海で泳ぎたいけど、流石に一人ではしゃげるほどのガッツはない。
友達や家族と楽しそうに海で遊ぶ人々を、砂浜で座って眺める東洋人。
いやホントに、私を見てはニーハオしか言ってこない。
ノーニーハオ。
イエスコンニチハ。
私もアフリカの人々を見ても、どこの国の人か見分けがつかないのと同じように、
アフリカの人も、アジア系の顔を見てはみんな中国人だと思っている。
中華街ができるほどだから、アフリカに住んでいる中国人も想像以上に多いのかも知れないな。
そんなことを考えながら、海を眺める。
海、入ってみたいな。
そこへ二人組の青年が近づいてくる。できれば話しかけてほしくない。
と同時に、その時はやっぱり一人が寂しくて、仲間が欲しいと思っている。
「oh, Chinese!ニーハオ!」
あ、私中国人じゃないです。
否定するのも億劫で、危うく無視してしまうところだった。
こうして現地の人と話せることが楽しくて、嬉しいことのはずなのに、
何を無理しているのだろうか。
少しずつコミュニケーションを取っていく。
私がどこから来たのか。ダーバンに来た理由。いつまで滞在するのか。
発音が難しくて、彼の名前さえ思い出せないけど、
でも、教えてくれた。
ダーバン出身の彼。
いつか、外国人と話すのが夢だったそう。
「僕に話すチャンスをくれてありがとう。」
そう言った彼は、私と同じ22歳だった。
つまりナンパなので、5分も経たないうちに電話番号を聞かれたが、
あいにく私は携帯電話をホテルに置いてきていたし、
すぐに教えてしまうほど、口は軽くない😉
それよりも、私は海に入りたい。
彼と一緒に入れたのなら、なんて素敵なんだろう。
そう伝えると、一緒に行こうと言ってくれた。嬉しかった。
人生で初めて、エスコートしてくれた。
緊張したけど、間違いなくこの瞬間がダーバンで1番の思い出となる。
二人でお互いのことを話しながら、波を越えようとする。
大きくジャンプするんじゃなくて、少しだけ跳ねるんだ。
手を繋いで、何度も同じことを繰り返す。
ああ、こんな風に愛されたい。
全てを理解できるほど、私の英語力は備わっていないけど、
伝えたかったし、知りたかった。
携帯を持っていなかったから、写真も撮れなかった。
名前も忘れてしまった。
別れ際に連絡先も伝えたけど、もう連絡は来ない。
国境を超えて生まれた友情。ほんの僅かな恋心。
次の日もホテルまで会いに来てくれた。ホテルまで入って来ちゃったし。
入ってきちゃダメだろ。でも、もう会えないと思ってたからびっくりしちゃった。
二人で話してると、ホテルの従業員が疑って彼を追い出した。
私だってまだ疑っている。というか、信じちゃいけないでしょこんなの。
海で遊んだ記憶だけを、大切に取っておきたいんだ。
従業員が、私を呼ぶ。
彼とは一体どういう関係なのか聞いてくる。
君の責任だけど、個人情報をなんでも教えてはいけないよ。
何があるか分からないから、慎重にね。
安全第一だ。
そう言って、一対一で話してくれる従業員にも、心を打たれる。
めっちゃ心配してくれるじゃん。守ろうとしてくれるじゃん。
拙い英語で伝えてみるけど、難しいね。
一旦外に出て、22歳の青年と話す。
もっと会って話したいけど、みんな心配してるの。
あなたを疑ってるの。
私もずっとここにいるわけじゃないから、もう会えないかも。
こんな会話さえも、ダーバンの海に溶け込んでいく。
そんな悲しい顔をしないでほしい。
彼は何度も同じことを言っていた。
「君と話せてよかった。
話すチャンスをくれてありがとう。」
一夏の恋心。濃い思い出。
話しかけてくれて、ありがとう。