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あらすじ
「私たちはお金を使うとき、品物といっしょに、何かべつのものも確実に手に入れている。大事なのは品物より、そっちのほうかもしれない」お金には無頓着。だけど、ほしいものはどうしてもほしい!意を決して何かを買ったり、考えた末にあきらめたり。直木賞作家が、そんなお金にまつわるひたむきな思いと体験をつづった。多機能の電子辞書。まあたらしい冷蔵庫。輝かんばかりの女になるための化粧品。年齢にふさわしい所持金。待ち人があらわれるまでの空白の時間。母との忘れられない旅…。その値段は?お金は何をしてくれて、何をしてくれないのだろう?日々と物欲のくらしから垣間見た、幸福のかたち。

 

ひと言
角田光代さんのエッセイ。笑いあり考えさせられるところありで、とても楽しく読ませてもらいました。
私たちのたいていは、ものすごくひまな人間だと私は思っている。どんなに仕事が忙しくても、するべきことなんか本当は少なくて、退屈なんだと思っている。……。そうして、私たちはひまというものを何よりもおそれている。ひまで、退屈で、すべきことがない、ということは致命的だ。この場所にいる意味がことごとくなくなる。そのことを私たちはおそれる。そのおそろしい感じを、携帯電話は忘れさせてくれるのだ。初期設定をしたり試しメールをしたりすることで時間がつぶれるという意味ではない。自分だけの電話を持ち、そこにつながるただひとつの番号とアドレスを持ち、自分だけの着倍音を選び画面を選び、それからストラップなんかも選んでみて、まるで電話をIDカードのように仕立て上げ、そのIDカードを用いてだれかと話したり、手紙の交換をしたりする。この一連のものごとが、私たちはひまではないと錯覚させてくれる。ひまじゃない、だからだいじょうぶ、と、このちいさな電話はけなげにも私たちを安心させる。(携帯電話 26000円)