細菌のべん毛運動で新知見動力源はプロトン | H4O水素水のブログ

細菌のべん毛運動で新知見動力源はプロトン

  大阪大学大学院生命機能研究科の難波啓一教授、南野徹助教らは、細菌のべん毛を構築するタンパク質輸送装置が駆動するためには、ATPの加水分解エネルギーだけでなく、水素イオン(プロトン)の駆動力も用いていることを発見した。ネイチャー(1月24日号)に掲載された。


  細菌には細胞表層にべん毛がある。これは、らせん状になった細長い繊維が束になって運動する、30種ほどのタンパク質で構成された超分子ナノマシンだ。細胞膜にある基部体と細胞外に伸びるフックとべん毛繊維で構成される。基部体は回転モーターとして働き、らせん状のべん毛繊維はプロペラのように回転して推進力になり、フックはそれらをつないでいる。べん毛は、タンパク質が順次、先端の構築を助けるキャップの真下まで運ばれ、周りのべん毛タンパク質・フラジェリンと結合することで伸長する。


  直径40nm・高さ50nmの基部体の中心には、タンパク質輸送装置がある。フラジェリンは、この装置の中央基底部にある輸送ゲートから直径2nmのチャネルの中へ選択的に取り込まれる。毎秒20分子程度が、ゲートの前でチャネルに入ることができるよう解きほぐされ、装置を通過し、べん毛の先まで輸送される。


  これらの過程でエネルギー補給源と考えられていたのが、輸送装置を形成するタンパク質の1つ、ATP加水分解酵素(ATPase)の『FliI』だ。FliI遺伝子が欠損するとべん毛が作られないことから、これがフラジェリンの輸送をするためのエンジンであると考えられてきた。しかし、ATP加水分解反応のエネルギーがどのようにフラジェリンの輸送に用いられるかはわかっていなかった。


  研究グループでは、FliIや、FliIのATPase活性を制御する輸送装置タンパク質『FliH』等を欠損させた変異株で運動性を調べたところ、FliIとFliHを一緒に欠損させるとわずかにべん毛が形成された。さらに、輸送装置でゲートを形成するタンパク質『FlhA』と『FlhB』が変異すると、べん毛の形成頻度が高くなることや、水素イオン濃度勾配や電位差で作られる『プロトン駆動力』を無くすと、輸送が起きず、べん毛が形成されないことがわかった。この駆動力は、基部体の回転のエネルギーなども担っている。


  ATPを用いるFliIとFliHは、フラジェリンが輸送ゲートに入るまでの初期過程を助けている。その後の過程となる多くのエネルギーを必要とするフラジェリンをほぐしながらチャネル内に継続的に送り込む際には、輸送ゲートがプロトン駆動力のエネルギーを用いて働いていることが判明した。


  今回、タンパク質輸送装置が、プロトン駆動力を巧みに利用して、高速かつ高効率にタンパク質の輸送をしていることがわかったが、実際どのように利用されるかはまだ理解されていない。今後、輸送装置の立体構造を明らかにしていくと共に、輸送に関わるタンパク質を1分子で計測することなどで、高効率な物質輸送の仕組みやエネルギー変換の仕組みを解明していくという。


  この仕組みを理解することは、今後バイオナノデバイスやバイオナノマシンが生み出されていくための重要な基盤となる。難波教授は「この輸送装置は、赤痢菌やサルモネラ菌など、病原性細菌の病原性因子分泌装置と極めて類似性が高いため、病原性細菌による感染症の予防や新しい治療方法の開発にも役立つでしょう」と話す。


出典:知財情報局