あらすじ
選考会で異例の満場一致!第127回文學界新人賞受賞作。松井まどか、高校2年生。うみちゃんと付き合って3か月。体重計の目盛りはしばらく、40を超えていない。――「かけがえのない他人」はまだ、見つからない。優しさと気遣いの定型句に苛立ち、肉体から言葉を絞り出そうともがく魂を描く、圧巻のデビュー作。
(第167回 芥川賞候補作)


ひと言
上に書いたように選考会で異例の満場一致の第127回文學界新人賞受賞。芥川賞は逃したものの候補作に選ばれた本書。もう読んでみるしかないっしょ ということですぐに予約を入れました。「N/A」って何?Amazonのカスタマーレビューでは「Not Applicable」「Not Available」の略号であり「該当なし」「利用不可」を意味する表現であるように、実際まどかは世間一般には該当しないような極めて個人的な思いを抱えている との記述が……。なるほど、納得。そういえばエクセルのエラーでも #N/A って見た記憶が……。年森 瑛(あきら)さんについても調べましたが、1994年生まれの女性としかわかりませんでした。もしこれを男が書いたのならちょっと引くなぁ。感想としては現代の若い女性をよく描いているとは思いますが好みの小説ではありませんでした。


中央で端と端を結ばれた二枚のカーテンが空気で膨らんでブラジャーになった。窓際の席で横面に胸を押し付けられながら、前から配られたプリントを受け取った。いつも通り読まれることなく家で揚げ物用の紙になるはずだった保健室だよりの見出しが目に入った。『低体重は月経が止まる危険性があります』『将来のために過度なダイエットはやめましょう』その日の夜から、炭水化物を抜くのが始まった。母に何か言われたら、食べ過ぎると眠くなって勉強や部活に身が入らなくなるから、と答えた。元々平均体重より痩せているほうだったので、生理が来なくなるのはあっという間だった。どうしてこれが禁止されているのか分からなかった。つらそうな友だちもみんな痩せればいいのに、と思ったが、体型の自慢にとられかねないので言わずにおいた。自分を羨ましがって痩せたいと言いながら毎日お菓子を食べる友だちは、痩せるよりも食べるほうが重要なのだから、水を差してはいけないのだ。
(003)

もしかしたら嫉妬心や独占欲は十代の幼稚さから生まれるだけで、大人の恋愛関係は、かけがえのない他人同士の関係に似ているのかもしれない。大人は恋愛関係から家族のようになると聞くし、家族なら、恋人よりかは かけがえのない他人に近いものだった。とりあえず試してみたかった。まだ一人しか付き合っていないし、前に付き合った子は男の子だったし。まどかはまだ恋愛のことがよく分かっていないから、本当は恋人がかけがえのない他人なのに、認識できていない可能性があるのだ。それに、同性という条件だけならうみちゃんは合致していた。「正直、付き合うのがどういうことなのかちゃんと分かってないんですけど」と言うと、「なら試しに付き合うのをやってみよう?」と返されたので、まどかは今もうみちゃんと交際しているというよりお試しのつもりでいた。
(030)