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あらすじ
あの「名作」が京都の街によみがえる!?こんな友情もあったのか。日本一愉快な青春小説。「真の友情」を示すため、古都を全力で逃走する21世紀の大学生(メロス)(「走れメロス」)。恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀(「桜の森の満開の下」)。馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者(ぐどうしゃ)たちの行き着く末は?誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

 

ひと言
桂駅のホームを駆けたり、鴨川デルタの濁流(ちょっと想像しにくかったですが……)へ飛び込む芽野。京都の街を思い出しながら、ハチャメチャな「走れメロス」を楽しませてもらいました。特に「桜の森の満開の下」は、森見登美彦を読んで、次の百物語を読む前にネットで坂口安吾のPDFを読んで、すぐにもう一度森見登美彦を読んだくらい とてもよかったです。

 

 

『桜の森の満開の下』(対比)
●桜の木の下から人を取り去ると、それは恐ろしい景色になります。
●二人が向かい合っているのに、この部屋にはもう誰もいないようです。男は、なんだか似ているようだと思いました。似たことがいつか、あった、それは、と彼は考えました。そうだ、あれだと気づいて、男はびっくりしました。桜の森の満開の下です。あの下を通る時に似ていました。男はゾッとしました。
●桜の下のベンチに、一人の男が座っております。男はずいぶん長くそこにいるのでしょう、肩には降り注ぐ花弁が積もっています。彼はいつまでもそこに座っていることができます。なぜなら、彼にはもう帰るところがないのですから。(森見 登美彦)

 

 

●桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、…
●ふと静寂に気がつきました。とびたつような怖ろしさがこみあげ、ぎょッとして振向くと、女はそこにいくらかやる瀬ない風情でたたずんでいます。男は悪夢からさめたような気がしました。そして、目も魂も自然に女の美しさに吸いよせられて動かなくなってしまいました。けれども男は不安でした。どういう不安だか、なぜ、不安だか、何が、不安だか、彼には分らぬのです。女が美しすぎて、彼の魂がそれに吸いよせられていたので、胸の不安の波立ちをさして気にせずにいられただけです。なんだか、似ているようだな、と彼は思いました。似たことが、いつか、あった、それは、と彼は考えました。アア、そうだ、あれだ。気がつくと彼はびっくりしました。桜の森の満開の下です。あの下を通る時に似ていました。どこが、何が、どんな風に似ているのだか分りません。けれども、何か、似ていることは、たしかでした。
●彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。(坂口 安吾)