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あらすじ
ヒロシが小学1年生の時、父が交通事故で亡くなった。同乗していた会社の上司も一緒に。その日から、かあちゃんは笑わなくなった。一切の罪を一身に背負い、懺悔する日々が始まったのだ。それから20年以上の時が流れた。親友をいじめた。誰からも助けてもらえなかったあいつは、自殺を図り、学校を去った。残された僕たちは、それぞれの罪を背負い、罰を受けて、一人の年老いた「かあちゃん」に出会った。受け継がれてゆくものとは……。

 

ひと言
図書館でこの本を見つけ、「あれ、これ読んだことがない」と借りた一冊。
亡くなった人を忘れない。そうすればその人はあなたの心の中で生き続けるのだから…。これは昔、重松清さんに教えてもらったこと。これからもそのことを忘れずに毎日を生きてゆきたい。14日、親父の月命日の日に記す。

 

 

「ひとは、なして墓参りをするんじゃろうか」あんたはどげん思うな、と訊かれた。「……亡くなったひとの供養ですよね」……。「墓参りは、覚えとる、いうことじゃ」ヒバリが寺の真上で鳴きはじめた。その気ぜわしい声が、住職さんのゆっくりした口調に不思議と似合っていた。「墓に参って、手を合わせて、ああ、おかげさまでまた一年たちました、半年たちました、春が来ました、夏が来ました、いうて……おかけさまで元気で生かしてもろうております、いうて……忘れとりません、いうて……」歌うように言った住職さんは、石段を上ってきた人影に気づき、ああ、どうもどうも、と合掌して迎えた。
(第一章 アゲイン)

 

 

いじめっていうのは、居場所を奪うことなのかな――。ふと思った。好き嫌いとか、お金が欲しいからとか、ただ暴力をふるいたいからとか、遊び半分とか、いじめの表面的な理由はそれぞれでも、根っこにあるのは、その子から居場所を奪ってしまおうということなのかもしれない。だから苦しめる。ここにいてもキツいことしかないんだぞ、と思い知らせる。いじめに遭った子はどんどん居場所を奪われて、学校に行けなくなって、最後の最後は「生きていける場所」そのものがなくなってしまって……死を選んだりする。……。コージに脅されて黒川くんのいじめに加わった二人も、黒川くんの代わりに標的にされて、居場所を奪われるのが怖かったのだろう。「みんなと一緒に黒川くんをいじめる場所」しか、二人には許されていなかったのだろう。
(第三章 リピート)

 

 

お母さん――。ぼくたちは、まだ、終わってないよね――。ゆうべ森美帆に言われた言葉を思いだした。いままでのなにかを終わらせるためではなく、新しいなにかを始めるために、会わなければいけないひとが、いる。黒川の顔が浮かんだ。青い空が、まぶしすぎる。
(第六章 ドロップ)

 

 

千葉はつづけて言った。「謝ることと償うことって、違うよね。『謝る』は相手にゆるしてもらえないと意味がないけど、『償う』は、たとえ相手にゆるしてもらえなくても……っていうか、ゆるしてもらえないことだから、ずっと償っていかなきゃいけないと思うの」……。「河野くんに教えてもらったの、それ」「啓太に?」
(第七章 リメンバー)

 

 

ただ、今日、長かったなにかが終わるのだとは思う。おふくろが背負ってきた重荷は、捨て去って消えるのではない。背中の荷物を体の前に回して、いとおしそうに抱きしめることで、静かに溶けて、消えて、胸に染み込んでいくのだと思う。そして、今日からまた、なにかが始まってくれればいい、と思う。
(第八章 アゲイン、アゲイン)