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あらすじ
江戸時代、元禄期の大坂で人々が狂喜したように、激烈な恋の物語が今また私たちの心を掻きたてる。運命の恋をまっとうする男女の生きざまは、時代を超えて、美しく残酷に、立ち上がる 。300年前、人形浄瑠璃の世界に“心中もの”の大流行を巻き起こした近松の代表作「曾根崎心中」を、直木賞作家・角田光代が現代に甦らせる!

 

ひと言
しばらくは角田さんを封印しようと思っていたのですが、図書館で角田光代の曾根崎心中を見つけました。この誰もが知っている曾根崎心中を現代人で書くとしたら瀬戸内 寂聴さんか角田 光代さんぐらい しかないだろうと思っていたので、迷わず借りました。やっぱり角田光代はうまいなぁ!。
今度、梅田へ行くことがあったら露 天神社(お初天神)に寄ろうと思いました。

 

 

ようやく徳兵衛がくちびるを離したとき、仰向けになった初は間近にある顔をじっと見つめた。そのときにはすでに、この男がいない世のなかは生きる価値なんかないと、そんな気持ちになっていた。だれだろう、まったく知らないのに、ずっと知っていたような気がするこの男はだれだろう。この世のなかを、生きる価値のある場所に一瞬にして変えたこの男は、だれだろう。いやそんなはずはない。何かの思い過ごしだ。ただの男だ。好きになるはずもない、ただの男。初は自分に言い聞かせるようにしながら上体を起こそうとして、びっくりした。力がまるで入らないのである。なんていうことだ、この男の接吻で、腰を抜かしたらしい。
……。……。
ああ、ああ、姐さん。徳兵衛の腕のなかで初は叫び出したい衝動に駆られる。姐さん、祈っててくれはったんやね。きたで。あてにもわかるときが、やっときた。