燃料電池の開発に見る日本とドイツの違い | H4O水素水のブログ

燃料電池の開発に見る日本とドイツの違い

 先週開かれた「第4回国際水素・燃料電池展」の基調講演で,米国,日本,ドイツの政府関係者が,各国の燃料電池開発支援策について講演した。三者三様と言えばそれまでだが,それぞれの国の立場や考え方の違いが見えて,ちょっと面白かった。


 米エネルギー省のPaul Dickerson氏(Chief Operating Officer, Energy Efficiency and Renewable Energy)によれば,米国では1994年を境に原油の国内生産を輸入原油が上回るようになり,現在は輸入原油が全体の2/3まで増加しているという。エネルギー安全保障上きわめて好ましくない状態が続いているわけだ。


 米国のCO2排出量を部門別に見ると,発電所の39%に続き,運輸部門が33%と大きな比率を占める。ちなみに日本では運輸部門のCO2排出量は20%程度である。この運輸部門が米国の石油の67%を消費していると言う(米国では火力発電所はおもに石炭を使うため)。Dickerson氏の講演は,バイオ・エタノール車やプラグイン・ハイブリッド車とともに自動車の脱石油化につながる燃料電池車の普及に大きく期待していると,という趣旨だった。


 日本からは経済産業省資源エネルギー庁の遠藤健太郎氏(燃料電池推進室長)が我が国の燃料電池開発シナリオについて講演した。平成20年度の燃料電池関連の政府予算は130億円を超えるとのことで,さまざまなプロジェクトが動いている。遠藤氏は,現在,2200サイトに及ぶ大規模実証事業を展開している1kW級定置型燃料電池の開発について詳しく説明し,メーカーの壁を越えて部品共通化を進めることなどで大幅なコストダウンを達成しつつあると強調した。ご存知の方も多いと思うが,この装置は大手都市ガス各社が電機メーカーなどと共同で開発している家庭用のコージェネレーション装置で,燃料電池による発電とその排熱を利用した温水供給器である。経済産業省が中心となって仕様の統一や開発計画を作り,産官一体で実用化を進めている。


 さて,最後にドイツの政府系水素・燃料電池開発機関のKlaus Bonhoff氏(Managing Director, NOW National Organisation Hydrogen and Fuel Cells Technologies)が,ドイツを中心にしたヨーロッパの水素・燃料電池実用化支援策について講演した。EUのJTI(The European Joint Technology Initiative)という共同開発プロジェクトや,ドイツ国内のNIP(National Innovation Program)という開発計画について説明したが,日本の経済産業省のプロジェクトに比べると,かなり広範な分野を対象に研究開発体制を作っているようだ。


 もちろんドイツでも日本と同様,自動車や家庭用/業務用のコージェネレーションは応用の中心に置かれているが,ほかに「スペシャル・マーケット」と呼ぶ分野を設定している。フォークリフトや産業用トラックなどの搬送機器,カーゴ(貨物)バイクや近距離用自動車などの都市内交通,レジャー用ボートなどの動力源として,あるいはトラックやキャンピング・カーから船舶や航空機用の補助動力源(APU)などを対象に,燃料電池の市場開拓と製品開発支援を行っている。ここでは,「産業界に対して初期の市場機会を提供し,新技術の社会的受容を創出する」のが目的と言う。


曲がり角にきた燃料電池の開発


 ところで,燃料電池市場の立ち上がりは,燃料電池車の量産化時期の遅れによって,当初の予想よりだいぶ遅れそうである。まだ実需がまったくないにもかかわらず燃料電池展は大変賑わっていたが,これは政府予算がかなりの規模で投入されているから。何とか自動車以外のアプリケーションを早く開拓したいところである。


 日本は経済産業省の進める家庭用定置型燃料電池がその最有力候補だが,筆者は少し不安を感じている。従来の湯沸かし器に比べると非常にコストの高い製品で,目標価格は50万円程度としているが,最初は100万円以上してしまいそうである。しかも,最近のガス料金の値上がりで,相対的に電気代が安くなり,コージェネレーションのメリットが出しにくくなりつつある。ユーザーから見ると,初期投資の回収が一層難しくなる気配である。


 それでは売れなくなるので,おそらく導入にあたって補助金が付くことになるのだろう。でも,そんなことをして無理に市場に出すより,市場のニーズにぴったり合って,ユーザーに喜ばれる製品を開発する方が大事ではないかとも思う。経済産業省は産業振興が役目なので産業界の方を向いた大型の開発支援策を策定するのはやむを得ない。ここは,ドイツの方法を参考にして環境省に頑張ってもらい,ユーザー目線で多様性のある環境技術支援策を打ち出して欲しい,などと思った。


出典:Tech On!