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あらすじ
栗原一止は信州の病院で働く、悲しむことが苦手な内科医である。ここでは常に医師が不足している。専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を3日取れないことも日常茶飯事だ。そんな栗原に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。第十回小学館文庫小説賞受賞作。

 

ひと言
最先端医療が必ずしも患者を幸せにするとは限らないんだということに改めて気付かされました。孤独な病室で、機械まみれで呼吸を続ける延命治療ではなく、北アルプスの山々を見るために病院の屋上に連れていってくれたこと、今は亡き夫との思い出の詰まった文明堂のカステラを食べさせてくれたことが、安曇さんにとってはほんとうに幸せで生きていることを実感できたのだと思います。「病いの人にとって、もっとも辛いことは孤独であることです。先生はその孤独を私から取り除いてくださいました。たとえ病気は治らなくても、生きていることが楽しいと思えることがたくさんあるのだと、教えてくださいました。……」出てくる人たちの暖かさ優しさに触れることができた作品でした。