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あらすじ
幼い頃、毎年サマーキャンプで一緒に過ごしていた7人。 輝く夏の思い出は誰にとっても大切な記憶だった。 しかし、いつしか彼らは疑問を抱くようになる。 「あの集まりはいったい何だったのか?」別々の人生を歩んでいた彼らに、突如突きつけられた衝撃の事実。 大人たちの〈秘密〉を知った彼らは、自分という森を彷徨い始める――。親と子、夫婦、家族でいることの意味を根源から問いかける、角田光代の新たな代表作誕生。

 

ひと言
角田 光代の真骨頂でもある、親と子、夫婦、家族を描いた作品。他の人では描けないか、説得力に欠けるようなことを角田さんはほんとうに上手くえがくなぁといつも感心させられる。「八日目の蝉」のような終わりかたではなく、明日や明るさを感じる角田さんにとっては珍しい終わり方もグッドでした。

 

 

子どもというのは、精子と卵子の結合によって生まれてくるものではなくて、だれかがだれかを思う強い気持ちが作るものなのではないか(第三章 2)

 

 

……後悔しているただひとつのことは」樹里は母を見る。母は顔を陽にさらしたまま、言う。「しあわせを見くびっていたことかな」樹里に視線を移して母は微笑んだ。「私とあなたのパパは、クリニックで、さまざまな情報を見るうちに、よりいい学校を、よりいい容姿を、よりいい暮らしを、よりいい収入を、って気侍ちになっちゃった。それが、生まれてくる子に対するせいいっぱいの善きことだと思いこんだ。でも、私たちはあなどってたのよね。生まれてくる子にあげられるものは、しあわせの保証っていうのは、そんな『条件』ではなかった。若かったから、気づかなかったの。そのことがあとで自分たちを追いつめるなんて思わなかった」「でも条件のいいものと悪いものがあれば、いいほうを選ぶでしょう、だれしも」「そうね。でも重要なのはそこじゃない。善きことは、その子が生まれてからじゃないと与えられない。だってその子は私たちと違う世界を生まれたときから持っていて、その世界では何がしあわせか、わからないでしょう」(第四章 8)

 

 

こんな人たち、今までたくさん見てきた。ものほしげで、他人まかせで、超能力もないのにテレパシーで相手が動いてくれるって思ってる。ほしいものが手に入らないと、人のせいにして、地団駄踏んで怒って泣いてくやしがる。それなのにまだ、自分の足では動き出さない。そういうやつにかぎって言うんだ、halってコネでデビューしたんでしょ。……。ほしいものを得るために、他人が歯を食いしばってがんばっているなんて、思いもしない。そうしなければ手に入らないんだって、知りもしない。
(第四章 9)

 

 

私たちが、今日、こわがらずに家を出ていけるのは、迷子にならない保証や困った事態にならない確信があるからじゃない。何かすてきなことや人にきっと会える、困ったときにきっとだれかが肋けてくれる、そう思うことができるから、なんとか今日も明日も、出かけていけるんじゃないか。大げさにいえば、生きていかれるんじゃないか。(エピローグ)