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あらすじ
モネやピカソなど、美術にまつわる小説をはじめ、精力的に書籍を刊行する著者、その創作の源は旅にあった!? 世界各地を巡り、観る、食べる、買う。さあ、マハさんと一緒に取材(!?)の旅に出よう!

 

ひと言
原田 マハさんと出会ったのは2013年夏の「キネマの神様」が最初でした。2014年5月「カフーを待ちわびて」を読んで、原田 マハさんはもう私のお気に入りの作家さんになりました。その年は6作品、2015年は13作品と読み続け「フーテンのマハ」はちょうど私が読む原田マハさんの30作品目の本になります。あまり絵画のことはよく知らなかった私が、絵画や芸術家のことに興味を持つようになったのは原田 マハさんのおかげです。ほんとうにありがとう。
この「フーテンのマハ」は原田 マハ=(イコール)ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーター というイメージだった原田 マハさんの新たな一面が見られたような作品でとても楽しく読ませてもらいました。これからもステキな作品を楽しみにしています。

 

 

それから マハさんが紹介してくれたお店も掲載します。食べログで調べてみるとどれも 3.5以上のお店ばかりでした。マハさんありがとうございます。

 

 

弘前キュイジーヌ「レストラン山崎」木村秋則さんのリンゴのスープ
金沢の割烹「よし村」蟹炒飯
梅田の北新地「天平」餃子
高知 屋台の餃子「松ちゃん」
高松のうどん「竹清」「誠うどん」
神戸 欧風料理店「もん」

 

 

あるとき後輩の男子に、いきなり「原田さんってマグロっぽいですよね」と言われたことがある。当時、社内きってのファッショニスタ(と自分で言うのもなんだが)たった私は、最新かつ奇抜な服装を好み、「Mビルのイメルダ夫人」とか「ファッションで人を嚇かす」などと言われたことはあったが、「マグロっぽい」と言われたのは初めてで面食らった。……。……。彼いわく「だって止まったら死んじゃうでしょ」とのことだった。そのとき生まれて初めてマグロというのは生きるために泳ぎ続け、移動し続ける種であることを知った。……。ちなみに、デビュー後、私のペンネームについて「マッハで移動するからですか?」と訊かれたこともある。以来、ペンネームの由来を訊かれればこの一言を用いることにしている。
(1 奇跡のリンゴと出会う) 

 

 

仲居さんがフグの白子を持ってきた。Cさんが私に「これ、なんですか?」と訊く。「白子です」と私は答えた。「シラコってなんですか」とまた訊く。えーとえーと、と私は考えを巡らして、できるだけ小さな声で「精子です」と答えた。 「え、なんですか?」「だから、精子です」「セイシ……?」「精子です。精子。男の人が持ってるアレです。子供の素です。精子です、精子!」 ほとんどシャウトする私のそばへ仲居さんがすすっとやってきて、 「違います。精巣です」 と言い直してくれた。……あ。そのとおりです、はい……。 かくして一生に一度(たぶん)の「フグの宴」は終わった。VIP三人に気をつかうあまり、せっかくの味の記憶がさだかではないのがいまだに残念だ。
(5 鳥取「カニ喰い」旅)

 

 

私が小説を書き始めるきっかけになったのが、旅先でのある男性と「犬」との出会いだった。物書きになるまえから、私はなんのあてもなくぶらりとフーテンの旅に出るのが常だったが、そのときも、もともと行く予定ではなかった沖縄の伊是名島という離島を訪れた。その前日に泊まった民宿の女将さんが「いいところだから行ってごらん」と勧めてくれたのだ。それじゃあ行ってみようか、と出かけたところ、美しい浜辺で黒い犬と戯れる男性と出会った。と書けば読者の皆さんの脳内には玉山鉄二的イケメンが登場するかもしれないが、当然ながら一般人のおじさんだった。すごいのは犬のほうで、おじさんがサンゴの塊を海に投げると、ザンブと飛びこんで回収してくるのだ。私は目をみはり、しばらく眺めていたのだが、ついに好奇心に抗いきれずに話しかけた。「すごいですね、このワンちゃん。なんていう名前ですか?」。するとおじさんは応えた。  「カフーです」「おもしろい名前ですね、どういう意味ですか?」「沖縄の言葉で『幸せ』という意味ですよ」。その瞬間に、なにやら霊感じみたものが、すとーんと私の中に落ちてきた。沖縄の離島の浜辺で、「幸せ」という名の犬に出会ってしまった。まさにこの瞬間、わがデビュー作『カフーを待ちわびて』が芽吹いたのだった。この鳥人おじさん、名嘉さんのネーミングセンスが、私の作家人生を決定づけたと言ってもいい。
(14 報切なおじさんはタクシーに乗って)

 

 

私が学生時代を過ごした街・神戸は、エキゾチックでレトロな雰囲気のある街として知られる。グローバル化の進んだ現在では、何をもって「エキゾチック」というのかは不明だが、昔もいまも、どこかしら日本的ではないムードが漂っているのは事実だ。「レトロ」というのも、ひょっとすると「頑固に変わらない」と言い換えることができるかもしれない。つまり、昔のまんま変わらずにいる、それでいてそれがたまらなくすてきだ――そういう街である。
(15 永遠の神戸)