あらすじ
ある朝、目を覚ますと手首から腕にかけて「神様当番」と太くて大きな文字が書かれていた! 突如目の前に現れた「神様」を名乗るおじいさんの願いを叶えないと、その文字は消えないようで……。「お当番さん、わしを楽しませて」幸せになる順番を待つのに疲れた印刷所の事務員、理解不能な弟にうんざりしている小学生の女の子、SNSでつながった女子にリア充と思われたい男子高校生、大学生の崩れた日本語に悩まされる外国語教師、部下が気に入らないワンマン社長。奇想天外な神様に振り回されていたはずが、いつのまにか彼らの悩みも解決していて……。

 


ひと言
この前に読んだ青山 美智子さんの「月の立つ林で」がよかったのでもう一冊借りました。「お当番さん、みーつけた!」「わし? わし、神様」という設定も面白く、読了後、ほのぼのと温かい気持ちにさせてくれる本でした。

友達、かあ。私はいったん、スマホをテーブルに置いた。私は自分からフェイスブックの友達リクエストをしたことがない。それどころか、ごはんを食べようとか、映画に行こうとか、こちらから誰かを誘ったことはたぶん一度もない。自分から誘わないのは、ひとえに断られるのが怖いからだ。もしくは、断られないまでも本当はイヤイヤOKなんじゃないかと不安だからだ。知り合いかも。うん、そうだ。キタガワ……喜多川さんとは、知り合いかも。それが、ブルーのボタンを押すことでそんな簡単に「友達になる」ことなんてできるんだろうか。人の気持ちって、人間関係って、そんなにシンプルなんだろうか。今回のユイちゃんとのことみたいに、どっちかが片思いのうわべだけの関係がいっぱいあふれてるんじゃないか。
待てよ、と私はスマホを手に取り直す。私のタイムラインに喜多川さんか出てくるということは、彼女のほうにも私が「知り合いかも」で登場しているってことだ。咲良って名前は覚えていてくれてたし、共通の友達が梨恵になっているから、喜多川さんがその気ならあっちから友達リクエストをしてくれるかもしれない。そしたら私は喜んで承認ボタンを押して、一粒の不安も持たず友達になれる。私はうなずいてまたスマホを置き、箸に手をかけた。………でも。でも私、またこうやって、待つのかな。合コンでもワークショップでも、私はただ話しかけられるのを待っていた。楽しいことを、運が回ってくることを、ずっとずっと動かずに待っていた。このまま待つの? 誰の名前も、覚えようともしないで。
(一番 水原咲良(OL))

「ねえ、葵ちゃん。私、やっぱり白馬の王子様とも出会いたいよ」私が言うと、値札をつけ直していた葵ちゃんは聞き取れなかったようで、「なんか言った?」と聞き返してきた。「なんでもない」私は笑って首を振る。でも、王子様に迎えに来てもらうんじゃない。私も自分の馬に乗れるようになりたい。並んで乗るんだ、それぞれの馬に。そしていろんなところに行くんだ。時々、別行動でお互い好きなところに行って、どこかで待ち合わせたりするのもいい。私を楽しませるのは私。順番なんて、もう待たない。自分から世界に参加していこう。腕を伸ばして、この手でしっかりとつかんで。
(一番 水原咲良(OL))

中田はカメラにそっと手をやりながら言った。「好きな人に良く思われたくて、かっこつけて、がんばって、それでできるようになるのって、ちっとも悪くないと思うんだ」初めて見る中田の穏やかな表情を見て、思ったままの言葉が僕の口をついて出てきた。「……中田はさ」「ん?」「七回トライしようって思って、でも、八回トライしたんだな。そこが一番、すごいな」中田はくしゃっと顔を崩して満足そうに笑った。「おう、話せるじゃないか、友よ」中田はグーを突き出してくる。僕も笑ってグーを合わせた。友達みたいだった中田と僕は、これでリアルに、友達になれた気がした。
(三番 新島直樹(高校生))

視線を感じて振り返ると、菊子が立っていた。来てくれたんだ。腕時計を見ると、果たして、猫の目は針だった。「見てた?」「……うん」僕は菊子に近づいていった。「下手だろ」菊子はどうしたらいいのかわからない様子で、少しだけ笑った。「うん」ボールを脇に抱えたまま、僕は思いきり頭を下げる。「ごめん。レギュラーなんて、嘘なんだ。バスケ部には、おととい入り直した。これからがんばる」「おととい?」菊子はさすかに驚いて声を上げる。僕はしっかり菊子の顔を見て言った。「本当にごめん。自分の友達に菊子を見られたくなかったんじゃなくて、嘘つきな自分を菊子に知られるのか怖かったんだ。僕は、しょうもない男だ。嘘つきで、いくじなしで、見栄っ張りで。バスケ部を二日で辞めるほどの根性なしで、スクパのライブなんて申し込み方もわからなくて、YouTubeで雨の音ばっかり聴いてるようなダサいやつだ」菊子は、じっと僕を見ている。僕は言った。「菊子に、カッコいいって思われたかった」ほろっ、と一粒、菊子の頬に涙が伝った。「……アザミのアカウント、消しちゃってごめんね。ちゃんと話もしないで、一方的にごめんね。仲良くなりたいのは私だけで、直樹くんには嫌われちゃったと思い込んで、もう忘れようって。私、すごく弱虫なの。傷つくのがこわかったの。消したあと、すごく後悔した。やっぱり、やっぱりまた会いたいって。だから未練がましくネットからオクラのアカウソト名探して、それで……」僕はベンチにボールを置き、代わりに花束をそっと抱えた。
(三番 新島直樹(高校生))