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あらすじ
新たな門出を祝う34歳の離婚式。友人の風変りな離婚パーティで顔を合わせた5人の男と女。動揺、苛立ち、虚しさ、自分を取り戻そうとするのだが、揺れるこころが波紋をなげる。それぞれが見つける新たな出発を描いた長編小説。

 

ひと言
久しぶりの角田 光代さん。八日目の蝉ほどではないけれどやっぱりうまいし読みやすいです。角田さんの本は人気で なかなか図書館で借りられないけどもっといろいろと読みたい作家さんです。
そういえばさあ。フローリングの床に寝転がって、おもしろそうに宇田男は言った。ついこないだのテレビで、お笑いの人が絶対に断られない愛の告白っていうのを教えてたよ。勝手に好きでいてもいいですか、って言うんだって。それなら言われたほうは断ることができないじゃん?イエスノーの答えを求められているわけではないからさ。なるほどねえ、って思ったよ。どうぞご自由に、って言うしかないもんね。充留は指の先まで赤くなっていくような気がした。この人はぜんぶ知っているんだ、と思った。私は宇田男に負担をかけない言葉をさがしたのではない、断られることのない、自分が傷つけられることのない言葉をさがしたのだ、宇田男が言うように。(二月の決断)
「コステロ、いったよなあ」正道は天井を見上げ、なつかしそうに言う。正面に座る裕美子から見れば、やっぱり心底なつかしがっているふうに見える。「なんだかんだいって、おれ、あんたといっしょにいてすごく楽しかった」喉の奥で待機していた罵りの言葉が、すべてさらさらと蒸発してしまう。裕美子は唇を噛んでワインボトルを引き寄せ、自分のグラスになみなみと注ぐ。私とは違い、正道は私を傷つける方法を的確に知っている、と思う。おそろしいことに、実の母親より、長年の女友達より、この男は私を正確に傷つけることができる。十五年かかって習得したことが、相手の傷つけかただなんて、皮肉というよりなんだか不思議な気がする。「そうだね」降参の白旗をあげるような気分で裕美子は言い、味付け海苔をぱりぱりと噛んだ。(四月のパーティ)