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クロネコヤマト「個を生かす」仕事論: “伸び続ける集団”の「発想・行動・信念」/三笠書房

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クロネコヤマト「個を生かす」仕事論
“伸び続ける集団”の「発想・行動・信念」

「宅急便」のノウハウをベースに、ビジネスの幅を広げ続けるヤマトホールディングス。「時代の変化に対応できる強い集団」はいかにしてつくられたか、会長自らが語る。
●「強い集団」は強固な「理念」に支えられている。ヤマトホールディングスの場合、それは「世のため人のためになることをする」「お客様のためになることをする」というものである。
● 同社は、「お客様のため社会のため」の実現 → 利益の順でビジネスを考える。宅急便も、価格の安さ、到着時間の速さの実現を念頭に、検討を重ねた末、利益の出る事業とした。同社の根底には、このように社員が考えに考えを尽くす文化がある。
● 創業時の精神が薄れるのを防ぐため、同社では研修時などに『感動体験ムービー』という映像を上映している。社員が「仕事をしていて感動したこと」をまとめたもので、これにより、仕事の先に「喜んでくれているお客様がいる」という事実を認識させている。
● 事業のさらなる多角化とスピードアップのため、同社はホールディングス制へ移行した。このように、会社のあり方といった根本的な構造変化を続けていかないと、いずれお客様を満足させるサービスを生み出せなくなる。
● 同社では、課題が見つかった時、コンサルタント会社に委託せず、自分たちで徹底的に考える。こうして考えを尽くせば、たとえ結論にたどり着けなくても、派生して色々なアイデアが生まれるなど、そこまでのプロセスが会社の財産になる。
● 同社は、1 人の優秀な人間を育てるより、全ての人間がそれぞれの個性で考える「文化」をつくりたいと思っている。そうすれば1 つの事業が行き詰まっても、誰かがそれに代わる事業をつくり出すことができる。このように臨機応変に変化ができるのが、本当に強い集団である。

「個を生かす集団」の仕事論
私は社会人になって40 余年間、現在のヤマトホールディングス一筋で仕事をしてきた。当社の主力商品である「宅急便」のシェアは全国で40%を超えるまでにご利用いただいている。だが、私が入社した1970 年当時の大やまと和運輸( 82年にヤマト運輸と改称)は、運輸業界の中でも2番手のグループに甘んじていた。そんなヤマト運輸を一気に変えたのが、小お倉ぐら昌まさ男おだ。小倉は、当社を単なる運送業者から、宅急便を基盤とするサービス業者へと生まれ変わらせた。小倉の存在抜きに、今の当社はありえない。だが小倉亡き後も、当社は進化し、幸い成長を続けることができている。なぜか?1 つは、小倉の理念を受け継ぎながらも、それに甘んじることなく、時代の変化に対応できるように、自分たち自身を積極的に変えてきたこと。もう1 つは、社員が自発的に動き、1 人1 人が新しいアイデアを出して形にするという、当社の「組織の力」「集団の力」である。サービスの質を向上させる。新しいサービスを生み出す。より広くご利用いただくための方法を考える。当社では、これを全社員が行っている。そうした集団をつくり、維持してきたからこそ、“今”につながる成長があるのだと思っている。●「普通4 4 の社員が最高4 4 の仕事をする」会社ところで、「強い集団」とは、一体どういう組織のことをいうのだろうか?まずは、しっかりとした「理念」に支えられている集団であるということだ。会社は、能力の高い社員ばかりを集めれば、成長するわけではない。集団が1 つの目標に向けて、一致した思いを持てることが一番大事なのだ。しかし、ただ経営者がやみくもに理念を掲げればいいというものではない。「DNA 」のように個々の社員に浸透させることができて初めて、理念は社員の気持ちを結びつける要かなめとなる。では、当社の理念とはどんなものなのか?当社の人間が繰り返し言われるのは、ただ「世のため人のためになることをする」ということ。現場では「お客様のためになることをする」という、ただそのひと言だけだ。小倉昌男の時代の経営理念でも、「サービスが先、利益は後」という原理原則がはっきりうたわれている。「お客様のため社会のため」で意思統一できる会社組織があるとすれば、それ以上、強固なものはない。なぜならここには、個人が仕事で叶かなえられる究極の目的が含まれているからだ。「世の中のために何かをする」時、仕事を通して手に入れられるのは自分自身の存在価値、「やっていてよかった」という“究極の満足感”だ。それを体験した社員たちが、夢を持って日常の仕事に励む。企業が成長する原動力として、これ以上のものはないと思う。●「お客様だけでなく社員も満足する」仕組み仕事が「お客様のため社会のため」であるという考え方は理解できる。しかし、現実的に人事の評価対象になるのは儲けを出した社員ではないのか? 「お客様のため」というのは理想論ではないのか? そう考える人も少なくないだろう。そこで当社では、これが理想論に終わらないよう、様々な試みを行っている。その一例が「満足BバンクANK 」だ。これは「お客様のために創意工夫している社員がいる」「あの人がお客様に褒ほめられた」など、「いいこと」をした人を見つけたら、それを社員が申告する制度だ。評価は点数に換算され、「満足BANK 」と名づけられたデータベースに記録される。褒めた人にも「満足ポイント」と呼ばれる点数が加算される。褒めたら3 点、褒められたら10 点がルールだ。そしてポイント数に応じ、「ダイヤモンド」「金」「銀」「銅」の4 段階のバッジがもらえるようになっており、特に点数の高い社員は専用のホームページに掲載される。荷物をいくつ運んだかは記録に残るが、出先でお客様に喜んでもらったとか、褒められたということは数値には残りにくい。だが、本当はそういう「小さなこと」こそ、仕事の原点にあるものとして評価をするべきではないだろうか。● 全ては試行錯誤の中から…宅急便を開発し、成長させることは、難解な問題解決の連続だった。当たり前の話だが、お客様はコストが安く、到着までの時間が短い方が嬉しい。だが、「ならば、その通りにしよう」と、大量の人員を雇い、価格をディスカウントしたら、赤字になってしまう。人員はこれ以上増やせない。ならば多くの営業所を用意するのはどうか。ただし、自前で多くの店舗を出すとコストが増えすぎるので、どこかに代理店になってもらえるよう、交渉しよう…。現在の当社のサービスは、全てこうした試行錯誤の中から生まれてきたものだ。私たちは「世のため人のため」「お客様のため」を実現したい。だが、そのままでは利益が出ない。では、どうしたら実現できるか、という順で考える。つまり、「お客様のため社会のため」を実行することを前提に、では「利益は後」をどうやって実現するかを検討する、という方式だ。考えることをやめなければ、方法は必ず見つかる。そして「お客様のため」である以上、そこにはニーズがあり、利益が出る事業は必ず成立する。当社の根底にあるのは、このように現場の社員1 人1 人が、考えに考えを尽くす文化なのである。そうした文化を定着させられれば、いかなる場合にも“最高のサービス”は実現できるはずなのだ。●“やりがい”と“充実感”は「感動体験」から生まれる経営者がどんなに素晴らしい理念を掲げても、それを組織に浸透させるのは難しい。当社の場合、小倉昌男という強いリーダーが会社を築いたといえる。こういう場合、トップの行動や言葉がそのまま会社の文化になっていく。しかし、“強いリーダー”という強烈な個性が失われると、次第に創業時の精神が薄れていくことは珍しくない。では、どうすればよいのか?例えば当社には、社員が何度も見る『感動体験ムービー』という社員研修用の映像がある。ここには小倉や経営陣は一切登場しない。ただお客様を相手に働く社員の行動と、セールスドライバーを中心とした社員の声が淡々と紹介される。簡単にいえば、「仕事をしていて感動したこと」をまとめたものだ。その一部を紹介しよう。―― 雪が積もった日でした。一人暮らしのおばあさんへの荷物がありました。東京に住む子供さんからの食料品のようです。そのお宅は、除雪されていない枝道にありました。上り坂で、重い荷物。積もった雪が長ぐつに入ってきます。(中略)玄関を開けたおばあさんは、私の歩いてきた2 本の線を見たとたん、みるみるうちに涙目になりました。そして玄関で三つ指をついてお礼を言われました。帰りは下りで手ぶらでしたが、それにしても足どりが軽かったのを、覚えています。ここに含まれているのは、「世のため人のためになること」という仕事の原点にある喜びを実感した社員の感動であり、伝わるのは「私たちはそういう仕事をしているのだ」という「誇り」だ。それがあるから、困難にぶつかっても、問題を乗り越えられる。そのことを脳裏にしっかりと焼きつけてほしいから、映像の力を活用して、仕事の先に「喜んでくれているお客様がいる」という事実を繰り返し認識させるのである。●「過去の自分」を超える法2003 年に私が人事部長になった頃から、当社はホールディングス制に向けて動き始めていた。グループ内に競争と協調をもたらし、事業のさらなる多角化とスピードアップを図るためだ。例えば、ホールディングス制によって生まれたヤマトオートワークスという会社がある。これは車両整備部門を切り離し、独立させたものだ。当社はこれまで多数の輸送車両を管理してきた。「車検の間に必要な代車がコスト増の原因になっている」という問題を解決するため、365 日営業24 時間体制での車検のシステムを整えてきた。昼間に走る車は夜に、夜の車は昼に車検を済ませることで、代車分のコスト増を防いでいる。この部門を独立させて別会社をつくり、サービスの対象を社外にも広げれば、新しいビジネスができるのではないかという発想が生まれたのだ。当社が宅急便の会社であることだけで満足していたならば、この発想は生まれない。すでに小倉昌男という経営者は退き、会社は新しい時代への対応を求められている。社員1 人1 人の働き方、会社のあり方といった根本的な構造変化を続けていかなければ、いずれお客様にご満足いただけるサービスを生み出すのが困難になってしまうのである。私が社長に就任した時、他にも旧体質は至るところに残っていた。そして私たちは、あらゆる小さなムダを取り除くことに専心した。例えば、この時期に変えたものに「制服」がある。「昔から使っている」ということで誰も気にしていなかったのだが、アパレル関係の友人に聞くと、非常にコストのかかる発注になっていた。そこで入札制にしたら、ペットボトルのリサイクル素材を利用したエコな生地で、吸水性、速乾性、防臭性、通気性、動きやすさが向上した上に、コストが60%もダウンした。たかが制服と思うかもしれないが、全社員で、着替えも含めて数十万着なのである。制服という“当たり前のもの”に注目した途端に、億単位のコストダウンが実現できた。重要なことは、「そこに今まで誰も気づけなかった」という事実なのである。社員1 人1 人が積極的に周りの状況を見て、問題を発見できるような組織をつくらねばならない。●“勝ち抜く”ために身につけるべき「力」とは?当社は年齢やキャリア、性別に関係なく、誰にでも平等にリーダーになる機会を与えようとしている会社だ。この時、基準となるのは、実務能力でも、人間的魅力でもない。「お客様のため」「世のため人のため」を真っ先に考えているかどうか、である。そして、人の上に立つ人間ほど「考えること」を何よりも要求される。もちろん経営には素早い判断が必要な場合もあるが、新事業の開始、会社の改革といった問題は、よくよく考え、試行錯誤したこと自体がよい結果を生み、結果として組織の財産になることが多い。当社は、何か課題が見つかった場合、基本的にはコンサルタント会社に委託せず、自分たちで徹底的に考える。外部に委託すると、それに頼って自身で考えなくなる。それが怖いからだ。一方で、自分たちで考えを尽くせば、たとえその時は結論にたどり着けなくても、そこまでに至ったプロセスそのものが会社の財産になる。派生して色々なアイデアが生まれたり、別のことで知識を生かせる面も出てくる。だからこそ目先の安易な結論に飛びつかず、集団全体として「考える力」の強化に努めるべきだ。● 進化し続ける会社の人材の育て方当社では社員が自由に提案できる場として、様々な会議・ミーティングを設けている。それらは、若手社員が経営マインドを学ぶ「次世代リーダー塾」、本社の経営陣が各地域の拠点に出向き、新事業の提案を受ける「グループエリア戦略ミーティング」などである。合わせると年間150 回程度が開催されているだろう。これら全ての会議・ミーティングに共通しているのは、社員と経営トップとが直接意見を交わせる場であることだ。こうした場は、会社の将来を担う人材の発掘・育成や、新サービス・新事業の創出に大いに寄与している。提案されるアイデアの中には、経営陣から見て、「あと少しだけ、こうすれば事業として成立するな」と言いたくなるような「惜しい」ものもある。だが私たちは決して、そこで自分の案を押しつけない。考える上でのスタンスといったヒントを示し、後は本人に考えさせる。すると最終的には、私たちが考えたものより優れた案を思いつく人間が出てくる。これこそ私たちが望んでいることだ。企業にはたえずカリスマ的なトップがいるわけではないし、時代はめまぐるしく変わっていく。だからこそ、私たちは1 人の優秀な人間を育てるより、全ての人間がそれぞれの個性で考える「文化」をつくりたいと思っている。そうすれば1 つの事業が行き詰まっても、誰かがそれに代わる事業をつくり出すことができる。優秀な1 人がいなくなっても、すぐ新しい人材が飛躍する。本当に強い集団とは、臨機応変に変化ができる組織なのである。