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あらすじ
廃バスに住む巨漢のマスターに手ほどきを受け、マスターの愛猫ポーンを掻き抱き、デパートの屋上に閉じ込められた象インディラを心の友に、チェスの大海原に乗り出した孤独な少年。彼の棋譜は詩のように美しいが、その姿を見た者はいない。彼は「盤上の詩人」と謳われたアレクサンドロ・アリョーヒンというロシアの伝説のチェスプレイヤーにちなんでリトル・アリョーヒンと呼ばれるようになる。無垢な魂を持つ少年の数奇な人生をせつなくも美しく描いた作品。

 

ひと言
読んでいる間、温かい何かで心の中が満たされていくような作品でした。せつなく、いとおしい、宝物のような長篇小説という書評がありましたが 全くその通りだと思います。タイトルの「象と泳ぐ」もこの作品を読んだ後では、これ以外のタイトルが思い浮かばないぐらいとても作品をよく表した言葉だと思いました。私が印象に残ったのは、マスターとの記念すべき第1ゲームのシーンの、「少年が白、先手になった。少年はe2のポーンをe4まで、二升進めた。 [e4]  もらったばかりのチェスノートの1ページめ、第一行の一手めに、少年は鉛筆でそう記した。少し緊張しながら、間違えないよう丁寧に、小文字のeと数字の4を書き入れた。……」そして 第15章でミイラからの手紙が届き「……。封を破ると、三つ折りにされた便箋が一枚出てきた。そこには時候の挨拶も、近況報告も、署名もなく、ただ真ん中に 【e4】 とだけ記されていた。忘れようもないミイラの筆跡だった。一週間後、リトル・アリョーヒンは返事を書いた。 【c5】 それが彼の返事だった。」は涙があふれて止まりませんでした。こどもの頃はチェスで遊んだこともありましたが、もう何十年もチェスをしていません。もし私が残りの人生の中でチェスをするようなことがあったら、必ずリトルアリョーヒンを思いだそう。そして 必ず1手目は【e4】とコマを進めようと思いました。