やれやれ。
​カジノの電灯というものは、どうしてあんなに容赦なく人の心を剥き出しにしてしまうのだろう。

​僕がマカオの迷宮で経験した、ある奇妙な喪失の記録をここに残しておく。もしあなたがこれからバカラのテーブルに座ろうとしているなら、冷えたペリエでも飲みながら、少しだけ耳を傾けてほしい。





​5月4日:最終日の朝、あるいは消えた30分間について
​チェックアウトの前に、僕は軽くバカラのテーブルを嗜むことにした。それはまるで、朝食のトーストにほんの少しのバターを塗るような、ごく自然な行為であるはずだった。

​しかし、30分後、僕は自分が何をしていたのかをうまく思い出せなくなっていた。

​手元からは35,000が綺麗に消え去っていた。
まるで最初からそこには存在しなかったみたいに。

​おそらく、キング・クリムゾンのスタンド能力が発動して世界から時間が消し飛ばされたか、あるいは誰かの領域展開によって0.2秒間の「無量空処」を脳に流し込まれ、僕の意識が廃人にされていたのだろう。それ以外に説明がつかない。

​恐るべきは「海立方」と「回力」だ。あそこには、確実に人間から記憶と実弾を奪い去る特殊な磁場が存在する。



​午前8:00のディテール
​ホテルの部屋のペルシャ絨毯を見つめながら、僕は冷酷な数字をノートに書き留めた。

​バカラ: -52,500
​ブラックジャック(BJ): +15,500
​クラップス: -3,000
​トータル: -40,000

​僕はカーサレアルをチェックアウトし、重い足取りでグラリスへと向かった。少しばかり風の向きを変える必要がある。お気に入りの古いジャケットを着て、BJのテーブルに滑り込んだ。

​しかし、潮目が変わることはなかった。悪い流れというものは、一度こじれると、古い恋人のように執拗に僕の背中に張り付いて離れない。

​グラリス(BJ): -7,400

​オフ会という名の救い、そして最後の直線
​午前10時からは「マカオおさんぽ」のオフ会に参加した。
(近いうちにYouTubeに僕の姿がアップされるかもしれない。期待せずに待っていてほしい)













​頭の芯が痺れるほどの大負けの最中ではあったけれど、そこで過ごした時間は悪くないものだった。人々は親切で、空気は穏やかだった。地獄の淵で食べる上質なマドレーヌのようなものだ。悲惨な現実の中に、ひとつでも温かい思い出が残ったのだから、それはそれで良しとすべきなのだろう。

​しかし、感傷は勝負を救ってはくれない。

グラリスに戻り、最後の「1時間勝負」という名の直線レースに挑んだ。競馬で言えば、最終コーナーを回って鞭を入れる瞬間だ。

​結果から言うと、僕の馬は一歩も前に進まなかった。

​グラリス(再戦):
​BJ:-2,000
​バカラ:-6,000

​完全に、クソ負けである。


​5月4日:最終結果の考察
​やれやれ。壁の時計が非情な現実を告げていた。

​バカラ: -58,500
​BJ: +6,100
​クラップス: -3,000
​トータル: -55,400

​バカラ(Baccarat)。その響きは、どこか「破滅(Bankruptcy)」という言葉に似ている。あるいは、日本語の「馬鹿(Baka)」がやるからバカラなのかもしれない。僕は静かに、そして厳かにバカラからの引退を決意した。

​これまで僕がコツコツと積み上げてきた累計勝ち分の、実に70%がマカオの乾いた砂の中に吸い込まれてしまった。それはまるで、丁寧に作り上げた砂の城が、夕方の満潮であっけなく崩れ去るのを見るようなものだった。

​でも、物語はここで終わりじゃない。
世界がどれだけ不条理であっても、僕らはまた明日から生きていかなくてはならないのだ。

​僕は再び、静かに、そしてストイックに勝ちを拾い集める作業に戻るだろう。あの、遠い光のように輝く10万香港ドルの地平線を取り戻すために。

​やれやれ、まずは濃い珈琲でも淹れるとしよう。