あらすじ
WORLD BASEBALL CLASSIC 2023で、史上初の日米決戦を制した侍ジャパンの栗山英樹監督は、小学生のころから“野球ノート”をつける習慣があった。その日の練習メニュー、気になったプレーを図解しながら書き留めたという。プロになってからも習慣化されていた"野球ノート"。北海道日本ハムファイターズの監督時代も必ずノートを開き、反省点を書き出し、頭脳を整理しました。「思いつめて、もがき苦しんで、考えを構築して、壊して、もう一度再構築してといった作業を繰り返していくうちに、心のなかで違う自分が立ち上がってくる」と。ついに果たしたWBC世界一、北海道日本ハムファイターズ、リーグ優勝2回、日本一1回の名将が書き綴った、門外不出の『栗山ノート』。


ひと言
読み終えて最後のページにあった栗山 英樹さんの紹介文を見て、ああ自分と同じ1961年生まれなんだ。調べてみると4月26日生まれで学年としてはひとつ下ですがとても親近感を覚えました。「世に伯楽有りて、然る後に千里の馬有り」という言葉はこの人のためにあったんだと思うようなWBCでの采配でした。感動をありがとう。ほんとうにおつかれさまでした。

私も自分が前に進むために本を開き、そしてこの本を書いていきます。一つひとつの文字をしっかりと頭に染み込ませ、私自身の熱意を吹き込みます。この本が皆さんの役に立つのかどうかは、私が判断することではないのだ、という信念のもとで。
(はじめに)

私の考える「泰然」とは、相手に我慢をさせないことです。意思表示の鍵を開けるために、力関係を形にしないように気を付けます。そのためには「覚悟」と「決意」が必要でしょう。どんな結果になってもすべて受け止めて、迷わず次の機会に挑んでいく覚悟を持つ。相手ができないことは自分の説明が足りなかったからで、他者を責めるよりもまず自分を見つめる決意を胸に秘める。仕事であれば、功成り名を遂げたい。家庭であれば、みんなが仲良く過ごしたい。けれど、私たちは一人ひとりが意思を持っています。自分の感情や欲求を押し付けるのは、衝突につながります。ごく近しい間柄でも、関係がこじれてしまうことがある。人間関係で軋轢を生じさせないために自分の気持ちを偽る必要はありません。2人でも3人でも50人でも100人でも、そこにいる全員がどうしたら前向きに生きていけるのかを突き詰めると、嘘をつかない、欲に走らない、相手の気持ちを考える、飽くことなく続ける、といったごく当たり前の行動をするでしょう。自分ではなく周りの人たちの利益を最優先にすることで、何事にも動じない心が宿っていくと思います。
(第1章 泰然と)

森信三先生の『修身教授録』のなかに、「天真」という言葉が出てきます。国語辞典による「天真」は自然のままで飾り気のないことで、「天真爛漫」も同じような意味です。森先生の考える「天真」を私なりに解釈すれば、「天」から授かった心のなかの「真」を、どうやって開発していくのか、表現をしていくのか、ということだと思います。
(第4章 信じ抜く)

2019年7月12日に開催されたオールスターゲーム第1戦に、私はパーリーグのコーチとして参加しました。この試合では阪神タイガースの原口文仁が9回に代打で登場し、2ランホームランを放ちました。1月に大腸がんを患っていることを公表した彼は、手術とリハビリを経て6月には1軍に戻ってきました。それだけでも驚くべきことなのに、オールスターゲームでホームランを打つとは!タイガースの本拠地・甲子園球場での第2戦でも、原口はレフトスタンドに打球を放り込みました。感動しました。闘病生活を送られている方はもちろん、いろいろな方に勇気と元気を届けてくれたと思います。ひたむきに頑張っている選手には、野球の神様が力を与えてくれるのだな、と改めて感じました。
(第5章 ともに)

人はひとりでは生きられず、誰かのために役立つために生まれている。家族と、友人と、同僚と、手を取り合い、支え合って生きていく。誰かに喜んでもらうことが、人生における最上の嬉しさになっていくからです。大切な人の笑顔と「ありがとう」という感謝の言葉は、金銭欲を、支配欲を、自己顕示欲を、物欲などを、一瞬にして消し去るほどの魅力があります。『論語』は「君子は人の美を成す」と教えていますが、大切な人が美しい心を育んでいくために、私たちは自分を磨いていくのだと思えてなりません。誰かが喜ぶ顔を見れば、次にやるべきこと、やらなければいけないこと、やってはいけないことがはっきりする。自分をつねに高めておかなければ、との決意に芯が通ります。
スポーツや勉強に打ち込む学生でも、初々しい社会人でも、定年退職後の人生を歩んでいる人でも、誰かを喜ばせることはできるはずです。プロスポーツの監督は、過程よりも結果で評価されます。シビアな競争社会と自覚していますので、私は2012年の就任から毎日を全力で駆け抜けてきました。監督生活がいつ終わっても後悔しないために、自分磨きを心掛けています。
(おわりに)