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P&G式伝える技術 徹底する力―コミュニケーションが170年の成長を支える (朝日新書)/朝日新聞出版

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P&G式 伝える技術 徹底する力
コミュニケーションが170 年の成長を支える

1837年の創業以来、170 年にわたって成長を続けるP&G。その成功をもたらした「コミュニケーション力」について解説する。
● P&G は、革新的な技術開発や、多様なマーケットへの柔軟性など、優れたノウハウを多く持つ。こうしたノウハウの全てに共通するのが、「コミュニケーション力」である。
● コミュニケーション力の礎となるのは「論理力」である。この力を、P&G の社員は次のような方法で高めている。①伝えたいことは、3 点にまとめてから伝える。②全ての活動において、その目的を明確にする。③本質的な課題、論点を明確にしてから、物事に取り組む。
● 消費者とのコミュニケーションの徹底が、P&G の成功の秘訣である。そのノウハウとしては、次のようなものがある。①「Consumer is Boss 」を合言葉に、商品の機能や広告の仕方など、消費者に接する全ての項目において、消費者が何を求めているかを基準に、どうするかを決める。②「ブランドビルディング=自ら強力なブランドを作ること」の実践。製品だけでなく雑誌やパンフレットなど、全ての消費者接点で各ブランドの理念などを伝達し続ける。③消費者を意識した企業広報 ――「P&G の企業ブランディング」の実施。これは、信頼できる企業かどうかを、消費者が知りたいと思い始めていることに伴うものである。
● P&G が成長し続けられるのは、次のような考え方や取り組みが、社員に徹底されているためである。①常にナンバーワンになることを目指す。②組織やプロジェクトの「簡素化」と、物事を実行する「スピード」を追求する。③社員1 人1 人がスキルを高め続ける。

論理的コミュニケーション力の磨き方
現在、P&G は生活消費財の分野では世界最大の企業で、世界全体での売上は約800 億ドルに上る。世界80 カ国以上に事業拠点を持ち、140 の国と地域から集まった13 万人の社員が、共通理念の下に協力し合い、P&G を支えている。こうした世界中の人材を1 つに束ねる組織力、そして革新的な技術開発、多様なマーケットへの柔軟性…。これらP&G の優れたノウハウの全てに共通するのが、「コミュニケーション力」だ。P&G は社員のコミュニケーション力を高めることで、個々人の力を引き出し、組織力を高め、市場での成功を実現し、成長を続けているのである。このコミュニケーション力の礎は「論理力」だ。自分の考えを論理的にまとめる力。それは、組織人としての重要なスキルである。では、P&G は、社員1 人1 人の論理的コミュニケーション力をどのようにして高めているのか。①「3 つにまとめる」のがP&G のコミュニケーション「話は、3 つのポイントにまとめなさい」。P&Gの新入社員は、これを徹底的に叩たたき込まれる。例えば、新製品の販売状況を上司に報告する時は「①新製品の売上、販売量の推移は共に予定通りです。②商品の特徴がターゲットに明確に伝わっていると確認できています。③来週はリピート購入が始まりますので、来週が重要です」と話す。このように、伝えたいことを3 点にまとめて伝えるのが、P&G のコミュニケーションの真髄だ。そして、その3 点の構成はケースにより異なる。結論を伝えて合意を得たい時は「①背景、②結論、③理由」、自分の意見を上司に伝えたい時は「①結論、②理由、③今後のプラン」など様々だ。「3 つにまとめる」ことが効果を発揮するのは、状況が複雑な時である。組織は、情報が整理されていない状態の時に最も時間を浪費する。例えば、何らかの問題が起きると、あまり重要でない情報に誰かが反応して、余計なところに組織のエネルギーが注つぎ込まれてしまい、なかなか解決に向かわないということが起こりがちである。ここで大切なのは、その状況をわかりやすく端的にまとめ、認識の統一を図ること。例えば、①問題の本質は何か。②ビジネスへのインパクトはどれだけのものか。③これからやるべきことは何か。こうしてまとめると、組織内での認識統一を図ることができる。そして組織のエネルギーはしかるべきところへ向けられて、解決に向かう。②「目的」へのこだわりが結果につながる「今回の新製品発売の目的は?」「この販売促進企画の目的は?」…。P&G では、こんなやり取りが、毎日、あらゆる場面で繰り広げられている。P&G の、目的へのこだわりは徹底している。例えば、全ての書類は目的を明確にする1 行から始まる。企画書であれば、企画のタイトルのすぐ後に、その企画の目的が明確に書かれている。では、なぜそれほど目的にこだわるのか?それは、P&G には論理的に仕事を進めようという「考え方」「文化」があるためだ。全ての活動で、その目的を明確にする。そして、何をやるかは目的に基づいて考える。その結果、全ての活動の意味が明確になり、全ての活動がどのような形でビジネスに貢献するかが明確になる。より良い結果を出すためには、この方法が極めて有効である。③「イシュー(論点・課題)」を明確にするP&G には、会話の中で頻繁に使う「P&G 言葉」と呼ばれるものがある。その1 つに、「イシュー( Issue:論点・課題)」という言葉がある。例えば何人かで話を始め、あれも問題だ、これも問題だ、などと様々な話が出てきて混乱し始めると、「で、イシューは何?」と誰かが切り込む。このようにイシューという言葉を使うことによって、論点や問題点を明確にし、取り組むべきことを明快に定義できる。課題が明確になれば、それに最も効果的な対処法を考えればいい。本質的な課題、論点、問題点は何なのか? じっくり考えてみれば、必ず明確になる。それが明確になれば、するべきことは何か、自ずと答えを導き出すことができる。

消費者とのコミュニケーションの徹底
P&G はマーケティングのノウハウが優れていることで知られているが、それは、どんな広告を展開するかというだけのノウハウではない。「消費者がボス( Consumer is Boss )」を合言葉に、マーケットとコミュニケーションすること。それがP&G が有するノウハウであり、長年にわたる成功の秘訣である。①ボスは誰なのか?例えば、プロジェクトの担当者が、新商品を紹介するコピー2 案のうち1 つを選ぶため、上司の了解をもらいに行く。部下が「この2 つのコピー案ですが、こちらを進めてもいいですか?」と尋ねると、上司が言う。「君のボスは誰?」。そう言われて部下は気づく。「わかりました。すぐに消費者インタビューをして、どちらが消費者の心に響くかを調べてから進めます」。冗談のように聞こえるが、実際多くのP&G 社員が、このやり取りを経験している。P&G では、商品の機能、色、香り、広告のアイデアなど、消費者に接する全ての項目において、消費者が何を求めているかを基準に、どうするかを決める。上司の私見ではなく、消費者のデータによる判断がP&G の成功を支えているのである。②ブランドビルディングで心をつかむP&G は自らの強みを、「ブランドビルディング=自ら強力なブランドを作ること」と表現する。事実、P&G は世界での売上が10 億ドル以上のブランドを23 も持つ。強いブランドを育て、そこに経営資源を集中するのが、その戦略だ。ブランドは消費者とのコミュニケーション、いわば消費者との心理的な結びつきを意味する。従って、強いブランドを作るには、消費者との全ての接点にそのブランドの理念を反映し、一いっ気き通つう貫かんしたコミュニケーションを展開する必要がある。そうすることで初めて、ユーザーの心に「結びつく」、強いブランドになることができる。例えばP&G の化粧品ブランド「SK-Ⅱ」は、ユーザーにおけるブランドへの信頼が非常に高い。それは、これまでに提供した製品における確かな効果と、品質の積み重ねで築かれたブランド力による。だが同時に、ウェブや雑誌、パンフレットなど全ての消費者接点で、ブランドの理念などを仔し細さいに伝達し続けることで、ブランドの世界観を表現することに成功したことも要因である。③どんな企業なのかを知りたい消費者上述のように、これまでP&G はブランドマーケティングで事業を展開し、P&G という企業自体をブランド化しようとはしなかった。だが最近、「P&G の企業ブランディング」を始めるようになった。それは、消費者が変わりつつあるからだ。ブログ、SNS、ツイッター等のソーシャルメディアの登場によって、消費者の声が大きくなった。仮に、企業に何か問題が起きれば、その影響を被った一部の消費者がソーシャルメディア上に不満を爆発させる。そして、その他大勢の消費者は企業の対応を見て、その企業を評価する。このような企業を取り巻く環境変化において、消費者は、その企業が信頼できるか否かを知りたいと思い始めている。そのため、常に適切な広報活動を消費者に向けて行うことは、大変重要になってきているのである。

大企業病を防ぐ秘訣
大きな企業が成長を続けるのは簡単なことではない。P&G がそれを実現できたのは、恒常的な成長を可能にする組織作りをしてきたためだ。ここにも、P&G が独自に行ってきた社員全員に対するコミュニケーションや、徹底されている考え方、取り組みがある。①「2 番ではダメなんです」民主党政権が始めた「事業仕分け」の中で、印象的な質問があった。「1 番じゃなきゃダメですか? なぜ2 番ではダメなのですか?」。何年か前、P&G 社内でも全く同じ質問を、ある管理職の社員が社長に投げかけた。社長は言った。「P&G は、重要と考えるカテゴリーではナンバーワンを目指します。ナンバーワンでなくて満足するのは、P&G ではありません」。では、なぜ1 番を目指すことが重要なのか。これも、P&G が世界中の全社員を束ねる優れたコミュニケーション力の1 つといえる。1 番になるということはとてもわかりやすい目標で、社員が同じ思いを共有して、「皆で力を合わせて頑張る」理由を明示することができる。夢を感じられる目標を掲げれば、社員のモチベーションは劇的に上がる。そして、それを達成することで組織に大きな満足感と自信をもたらす。また、1 番になるためには戦略が必要だが、そこでもP&G の思考は世界で統一されている。キーワードは「自分たちの強み」だ。米国版のホームページでは、P&G が自ら優れていると信じている強みを明記している。それは「消費者とマーケットの理解」「イノベーション力」「ブランドビルディング力」「市場での展開力」「グローバルスケールを活かす力」の5 つだ。ここで重要なのは、この5 つを自分たちの強みとして公表しているということが、全世界の社員に対するメッセージだということである。つまり、「全ての新商品には、この5 つの能力が全面的に活かされていなければならない」ということだ。このようにしてP&G は、強みを強みとして持ち続けているのである。②自分たちは大きな象P&G は90 年代の終わり頃から、大きくなりすぎたことに危機感を覚え始めた。自分たちは素早く動けない大きな象であり、それはペースの早い消費財ビジネスでは「弱み」になるという意識だ。その原因は、組織が巨大化したことで、マネジメントの階層が増えたことにある。ここでP&G は、致命的な状態を回避するための2 つのメッセージを社員に発した。・組織やプロジェクトの進行を複雑化させている要素をできるだけ取り除き、簡素化する。・自らの取り組みを見直し、スピードを追求する。それから10 年以上経った今、「簡素化」と「スピード」の追求は全社員に期待されるようになった。つまり、難しいことを簡単にすることができる、ということが能力を測る1 つの指標になっていて、スピーディーにプロジェクトを動かせる人が優秀なリーダーとして認められるのである。これを徹底することで、P&G は日々、大企業病に陥ることを防いでいる。③ 1 人1 人が力をつける以上、P&G の優れたコミュニケーションのノウハウを紹介したが、P&G を力のある会社にしているのは、紛れもなく1 人1 人の社員の力だ。常に1 番を目指すということを、社員の個々人が「自分のこと」として取り組んでいるからこそ、P&G の企業としての力が実現するのである。そんなP&G の社員は、「仕事ができるようになる」ために、2 つのことに取り組む。1 つは「専門的なスキル」の習得だ。P&G では専門性を重要視し、採用の時から部門別の採用で、ジェネラリストを養成するようなシステムはない。例えばマーケティング部門を希望して入社すれば、マーケティングの専門能力を身につけ、経験を積む。だからこそ、自分の専門分野で自分の価値を高めるということへの意識が非常に高くなる。そしてもう1 つ、全社員が「ビジネススキル」への高い意識を持っている。他者に影響を与える方法などの個人的なスキルから、マネジャーとしてのスキルなど、常に何かを学ぼうと励んでいる。全社員がモチベーションを持って業務に取り組み、組織として最大の成果を出す。そのためにはまた、1 人1 人の「役割」が明確である必要がある。役割が明確なら本人が努力すべきことが明確になり、頑張ろうという意識を持つことができる。人が育ち、人を育てる組織であるためには、その大切さを全社員が共有する必要がある。そして、それは多くの言葉を通してではなく、実際に業務を進める中で伝わり、価値観として共有される。人を育てることがどれほど大切なことかについては議論の余地はない。後は、何を、どれだけ具体的にしていくか、が問われる。その積み重ねこそが、P&G が170 年間成長を続けてきた秘密である。大切なことを徹底して繰り返すこと。そこに成功の秘密がある。