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あらすじ
僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作。家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7’s blood」)。優しい気持ちになれる感動の作品集。

 

ひと言
図書館で「優しい気持ちになれるおすすめの一冊」というPOPに惹かれて借りた一冊。以前「温室デイズ」だけ読んだことがあり、瀬尾さんのことはあまり印象には残らなかったが、解説で、あさのあつこさんが書いている通り、こんなストレートな愛の言葉を子どもに伝えられる母親ってほんと最高だと思う。おすすめの一冊。

 

 

「すごーくおいしいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ」母さんはにっこり笑って、ハンバーグを□にほうりこんだ。(卵の緒 2)

 

 

母さんは僕の泣き顔をいたずらっぽく笑うと、「想像して。たった十八の女の子が一目見た他人の子どもが欲しくて大学辞めて、死ぬのをわかっている男の人と結婚するのよ。そういう無謀なことができるのは尋常じゃなく愛しているからよ。あなたをね。これからもこの気持ちは変わらないわ」と僕の耳元で言った。僕は何か言おうとしたけど適当な言葉が浮かばなかった。ただわかったって頷いた。(卵の緒 4)

 

 

「そうよ。わざとらしいのよ。なにもかも。しゃべり方、笑い方……、あんたはいつも周りの人間に気に入られることばかり考えてる。どうすればかわいがってもらえるのか知ってるのよ」「いけない?」七生がいつになく挑戦的に言うので、私はかちんときて思わず声が荒立った。「いけないって、あんたはまだ十一でしょう。なのにちっとも子どもらしくないわ。もっと子どもって、人の顔色見ずに自分の思うように行動するものよ。あんたは人の顔色しか見てない。いつもいい子ぶってるのよ。わざとらしくって叶き気がするわ」七生は眩しそうに目をしかめながら、私の顔をじっと見ていた。そして小さな声でつぶやいた。「子どもだからだよ」「え?」「僕はまだ十一歳だから。…大人に気に入られないと生きていけないもん。一人じゃ何もできないもん。食べるものも住む場所も、一人じゃどうにもできない」七生は静かに言った。(7's blood 1)

 

 

「元どおりになるだけだよ」。七生は言ったけど、それは違う。元どおりになるものなど、この世には一つもない。(7's blood 4)