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あらすじ
みんな、ほんと、元気だそう!世の中がどんなに暗くても、心まで暗しくしてはいけない。自分なりの湖にむかって、悠然と歩いていこう。石田衣良、待望の最新エッセイ集。

 

ひと言
大好きな司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」をもじった石田衣良さんの「坂の下の湖」。いつもポジティブ思考の衣良さんから少し元気をもらった気がする。でも『失われた20年』(日本において安定成長期終焉後の1991年(平成3年)3月からの約20年以上にわたる経済が低迷した期間を指す。 ウィキペディアより)だなんて…。こんな、立ち上がろうという気力さえ失わせるような名前をつけたのは誰だ。

 

 

「本屋大賞でも第一位の本はよく売れるんですけど、それ以外のノミネート作品はまったく動かないんです」……。ナンバーワンは確かに大ヒットになるけれど、二位以下は大差をつけられて沈んでしまう。これはエンターテインネントの未来を考えるとき、実に憂慮すべき事態だ。……。なぜ、こうした事態になってしまったのか考えると、淋しい結論にたどりついてしまう。観客が自らの趣味や鑑賞眼で作品を選ぶ自由(これ以上はないくらい貴重な自由だ!)を放棄し始めているのだ。書籍も映画も音楽もあまりに種類が多くて、情報過多に陥っている。面倒だから自分で調べたり評価したりするのを投げて、どのジャンルでもランキングー位のものを選んでおしまいにする。それでは受け手の個性は伸びていかないだろう。なんといっても、アートの効用のひとつは、その世界にふれることによって、心の力をより強く深くして、個性を伸ばしていくことにあるのだ。(ひとり勝ちの世界)

 

 

ただ現在の日本の下り坂の先には、坂の上の雲にあたる目標が見えていない。これがぼくたちの今の苦しみの源なのだ。目的さえはっきりしていれば、たいていの苦痛に耐えられることは、高度成長期の猛烈社員が証明している。そこで、ぼくからの提案は、各自が下り坂の先に、自分なりの湖をつくることである。もう成長期のように画一的な目標は必要ない。自分の好きな形の湖でいい。ゆったりとした下り坂の先に、涼しげに空の青を映す静かな秋の湖をつくる。その水面にむかって、無理せず軽々と下り坂を歩いていく。それがこれからの理想的な日本人の生き方なのだ。国は少々貧しくなるかもしれない。でも日本の個人は世界有数の経済と自然の富をもち、世界がうらやむような安全とおたがいに対する信頼感を共有している。なあに財政赤字などで気分まで悪くすることはない。あの湖にむかって、長く快適な下り坂を、みんなで悠々と歩いていこう。青く澄んだ湖面が待っている。涼しい風が吹いている。きっとそれはそう悪くない道のりのはずだ。(坂の下の湖)