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あらすじ
将来の夢を抱きつつも職はなく悩める毎日を送っていたしいなは、植物公園で一風変わった老人と出会った。そして老人に誘われるままに就職を決め、初出社。なんと彼は今をときめく超高層ビル群を次々に手掛ける、大手都市開発会社社長“権田原大咲”だった!!憧れのキャリア・ガールへスタートを切ったと思ったのもつかの間、配属先はホコリだらけの地下4階、これっていったいどういうこと? SNS「mixi」公式企画「ミクドラ」として限定公開された初の小説を書籍化。連載時から話題沸騰!共感度120%の一途な夢と仕事と友情と恋の物語。

 

ひと言
植物版ドリトル先生。設定としてはとてもおもしろいけれど少しライトすぎるかな。でも「ピグマリオン効果」を信じて明日も頑張ろうという気になり元気をもらいました♪

 

 

「本気でガーデナーを目指してるんなら、おじいちゃん説得してみなよ。なんとかなるって。しいなは絶対、もっともっと伸びる、そうだな、えっと……オカメヅタ、なんだから」思わず真百合に抱きついた。心優しい幼なじみは、いつもこんなふうに、しいなを植物にたとえて応援してくれる。そうだ。花は本来、誰かに連れて行ってもらうのを待っている存在じゃない。風に種子を飛ばして、自ら遠くまで行く花だってある。私も、飛んでみよう。真百合の毛先が風に揺れるのを眺めながら、すでにしいなの心は飛び始めていた。
(1 飛ばない種子かも)

 

 

「お嬢さん。『ピグマリオン効果』 ってのを知ってるか?」しいなは首を振った。「ギリシャ神話だよ。ピグマリオンという男が、自分の作った彫刻の娘に恋をしてしまった。毎日毎日、人間になりますようにと願い続け、憐れに思った神様がかなえてやったという話。つまり、強く願って言い続ければ、夢はかなってしまう、ということだ」「ピグマリオン効果……」老人は、きびしくもあたたかなまなざしでしいなをじっと見た。「いいか。夢見る自分を信じなさい」門前で店じまいをしていた花屋で、老人は黄色いラナンキュラスの鉢植えを買い、しいなに差し出した。「ほれ。バナナが花に化けたぞ」しいなはそっと鉢を胸に抱いた。花は照れくさそうにしいなの胸に顔をうずめている。「夢の続きを話したくなったら、いつでもわしのところに来なさい」そう言って、名刺を手渡した。権田原大咲とある。大きな花のような名前に、しいなは微笑んだ。「また会おう。今度は、そうだな……マンゴーの木の下で」
(2 運命の出会い)

 

 

〈よいのです。さあ、摘んで下さい。こんな時のために、花はあるのです〉
しいなは震える指先で、E.0.の黄色い顔に触れた。ぶちっと音を立てて、花が一輪、切り離された。「これを……」しいなはもう一度、看護師に差し出した。看護師はうなずいて、日だまりのような花を手に、ICUへ戻って行った。……。摘み取る直前にこぼれ出たE.0.の言葉は、あたたかな雨のようにしいなの乾いた心にしみた。摘み取った一輪の花は、ただ美しかった。花には花の理由があって、美しく進化をしてきたのだろう。けれど、悲しみや苦しみに直面した人間の心を慰める美しさを、確かに花は、植物は持っているのだ。
(6 最大の危機?!)