「ヒロ」早く起きなさい、学校遅れるわよ。
「母さん、なんでもっと早く起こしてくれないんだよ。」
「あんたねぇ、もう6年生だよ。来年は中学生なんだから、
自分でちゃんとしなきゃ。早く朝ごはん食べてよ。私もこれから仕事なんだから。」
「兄貴は?」
「もう、高校へ行ったよ。」
うちは、3人兄弟で、一番上の姉は今年から大阪の専門学校へ行ったので、
今は、高校3年生の超まじめな兄貴と二人、厳格な親父といつも明るい母、そして優しいおじいちゃんとおばあちゃんの6人で住んでいる。
上二人と年が離れているので、いじられることも多く、両親が共働きということもあって、
家に居る時の俺は、いつもおじいちゃんとおばあちゃんの部屋で過ごすことが多かった。
「あ!俺メシいいや、遅れそうだから、牛乳だけ飲んで行くよ。」
「こら、ヒロ。ちゃんと食べて行きなさい。」
「ごちそうさまぁ。じゃぁ、母さん行ってきま~す。」
「ヒロ、ちゃんとカギ持って行きなさいょ。母さん今日夜勤だから。」
目の前は、エメラルドグリーンの瀬戸内海。
そしてすぐ後ろは、春の新緑をたたえる山がせまる、
自然に囲まれた小さな港町「潮見町」。
潮風が運ぶ、春の風の中、俺は今日も小学校へ向かって走っていた。
「ヒロちゃんおはよう。」
「おばちゃん、おはよう。」
友達との溜まり場の駄菓子屋のおばちゃん。
いつも朝から店先で、汐見小学校へ登校する生徒に声をかけて、
もう数十年になるそうだ。
だからこの小学校へ通った生徒は、みんなおばちゃんとは顔見知りで、
親父から聞いたことがあるが、昔は結構美人で看板娘だったそうだ。
今は、あまり見る影もないが…でも気さくで、商売っけのない
俺たちの味方的な存在であった。
「はよう行かんと、また遅刻するよ。」
「帰ったら、ノブやシンと寄るから。じゃぁね、行ってきます。」
「やばぁ。間に合うかな?新学期早々遅刻すると、
担任のヒゲもじゃらにまた嫌味タラタラ言われるなぁ。」
あのヒゲ面を顔の前に差し出して、あ~だこ~だとネチネチ
言われるのは、本当に拷問に近いし、朝から気分悪くなる。
急がなきゃ。
「ふぅ~!学校が見えてきた。なんとか間に合いそうだ。」
キンコンコンカンコ~
キンコンコンカンコ~