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あらすじ
故郷の鉄道の行き交う波のような揺れの中、青春時代の儚い記憶がふんわりと浮かび上がる。「夏の雫」「失われた島たちの夢」「橋または島々の喪失」「不完全な円」「もしその歌が、たとえようもなく悲しいのなら」「フランスの自由に、どのくらい僕らは、追いつけたのか?」「さようなら、僕のスウィニー」「虚無の紐」「キャラメルの箱」「確かな海と不確かな空」の10編。大崎善生の新境地、鉄道を巡る短編小説集、発車します。

 

ひと言
どの短編も描写がきれいで、幻想的な感じのする作品でした。禁煙を題材にした「確かな海と不確かな空」がとても心に残りました。私も2003年の7月1日からタバコが値上げになるのをきっかけに禁煙をし、ちょうど今日7月1日で7年になります。作者の気持ちが痛いほどよくわかりました。「自分にとっての煙草の煙は物質ではなくて、記憶そのものになってしまっているのではないか。僕がいまだに焦がれているのは、ニコチンにくらくらする自分の感覚の記憶なのだ。つまり煙草と僕はある意味ではそれをやめることによって、完全に一体化したといってもいいのかもしれない。……長い時間、引き裂くような思いを経て、父もまた実体から記憶へと変質を遂げたのかもしれない。……人間と人間だったとき、あるいはその感覚が鮮明だったころはできなかったそれが、やっとなされつつある。父は物体から精神となることで、自分と一体化した。そういう意味で僕ははじめて父とひとつになることができたといえるかもしれないのだ。」