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あらすじ
「嫁に来ないか。幸せにします」「絵馬の言葉が本当なら、私をお嫁さんにしてください」
から始まるスピリチュアルなほどピュアなラブストーリー。
ゆるやかな時間が流れる、沖縄の小さな島。一枚の絵馬と一通の手紙から始まる、明青(あきお)と幸(さち)の出会い。偶然に見えた二人の出会いは、思いも寄らない運命的な愛の結末へ。
第1回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞作品。

 

ひと言
昨年の夏読んだ、原田 マハさんの「キネマの神様」がすごくよくて、原田 マハさんにハマってしまいました。他にも原田さんの本を、特に「カフーを待ちわびて」を読みたいと探していたのですが、図書館でたまたま借りることができました♪。リゾート開発の部分にとらわれてしまうと、読了感はあまりよくない印象になるのかもしれませんが、こんな素敵なラブストーリー、人にプレゼントしたくなるような本でした。また好きな作家が一人増えたなぁ♪という感想です。
この連休を利用してレンタルDVDで映画も観てみようかな。
何年か後、この本の感動が思い出せるように、すこし長いですが幸の手紙の一部を残しておきます。

 

 

 

翌日、私は休みを取っていました。夕方、波頭崖から飛び降りる前に、最後の祈りを捧げようと飛泡神社を訪ねました。そこで、思いがけないものをみつけたのです。あなたの書いた、絵馬でした。驚きました。笑っちゃった。だってあなたは、絵馬にプロポーズ書いている。なんて人だろう。明るくって、暢気で、とことん平和で。実は、あなたの絵馬をこっそり持って帰っちゃったの。神様に怒られちゃうんじゃないかと、おっかなびっくりだったけど。コートの中にそっと隠して、雪に滑りながら走って逃げました。走りながら自分の足が、波頭崖には向かっていないことに気づきました。

 

 

 

あの夜、あなたの絵馬とデイゴのペンダントを枕元に並べて、ひとすじの希望が舞い降りてくるのを感じていました。母は私の死を望んではいない。その証拠に、あなたと私をこうして結びつけてくれた。そして、あなたのメッセージは私のために書かれたんだ。そう素直に信じられました。ずっとずっと考えて、とうとう沖縄に行く決心をしました。那覇についてから手紙を書いて、目をつぶってポストにえいっと入れました。そしてそれから、また迷いました。もしも訪ねて行って、あなたに受け入れてもらえなかったらどうしよう。ほんとはもう、奥さんがいたらどうしよう。迷って迷って、おろおろして、自分でもおかしいくらい。けれど、三週間と三日目に、今帰仁(なきじん)行きのバスに飛び乗りました。あなたに会おう。そして、母の言っていた通り、デイゴの小枝のペンダントを返そう。この人生を、変えるんだ。そう誓いながら。そういえば、子供の時から夢見ていたかもしれない。明青兄ちゃんのお嫁さんになるって。そんなに簡単に、夢は叶わなかったけれど。

 

 

なんだか、自分がずっと不幸だなって思っていたの。一生懸命生きてるつもりで、一生懸命誰かを好きになって、がんばってるつもりなのに、なんでかなあ、って。なんで幸せはやって来てくれないのかな、って。入院中のおばあに全部打ち明けました。絶対にあなたには言わないで、と約束して。すごく怒られました。「うぬ、大馬鹿もんが」って。幸せは、いくら待ってても、やって来ない。自分から出かけて行かなくちゃ、みつけられないんだ、って。だから何もかもあなたに打ち明けて、幸せになれ。それが遺言だ。そう言われたの。涙が、止まらなかった。

 

 

いままでの生活を全部捨てて、思い切って出かけて行って、私はあなたにとうとう会った。
あなたと一緒にいられて、私かどんなに幸せだったか、わかる?島の自然も、おばあのお祈りも、ガジマルの木も、何もかも母の言ってた通りだった。そして、あなたという人も。私の名前も呼べないほど、照れ屋でぶぎっちょで。なんにも言わないけど、ずっとそばで見守ってくれて。私を抱きとめてくれた、あなたの大きな腕。暗い水の中からすくい上げられた時、私の中に、本当の命が宿りました。だから、あなたにもらったこの命を、もう無駄にすることはできないの。

 

 

あなたというやさしさ、あなたという明るさ、あなたという人が、私の新しい宝物になった。かけがえのない存在になった。あなたのことを考えると、なんだか涙があふれて、同時に笑ってしまうの。どうしてかな、こんな気持ち、いままでなかった。この先二度と会えなくても、この思いを胸に抱いて生きていきたい。

 

 

最後のお願い。
いちどだけ、名前を呼ばせてね。

 

 

明青さん。愛してる。
カフー、アラシミソーリ(幸せで ありますように)。
                         幸
PS
母の宝物、返しました。みつけてください。私の宝物だったあの絵馬も、返そうと思っています。(14)

 

 

 

「庭の花、摘んで来たよ。早く帰れるように」おばあはじっとそれに視線を注いでいたが「いらん」とまたそっぽを向いた。「持って帰れ」と厳しい声で言う。「どうして」ちょっと残念そうに幸が聞いた。おばあは答えなかった。
………。……。
明青は「それ、持って帰るよ」と、幸がずっと手にしていた小さな花束を受け取った。幸は納得がいかない様子だ。「おばあも頑固だなあ。かわいくないのはわかってるけど。せっかく早起きして摘んだのに」
明青は小さく笑った。「おばあ、照れくさくてほんとの理由を言えなかったんだよ」「ほんとの理由?」
「『島のものは、どんなものでも、持ち出しちゃならん。持ち出すと、その者に災いがある』」遠い昔、母から聞かされたおばあの言葉を、なぜだか明青ははっきりと覚えていた。「おばあは、その花を摘んだひとを、災いから守りたかったのさ」幸の唇が、かすかに動く。泣き出しそうな笑顔になった。(10)

 

 

 

 

けれど、明青の心はもう決まっていた。幸にもう一度会ったら、真っ先に、言おう。

 

 

 

カフーが待ってる。島へ、帰ろう。

 

 

あの日、虹のかかったカミンヤーをはるかに眺めて、明青はいつまでも向かい風にあおられて立ち尽くしていた。(15)