リニアモーターカー再浮上、トンネル暖めませんか
「通常の新幹線より数百~1000円高い程度」。ずいぶん踏み込んだものだ。JR東海の葛西敬之会長が明らかにした、リニアモーターカーの運賃だ。2月28日にはボーリング調査が始まり、リニアモーターカーは2025年の中央新幹線実現に向けて進み始めた。
再建事業団も含めたJRの意思として、リニアが実現するとは100%信じられなかったのだろう。その証拠に汐留も品川も土地を売ってしまった。駅はどうするんでしょうか。
そんな状態から浮上し、一人立ちするところまで来たのだから大きな前進である。お祝いに1つ提案しておこう。「トンネルを暖めましょう」という簡単な話だ。
「高熱隧道」再び
正直、リニアのエネルギー消費は新幹線よりは増えるだろう。速度が2倍として空気抵抗は4倍。下側をカバーできる分はプラスだが、帳消しにはならない。断面積が小さい分は有利だが、それだけ定員も減る。1人当たりではどうか。省エネを徹底し、新幹線に近づけないと、「数百~1000円プラス」は実現しない。
時速500キロも出すと、抵抗の大部分は空気抵抗だ。空気抵抗は空気の密度に比例する。そして空気の密度は温度に反比例、細かく言うと絶対温度に反比例する。
リニア新幹線の延長の8割がトンネルだという。何しろ通るのが東海道線コースでなく、平地のない中央線コースだ。公害問題が厳しい現状では街中も地下にした方が安上がりかもしれない。
そのトンネルの中の空気を暖めてはどうだろう。温度は50度程度で十分だ。というより、それ以上は難しい。保守、点検で人が入ることもあるし、非常時には乗客に降りてもらう事態もあるだろう。50度なら苦情で済むが、それ以上では防護服だの何だの、大げさな話になる。
外気温は普通なら5~35度、中を取って20度。50度にすれば30度上がる。密度は、絶対温度300度前後での30度だから10%くらいは下がる。空気抵抗はその分、やはり約10%下がる。本当は空気の粘性も変わるのだが、細かい計算はここではしない。
エアコンの負荷が増える、液体ヘリウムや液体水素の気化量が増えるなど、いろいろ問題はあるだろうが、それを差し引いても大きな省エネになるはずだ。
昔、トンネル内部を真空に引くという提案があったが、手を抜きながら、それを10分の1だけやってしまおうというわけだ。
排熱を利用、足りなければ排熱を作る
問題は熱源だ。空気抵抗を10%減らすために、わざわざエネルギーを使ってトンネルを暖めるのではありがたみも半分だ。そこにある排熱を使う。
まず、線路脇に置くことになる給電設備が熱を出す。このパワー素子の冷却水(加熱されている)を送って(細かく言うと熱交換器を1段入れる)、トンネルを暖める。トンネルの両端何キロかは空気が出入りしてあまり効かないだろうから、ラジエーターはトンネル中央に集中して並べたい。できるものなら給電設備そのものもトンネル内に置きたい。ただ、給電設備の配置にも都合があるだろうから、それに逆らわない程度に置く。
これだけで「50度」に足りるかどうかは、分からない。トンネル表面への熱伝達はどのくらいか、上下の温度分布はどうなのか、片勾配のトンネルは全然ダメか…、分からないことだらけだ。時定数も分からないから、トンネルが冷えている朝方は燃費が悪いかもしれない。
しかも開業目標の2025年には、給電設備のパワー素子の効率が大きく上がっている可能性がある。今のシリコンでなく、それを炭化したSiC(炭化ケイ素)を基板にしたパワー素子が登場すれば、効率は上がるだろう。いろいろな試算があるのだが、例えば今3.5%ある損失を1.4%まで下げられる。だとすると、排熱はますます少なくなるので、冷却水は十分な熱を蓄えられない。正直に言うと定量的には分からないが、直観的には、これでは熱源が足りない。
足りなければ発電してしまえばよい。列車を走らせるのに使う電気は、普通に考えれば電力会社から買ってくるものだ。だが、買ってきた電気ではなく、現場で分散電源を使って自家発電して、その排熱を使えばよい。
2025年に分散電源として何が主役なのかを占うのは難しいが、燃料電池、ガスタービンエンジン、レシプロエンジンなど選択肢は広い。夜は止めたいからエンジン系が有望な気がするが、どの方法でも必ず排熱は出る。全部でなくてよい。必要な熱の分だけ発電すれば十分だ。2025年には分散電源にも価格競争力がついているだろうが、その前提はあくまでも「排熱を生かせる」ことだ。無理して頑張って買電をやめることもない。
分散電源は燃料を扱うこともあって“トンネル内”というわけにもいかないだろう。発電設備はトンネル出入り口のそばに置いて、温水や水蒸気の形でトンネル内に送る。PEFC(固体高分子型燃料電池)やレシプロなら温水、SOFC(固体電解質型燃料電池)やタービンなら水蒸気だろう。
「リニアは鉄道だから自動車の敵」と考えてはいけない。リニアのために開発するパワー半導体、超伝導といった技術は自動車にも波及する。自動車の立場からも応援したいプロジェクトなのである。
出典:Tech On!