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あらすじ
『本の雑誌』が選ぶ 2014年ベスト10(ノンジャンル)の第1位 獲得! !
終戦から10年、主人公・左織は22歳の時、銀座で女に声をかけられる。風美子と名乗る女は、左織と疎開先が一緒だったという。風美子は、あの時皆でいじめた女の子?「仕返し」のために現れたのか。欲しいものは何でも手に入れるという風美子はやがて左織の「家族」となり、その存在が左織の日常をおびやかし始める。うしろめたい記憶に縛られたまま手に入れた「幸福な人生」の結末は。 激動の戦後を生き抜いた女たちの〈人生の真実〉に迫る角田文学の最新長編。あの時代を生きたすべての日本人に贈る感動大作!

 

ひと言
仕事環境が変わったせいもあり、最近はまったく本が読めなかったり、読み始めても気がのらなくて途中でやめてしまったりと、実に2か月ぶりの読書のブログです。
こういうときはやっぱり私の好きな角田さんを読もうと図書館に予約を入れました。
「八日目の蝉」や「紙の月」のように事件に絡めた女の心を描くというような派手さはなく、あの時代を生き抜いたある意味平凡な女の人を描いた作品だけに、筆力がものをいう作品ですが、今さらながら角田さんの筆力に改めて感心する作品でした。始めは淡々と話が進んでいきますが、ラスト80ページぐらいからはさすが、最後の43は読み直したくらいです。やっぱり角田さんはいいね♪

 

 

「私はあなたのそういうところがぜんぜん理解できない。冗談じゃない。私はあなたとは遠うのよ。どんなことでも栄養にして、どんどん大きくなっていけるあなたとは違うの。私を巻きこまないでちょうだい。これ以上私を巻きこまないで」「これ以上って何」風美子が眉間にしわを寄せて訊く。「私が今まで何にあなたを巻きこんだっての」左識は口をぱくぱくさせる。ああ、私は「巻きこまれた」と思っているんだな、と気づく。いつか百々子に罵られたとおり、ぜんぶこの人のせいだと思っているんだ。実家と疎遠になったのも。夫の気持ちが自分にないのではないかと疑っていたことも。百々子が私を許さないのも。柊平が男色家になったのも。みんな、みんなこの家から出ていったことも。温彦が先に死こだことですら。「べつにいいよ、その話は断ったって。でも巻きこまれているというのはおかしいんじゃないの。そう思うのなら巻きこまれないようにすればいいじゃん。勝手に巻きこまれて、こっちに文句言わないでよ。それにね、さーちゃんが忌み嫌ってるあの時代だって、私たちが恥じる必要なんかない。私たちは子どもで、なんにもできなかった。巻きこまれるしかなかった。でも今は子どもじゃない。巻きこまれないように生きることができる」
………。……。
そうか、と左識ははじめて納得する。みんなが離れていくのも、人生が思い通り進まないのも、この人のせいなんかじゃなかった。何か決めるたび、何か選ぶたび、何かしなくてはいけないたび、変えなくてはいけないたび、私はあの、本来の私とは隔たった幼い子どもに押しつけてきたのだ。思考を停止し、何も決めず何も変えず、じっとただ眺めていることを、あの子にさせてきたのだな。今の私の人生を作っているのは、あの、貧しくて弱い女の子だ。(43)