間にかまた窓のほうを
向いていたらしい。まるで彼が回転式の椅子でくるくると遊んでいるかの
ような、ふしぎな映像だった。

「あしたへフリーキック」は、大きく分けて3つのパートで構成にされている。
とくに目的もなかった少年・隼が友だちの付き合いできた土地でサッカー
と出会い、やがてその土地を去る第25話まで。世界各地を放浪するなか
で、隼がサッカーのほんとうのおもしろさを知ってゆく第34話まで。
そして以降は、隼や周りの人々がプロの世界を目指し、しずかに情熱を
高めてゆく物語が、最終第52話まで続いてゆく。

第26話「ローラーコースター」は、第25話までに隼が出会った人々が、
彼の不在に想いを馳せるというエピソードだ。映像は、前回までの膨大な
フィルムからピックアップされた画面に新しいセリフをあてたものと、
新作カットとで構成されている。まるで回転式の椅子で遊んでいるような
修造のふしぎな行動も、本来はちがう流れでつくられた映像を、順番を
入れ替えてつなげているためだ。

それまで築き上げられた人間関係をふりかえる大切な一本であり、作画監督
はキャラクターデザインの羽原さん、脚本、絵コンテ、演出は、アミノテツロー
監督自身が手がけている。

エピソード終盤、隼のいたゴダイユースは、ライバルチームと試合をする。
試合のあいだも、いつか観た映像が次々と映し出されてゆく。けれど、
どこか落ち着かないものがある。修造の椅子ほどではないが、なにか
違和感がある。

やがて、試合を見つめていたヒロイン・みづほは気づく。コートを走る
誰もが、いまはいない隼の姿を探していることに。

一見、かつて同じ絵で描かれた試合と、天気も、選手たちの表情も同じだった。
しかし、かつての試合での、隼がいた画面は、ぽっかりとなくなっていた。
「隼はいなくなってしまった。」その事実が言葉だけではなく、映像のスタイル
そのものを通して伝えられていた。
同じように見えた選手たちの「熱さ」も、以前の、彼らがまだあまり隼を知らなか
ったころの試合のそれとはまったく種類がちがっていた。同じような映像、すで
に知っている映像だから感じる、せつなさがあった。

■「あしたへフリーキック」第26話メインスタッフ■

脚本・絵コンテ・演出 アミノテツロー
作画監督 はばらのぶよし
原画 阿部浩美、羽原信義

製作協力 ユーメックス
製作 葦プロダクション
制作著作 葦プロダクション、NTV

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