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あらすじ
みんな、ひとりぼっちじゃない――先生が、そばにいてくれるから。うまくしゃべれない教師と、傷を抱えた生徒たち。静かで温かな再生の物語。村内先生は、中学の非常勤講師。国語の先生なのに、言葉がつっかえてうまく話せない。でも先生には、授業よりももっと、大事な仕事があるんだ。いじめの加害者になってしまった生徒、父親の自殺に苦しむ生徒、気持ちを伝えられずに抱え込む生徒、家庭を知らずに育った生徒──後悔、責任、そして希望。ひとりぼっちの心にそっと寄り添い、本当にたいせつなことは何かを教えてくれる物語。

 

ひと言
普通は必ずと言っていいほど、先に本を読んでから、映画やドラマを見るのですが、先週、阿部 寛さん主演の「青い鳥」というドラマのレンタルDVDを見て、すぐにこの本を読みたくなって(読まないといけないと思って)本を借りました。本は買わない主義なのですが、この本は手元においておきたいなぁと思わせてくれる一冊でした。そばに人がいる所で読んでいたのですが、(おまもり)の「いま、お墓にお願いしてきたんだ、……」という所では、涙があふれて止まりませんでした。近くにいた人は突然、人が泣き出したのでびっくりしたと思います。
重松 清さん。すてきな作品、ほんとうにありがとうございました。

 

 

霊園からお寺の境内に戻ると、お父さんは「ちょっとここで待ってろ」と本堂の脇の事務所でおまもりを買ってきた。交通安全のおまもりを、二つ――お兄ちゃんと、わたしのぶん。「おととしだったかな、その前だったかな、おまもりを売ってるのは知ってたんだけど、やっぱり、ここで買うのはちょっとなあ、って思ってたんだ」でも、もういいよな、初めてみんなで来たんだし、と言い訳するように言って、まずお兄ちゃんにおまもりを渡す。「いま、お墓にお願いしてきたんだ、息子がクルマを運転するのを許してください、って」(おまもり)

 

 

「いじめは……ひとを、きっ、嫌うから、いじめになるんじゃない。人数がたっ、たっ、たくさんいるから、いじめになるんじゃない。ひとを、踏みにじって、くくっ、くっ、苦しめようと思ったり、くくっ、くっ、くっ、くく苦しめてることにきっ、気づかずに……くくっ、くっ、苦しくて叫んでるこっ声を、ききっ、ききっ聞こうとしないのが、いじめなんだ……」言葉がつっかえるたびに、先生の眉間には皺が寄る。息苦しそうに体がこわばり、痙攣するように顎がわななく。本気なんだ、と思った。ほんとうに、この先生は、いま、本気でしゃべっているんだ、とわかる。(青い鳥)

 

 

「でも……罰じゃないですか、野口のこと忘れるなって、忘れるのは許さないって、ぼくらに罰を与えてるわけでしょ?」先生はもう一度首を横に振って、「そうじゃないよ」と言った。「じゃあ、なんなんですか?」「責任だ」 ……。 「野口くんは忘れないよ、みんなのことを。一生忘れない。恨むのか憎むのか、許すのかは知らないけど、一生、ぜっ、ぜぜぜっ、絶対に忘れない」「……はい」耳がツンとする。鼻の奥と目の奥のつながったところが痺れたように熱くなって、たくさんつっかえていたはずの先生の言葉は、そこから先は嘘のようになめらかに耳に流れ込んだ。一生忘れられないようなことをしたんだ、みんなは。じゃあ、みんながそれを忘れるのって、ひきょうだろう? 不公平だろう? 野口くんのことを忘れちゃだめだ、野ロくんにしたことを忘れちゃだめなんだ、一生。それが責任なんだ。罰があってもなくても、罪になってもならなくても、自分のしたことには責任を取らなくちゃだめなんだよ……。ぼくたちは、反省をした。後悔もした。本人には届かなかったけど、作文の中でも、心の中でも、たくさん野口に謝った。でも、それは「責任」とは違うのかもしれない。忘れるな、と先生は繰り返して言った。野口くんのことを忘れるな。自分がやったことを忘れるなよ。忘れていない。いまも思いだせる。これからだって、忘れない。カンペンしてくださいよお――泣いている。野口は確かに泣いている。いまならわかるのに。どうして、あの頃は気づかなかったのだろう。(青い鳥)

 

 

先生は、正しいことを教えるために先生になったんじゃないんだ。「……どういうこと?」先生は、たいせつなことを、教えたいんだ。その一言を言い終えると、それこそ「たいせつなこと」を伝え終えたみたいに、先生は深くて、気持ちよさそうなため息をついた。「よかったよ、間に合って」(進路は北へ)

 

 

おまえの。手のひらは、もう。嫌いななにかを握り。つぶす。ためのものじゃないんだ。たいせつななにかをしっかりと。つかんで、それから。たいせつななにかを優しく。包んでやる。ための。手のひらなんだよ。(カッコウの卵)

 

 

みんな孤独で。みんなの孤独が通じあふたしかな存在をほのぼの意識し。うつらうつらの日をすごすことは幸福である。「ごびらっぷの独白」ぎゃわろッぎゃわろッぎゃわろろろろりッ「誕生祭」草野 心平 (ひむりーる独唱)