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あらすじ
「大穴(ダイアナ)」という名前、金色に染められたバサバサの髪。自分の全てを否定していた孤独なダイアナに、本の世界と彩子だけが光を与えてくれた。正反対の二人だけど、私たちは一瞬で親友になった。そう、“腹心の友”に――。自分を受け入れた時、初めて自分を好きになれる! 試練を越えて大人になる二人の少女。最強のダブルヒロイン小説。

 

ひと言
2、30ページ読み進めて これは「赤毛のアン」を読んでない私(えっ!こんな世界的な名作を読んでないの…)では この本の面白さはわからないと思い、ネットで何件か「赤毛のアン」のあらすじを先に読みました。
アンを孤児院から引き取るマシュー、マリラ・カスバート兄妹、アンの最初の友達のダイアナ・バリー、アンを自分の方に振り向かせようと「ニンジン!ニンジン!」と言いながらアンの長い赤いおさげ髪をひっぱったギルバート・ブライス。
女の子が金髪にする心理は、へぇ、そういうことで金髪にするんだ と勉強になりました。でも、彩子の大学のサークルの設定は作者の伝えたいことはわかりますが、もうちょっと他の設定にできなかったのかなぁ…。
本を読んでいると、そこから読みたい本がどんどん派生してきます。向田邦子さんの「父の詫び状」や もちろんL.M. モンゴメリの「赤毛のアン」「アンの青春」「アンの愛情」も機会があれば読んでみたいと思いました。

 

 

「うちもそうだったから、わかるんだ。小学六年生の時に、学校の帰り道に変な男にいやらしいいたずらされたの。一度じゃなくて何度も何度も。誰にも言えなくて、あんときはすごく悩んで、しんどかった。学校にも行けなくなったくらいだよ」 「大人に相談すればよかったのに……」 幼いティアラさんの味わった恐怖や悲しみを思うと、胸が詰まって、なんだか泣いてしまいそうだ。 「そん時は思いつかなかったよ。……。でも、あたし、バカじゃないからね。自分の頭で考えたんだ。それで、サーファーやってた中坊のダチに手伝ってもらってキンパにしたんだ。そしたら、ぴたっと痴漢に遭わなくなった」 キンパ……、ああ、金髪か、と彩子はややあって理解する。 「職場にもそういう娘けっこういるよ。いじめられたり変な男に目ェつけられやすくて、ギャル始めたって子。あ、痴漢やセクハラ野郎って、派手な女が苦手なんだよ」 今すごく大事なことを聞いたのかもしれない。メモをとりたい衝動に駆られた。
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「みんながみんな、アンみたいに飛び立てるわけじゃない。ほとんどの女の子は村で生きていく。脇役のダイアナこそが多くの女の子にとって等身大で、水遠の "腹心の友" たるべき存在だから……。アンみたいに変わった女の子があの小さな村で受け容れられたのは、ダイアナが親友になったからだと僕は思っている。アンの良いところをダイアナは自然に引き出してあげたんだ」
先生はくすりと笑った。ダイアナは恥ずかしくなって言葉が出てこなくなる。すると先生が口を開いた。 「僕は小さい頃から友達がいなかった。だから処女作のヒロインにダイアナという名前を付けたんだ。本好きな女の子達の永遠の親友になればいいと思って。リアリストだけど夢の世界を信じてる、優しいけれど人の支えになる強さも持っている、そんなダイアナみたいな存在の本になればいいと思って」 「私、ダイアナっていうんです。大きい穴でダイアナ……。ずっと自分の名前が嫌だったけど、今初めて好きになれました」 ありったけの希望と感謝を込めて、父を見つめた。はっとり先生は首をかしげながらも、確かに嬉しそうだった。彼の大きな瞳は自分と同じはしばみの色をしていた。
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『あのね、ダイアナ……。本を探してもらえないかな? 卒業まであと二ヵ月なんだけど、やっぱり……、出版社を受けたいと思って今になって本気出してるんだ。ええと、何か、息技きっていうか、気分が前向きになるような本、探してもらえないかな」まかせて、とつぶやき、ダイアナは児童書のコーナーーに彩子を誘う。迷うことなく『アンの愛情』を見つけ出し、差し出した。彩子は怪訝そうに首をひねる。『赤毛のアン』が面白いのは『アンの青春』までなんじゃなかったっけ。ダイアナ、あの頃そう言ってたよね。恋愛や結婚がメインになって面白くないって」 本の話をするだけで、十年のブランクが埋まっていくのが、なんだか魔法みたいだった。ダイアナはわざと仕事用の口調を選んだ。「本当にいい少女小説は何度でも読み返せるんですよ、お客様。小さい頃でも大人になっても。何度だって違う楽しみ方ができるんですから」 
優れた少女小説は大人になって読み返しても、やっぱり面白いのだ。はっとり先生が言ったことは正しい。あの頃は共感できなかった心情が手にとるようにわかったり、気にも留めなかった脇役が俄然魅力を持って輝き出すこともある。新しい発見を得ることができるのと同時に、自らの成長に気づかされるのだ。幼い頃はぐくまれた友情もまた、栞を挟んだところを開けば本を閉じた時の記憶と空気が蘇るように、いくつになっても取り戻せるのではないだろうか。何度でも読み返せる。何度でもやり直せる。何度でも出会える。再会と出発に世界中で一番ふさわしい場所だから、ダイアナは本屋さんが大好きなのだ。いつか必ず、たくさんの祝福と希望をお客さんに与えられるようなお店を作りたい。 彩子は『アンの愛情』に夢中になっている風を装いながら、こちらを見ずに、しかし、しなやかな意志を感じさせる声でこう告げた。「ねえ、ダイアナ。あのさ、今日、仕事何時に終わるの?」 お互いの心臓の高鳴りが聞こえる気がした。彩子の桜色に染まった指の中でヽ真新しい白い紙がぱらぱらとめくれ、辺り一面に彩子とダイアナの愛してやまなかった匂いを花びらのようにまき散らしていた。
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