イメージ 1 
 
あらすじ
主人公の永田一雄の前に、1台のワゴン車が止まったことからこの物語は始まる。ワゴン車には橋本義明・健太親子が乗っており、彼らはなぜか永田の抱えている問題をよく知っていた。永田の家庭は崩壊寸前。妻の美代子はテレクラで男と不倫を重ね、息子の広樹は中学受験に失敗し家庭内暴力をふるう。永田自身も会社からリストラされ、小遣いほしさに、ガンで余命いくばくもない父親を訪ねていくようになっていた。「死にたい」と漠然と考えていたとき、永田は橋本親子に出会ったのだ。橋本は彼に、自分たちは死者だと告げると、「たいせつな場所」へ連れて行くといった。そして、まるでタイムマシーンのように、永田を過去へといざなう。

 

ひと言
重松 清さん原作 日曜劇場「流星ワゴン」。第1話は見逃しましたが、第2話を見て すぐに図書館へ本を借りに行きました。貸出中じゃなくてラッキーでした♪。
親子(父と息子)を書かせたら重松 清と私が思うだけあって、3組の父と息子がうまく描かれていて、引き込まれるように一気に読みました。
ただ妻の美代子の設定とその経緯、その描写が不満で、ここは女を書かせたら角田 光代と私が思っている角田さんが書くとどういう設定や経緯になるのかなと思ってしまいました。
人は誰でも あのときに戻ってやり直せたらと思うような過去を持って生きている。過去は変えることができないけど、過去をもう一度見つめ直すことはできるし、その受け止め方は変えることができるんだってことだよね。

 

 

 

信じてる――。言葉では伝えられないから、頭のてっぺんに頬ずりするように広樹を抱いた。強く、深く、抱きしめた。僕は未来を知っている。未来が変わらないことも覚悟している。それでも――信じる。僕は、僕の息子が信じる未来を、信じる。息子が未来を信じていることを、信じる。腕を離すと、広樹は大袈裟なしぐさで足元をふらつかせ、「あー、びっくりした」と言った。「わけわかんないことしないでよ、あー、マジ、ビビった」「悪い悪い」と僕は笑って、もう行けよ、と手を振った。広樹は少し決まり悪そうにうつむいて、エレベータホールに向かって駆けだした。やっとわかった。
信じることや夢見ることは、未来を持っているひとだけの特権だった。信じていたものに裏切られたり、夢が破れたりすることすら、未来を断ち切られたひとから見れば、それは間違いなく幸福なのだった。(23)

 

 

 

「考えてみたら、墓いうて不思議なもんよのう。たかが骨のために、なして、ひとは高いゼニ出して墓を建てるんじゃろうのう……」「忘れられたくないからだよ、たぶん」僕は言った。考えて出した答えではなく、口が勝手に動いていた。
(24)

 

 

「なあ、ヒロ。一回だけやってみろよ」「かったるい」「一回だけだって、ほら」テーブルから赤いナイフを取って、広樹に差し出した。広樹は面倒くさそうにそれを受け取り、立ったまま、手近な穴に刺した。バネのはずれる音がして、海賊が跳んだ。広樹はびくっと身を反らし、一歩あとずさる。驚いた顔に笑みが浮かびかけた。すぐに眉を寄せ、顎を引いて、「むかつく」と吐き捨てた広樹に、僕は言った。「おまえの勝ちだよ」「なにが?」「海賊をジャンプさせるゲームなんだ、これは。ヒロは一発で当たりだったんだ」「なに言ってんの、ぜんぜん違うよ」「お父さんが決めたルールだ。勝ち負けなんて自分で決めちやえばいいんだから」「……わけわかんねえ」「もう一回やるか?」「やだよ、もう」「じゃあ、明日またやろう。ここに置いとくから、いっしょにやろう」広樹はなにも答えず、部屋を出ていった。「おやすみ」背中に声をかけると、ドアを抜けながら、小さな声で「うん……」と返事が来た。僕は樽からナイフを抜いて、ソファーに寝転がった。仰向けになって天井を見つめ、首筋がくすぐったくなって、笑った。
(27)