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あらすじ
友情と恋の、どちらかを選ばなくてはならなくなったら、どうしますか。鎌倉の海岸で、学生だった私は一人の男性と出会った。不思議な魅力を持つその人は、“先生”と呼んで慕う私になかなか心を開いてくれず、謎のような言葉で惑わせる。やがてある日、私のもとに分厚い手紙が届いたとき、先生はもはやこの世の人ではなかった。遺された手紙から明らかになる先生の人生の悲劇。それは親友とともに一人の女性に恋をしたときから始まったのだった。

 

 
ひと言
高校時代に「こころ」と出会って今回で読むのが7,8回目になります。前に読んだのは47歳のときで、漱石が「こころ」を執筆した歳でした。今年は漱石が亡くなった49歳になったこともあり、40代最後の夏(この本が本屋さんに並ぶ夏になると読みたくなります)を惜しみながら読みました。どうして「こころ」を何回も読み返すのか自分でもわからなかったんですが、私にとって「こころ」を読み返すということは、アルバムのページをめくって昔を懐かしんでいるのと同じであることに気づきました。

 

 

私の眼は彼の室の中を一目見るや否や、あたかも硝子で作った義眼のように、動く能力を失いました。私は棒立に立竦みました。それが疾風の如く私を通過したあとで、私は又ああ失策ったと思いました。もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫ぬいて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯を物凄く照らしました。

 

 

叔父に欺むかれた当時の私は、他の頼みにならない事をつくづく感じたには相違ありませんが、他を悪く取るだけあって、自分はまだ確な気がしていました。世間はどうあろうともこの己は立派な人間だという信念が何処かにあったのです。それがKのために美事に破壊されてしまって、自分もあの叔父と同じ人間だと意識した時、私は急にふらふらしました。他に愛想を尽かした私は、自分にも愛想を尽かして動けなくなったのです。

 

 

女には大きな人道の立場から来る愛情よりも、多少義理をはずれても自分だけに集注される親切を嬉しがる性質が、男よりも強いように思われますから。

 

 

記憶して下さい。私はこんな風にして生きて来たのです。