イメージ 1 
 
あらすじ
不慮の死を遂げた人々を“悼む”ため、全国を放浪する坂築静人。静人の行為に疑問を抱き、彼の身辺を調べ始める雑誌記者・蒔野。末期がんに冒された静人の母・巡子。そして、自らが手にかけた夫の亡霊に取りつかれた女・倖世。静人と彼を巡る人々が織りなす生と死、愛と僧しみ、罪と許しのドラマ。
「その人は、誰を愛したか、誰に愛されたか。どんなことで人に感謝されたことがあったか」。静人の問いかけは彼を巡る人々を変えていく。家族との確執、死別の葛藤、自らを縛りつける“亡霊”との対決、思いがけぬ愛。そして死の枕辺で、新たな命が…。静かな感動が心に満ちるラスト。
(第140回直木賞受賞作)

 

ひと言
上下併せて約650ページ。読み終えた後、何も考えられないような空っぽな心の状態になった。昔読んだ本の言葉
「人間は、二度死ぬんだ。一度目は、身体が死ぬ時。二度目は、死んだその人の事を、誰も思い出さなくなった時。その時、人は本当に死んでしまうんだ。……」
を改めてかみしめてみる。静人が母・巡子の所に戻らなかったのは、静人が生きている限り、静人の心の中で巡子は生き続けていられるからなのだろうか。

 

 

「…。亡くなった一人一人がこの世界に生きていたということを、できるだけ覚えていられないかと思っている。覚えて、何になるかなんて、いまはわからないよ。それを知るためにも、つづけたいんだ」
(第五章 代弁者)

 

 

「…。旅に出た三年目に、或る人が言ってくれました……大切なのは、つづけることだろう、と。それで吹っ切れました。いろいろなことに柔軟でいい、でないと、つづけることができなくなる、と。だからいまは、……」
(第六章 傍観者)

 

 

おまえを<悼む人>にしたものは、この世界にあふれる、死者を忘れ去っていくことへの罪悪感だ。愛する者の死が、差別されたり、忘れられたりすることへの怒りだ。そして、いつかは自分もどうでもいい死者として扱われてしまうのかという恐れだ。世界に満ちているこうした負の感情の集積が、はちきれんばかりになって、或る者を、つまりおまえを、<悼む人>にした。だから……おまえだけじゃないかもしれない。世界のどこかに、おまえ以外の<悼む人>が生まれ、旅しているのかもしれない。見ず知らずの死者を、どんな理由で亡くなっても分け隔てることなく、愛と感謝に関する思い出によって心に刻み、その人物が生きていた事実を永く覚えていようとする人が、生まれているのかもしれない。だって、人はそれを求めているから……。
(第七章 捜索者)

 

 

(…。誰かのためにね、その人のためになら、自分が少しくらい損をしてもいいって思えたら……それはもう、
愛でいいのよ。)
(エピローグ)