あらすじ
「ネットがあるのになぜ本を読むのか」。そんな話もありますが、本当にそうでしょうか?私たちは日々情報には触れていますが、そこで何が残っているのかというと、ただ無為に情報を消費しているだけ、のような状況もあります。本を読むことでしか学べないことは、確実にあります。文学・読書の大家である齋藤先生が、今の時代だからこそ勧める「読書する理由」と、「人生と知性に深みをつくる読書」の仕方を紹介します。


ひと言
ひと月ほど前、「80歳の壁」を読んで、もっと新書を読まないといけないなぁということを強く思い、ネットで読むべき新書としてあがっていた本書の予約を入れました。齋藤 孝さんの本は以前にも読んだことがあるので、あまり目新しい感じはありませんでしたが、参考文献として色々な本が紹介されているので、今後の読書の参考にしたいと思います。

『なぜ美人ばかりが得をするのか』(ナンシー・エトコフ/著 木村博江/訳 草思社)は認知科学と進化心理学の知見をもとに「美」の謎を解き明かすという本ですが、この本によれば、進化の過程の中で、「生殖能力が高く、健康で、種の存続に最も適した姿形を美しいと感じる」ようになっているそうです。要するに、「美しい人=種の存続に有利な人」と判断されているのです。ですから、生物として美にこだわるのはもっともなことで、逃れられないものかもしれません。
(第1章 読書をする人だけがたどり着ける「深さ」とは)

高田(ジャパネット)さんが世阿弥の教えで最も感じ入ったのは「自己更新の考え方」だと言います。常に自分を成長させていく心構えです。象徴的な言葉の一つは、「初心忘るべからず」です。誰もが知っている言葉ですが、世阿弥の意図している内容は現代のそれとは少し違います。「初心忘るべからず」の「初心」とは、芸の未熟さのことです。自分が未熟であることを忘れず、常に自分を戒めなければ成長しないという意味が込められています。『花鏡』の中では、さらに3つの初心について書かれています。「是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」
入門したばかりの頃に感じる「是非=良い・悪い」の初心、経験を重ねる中でその時に合った演じ方を行なううえでの初心、そして老年を迎えてはじめて挑戦できる芸への初心。物事をはじめてから、経験を積む中でも常にその時々の挑戦があり、未熟さがあるということなのです。一流の認識力を持った人は、自分のやっていることにはまだまだ終わりがないと考えます。普通の人が「ここまで到達したらいいだろう」「もう先は見えた」と思うところでも、認識力のある人ほど、まだ挑戦すべきことがあると感じる。それだけ奥深さを認識しているのであり、だからこそ人生を楽しみ続けることもできます。
(第2章 深くなる読書 浅くなる読書 何をどう読むか)

『21世紀の資本』は、200年以上におよぶ膨大な資産や所得のデータを分析しているため、本のボリュームも増えてしまったというところがあります。この分析手法も評価が高いのですが、経済学の専門家でなければこれらの分析を丁寧に読み込む必要はないでしょう。でも、パラパラっと見れば「なるほどこれはすごいデータ量だなあ、よく分析したもんだなぁ」と思います。そして、最も重要なグラフを探します。ピケティがこの本で言っているのは、要するに「働いてお金を生み出すスピードより、お金がお金を生み出すスピードのほうが大きくなってしまった。金持ちはますます金持ちになり、格差は広がる一方。このままじゃ絶対追いつけないから、ハンデつけてもらわないとね」という話です。その一番の根拠となるグラフがあるのです。それを見つけて、そのあたりの文章を読みます。そうすれば、ピケティの話にじかに触れたことになります。自信を持って「あのグラフはすごいよね、あれを見ると一目瞭然だよね」といった話ができてしまうわけです。
(第4章 知識を深める本の読み方)


【参考文献】
『最強の人生指南書 佐藤一斎「言志四録」を読む』 粛藤孝/著 祥伝社新書
『なぜ美人ばかりが得をするのか』 ナンシー・エトコフ/著 木村博江/訳 草思社
『宮本武蔵』 吉川英治/著 講談社
『折り返し点』宮崎駿/著 岩波書店
『西欧近代科学』 村上陽一郎/著 新曜社
『魔女』 ミシュレノ著 篠田浩一郎/訳 岩波文庫
『ぼくらの七日間戦争』 宗田理/著 角川文庫
『五輪書』 宮本武蔵/著 渡辺一郎/校注 岩波文庫
『風姿花伝』 世阿弥/著 野上豊一郎・西尾実/校訂 岩波文庫
『新訳 星の王子さま』 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ/著 倉橋由美子/訳 宝島社
『発酵』 小泉武夫/著 中公新書
『この人を見よ』 ニーチェ/著 手塚富雄/訳 岩波文庫
『方法序説』 ルネ・デカルト/著 山田弘明/訳 ちくま学芸文庫
『論理哲学論考』 ヴィトゲンシュタイン/著 丘沢静也/訳 光文社古典新訳文庫
『君主論』 ニッコロ・マキアヴェッリ/著 佐々木毅/全訳注 講談社学術文庫
『饗宴』 プラトン/著 久保勉/訳 岩波文庫
『歴史とは何か』 E・H・カー/著 清水幾太郎/訳 岩波新書
『寝ながら学べる構造主義』 内田樹/著 文春新書
『ファスト&スロー』 ダユエル・カーネマン/著 村井章子/訳 友野典男/解説 早川書房
『理科読をはじめよう』 滝川洋二/編 岩波書店
『世界がわかる理系の名著』 鎌田浩毅/著 文春新書
『文系のための理系読書術』 粛藤孝/著 集英社文庫
『こども孫子の兵法』 粛藤孝/監修 日本図書センター
『21世紀の資本』 トマ・ピケティ/著 山形浩生・守岡桜・森本正史/訳 みすず書房
『E=mc2』 デイヴィッド・ボダユス/著 伊藤文英・高橋知子・吉田三知世/訳 早川書房
『ソロモンの指環』 コンラート・ローレンツ/著 日高敏隆/訳 早川書房
『宇宙は何でできているのか』 村山斉/著 幻冬舎新書
『日本思想全史』 清水正之/著 ちくま新書
『常用字解【第二版】』 白川静/著 平凡社
『アイヌ文化の基礎知識』 アイヌ民族博物館/監修 児島恭子/増補・改訂版監修 草風館
『欲望の民主主義』 丸山俊一 + NHK「欲望の民主主義」制作班著 幻冬舎新書
『資本主義の終焉、その先の世界』 榊原英資・水野和夫/著 詩想社新書
『人類の未来』 ノーム・チョムスキーほか 吉成真由美/インタビュー・編 NHK出版新書
『ホモ・デウス』 ユヴァル・ノア・ハラリ/著 柴田裕之/訳 河出書房新社
『新訂 福翁自伝』 福沢諭吉/著 富田正文/校訂 岩波文庫
『山頭火俳句集』 種田山頭火/著 夏石番矢/編 岩波文庫
『中原中也詩集』 中原中也/著 大岡昇平/編 岩波文庫
『人間失格』 太宰治/著 新潮文庫
『走れメロス』 太宰治/著 新潮文庫
『オイディプス王』 ソポクレス/著 藤沢令夫/訳 岩波文庫
『フロイト全集 4』 新宮一成/訳 岩波書店
『マクベス』 シェイクスピア/著 福田恒存/訳 新潮文庫
『こころ』 夏目漱石/著 新潮文庫
『ドン・キホーテ』 セルバンテス/著 牛島信明/訳 岩波文庫
『銀の匙』 中勘助/著 岩波文庫
『別冊NHK100分de名著 読書の学校 粛藤孝 特別授業「銀の匙」』 斎藤孝/著 NHK出版
『金閣寺』 三島由紀夫/著 新潮文庫
『東京オリンピック』 講談社/編 講談社文芸文庫
『詩のこころを読む』 茨木のり子/著 岩波ジュニア新書
『辞世の歌』 松村雄二/著 和歌文学会/監修 笠間書院
『夜と霧』 ヴィクトール・E・フランクル/著 池田香代子/訳 みすず書房
『ある明治人の記録 会津大柴五郎の遺書』 石光真人/編著 中公新書
『謹訳 源氏物語』 紫式部/著 林望/現代語訳 祥伝社
『論語物語』 下村湖人/著 講談社学術文庫
『論語と算盤』 渋沢栄一/著 角川ソフィア文庫
『マンガ 老荘三〇〇〇年の知恵』 蔡志忠/作画 和田武司/訳 野末陳平/監修 講談社+α文庫
『口語訳古事記「完全版」』 三浦佑之/訳・注釈 文藷春秋
『旧約聖書を知っていますか』 阿刀田高/著 新潮文庫
『新訳 弓と禅』 オイゲン・ヘリゲル/著 魚住孝至/訳・解説 角川ソフィア文庫
『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー/著 原卓也/訳 新潮文庫
『新版 徒然草 現代語訳付き』 兼好法師/著 小川剛生/訳注 角川ソフィア文庫
『自由への大いなる歩み』 M・L・キング/著 雪山慶正/訳 岩波新書