料理の話ではありません(ヾノ・ω・`)




喬正院の授与品(五鈷杵)の記事を書いているときに、ネットをうろうろしておりまして…。


その最中に気になったのがこの動画。



いわゆる企業の自社製品紹介動画ではあるのですが、そのなかで

『五鈷杵を作れる職人がどんどん減ってる』

『いつまで五鈷杵を作る技術が維持できるか不明』

みたいな話が…



【製造工程】


五鈷杵は溶接や嵌め込みではなく、鋳造の一体構造。


この鋳型ってどんな構造なんでしょ???  (・`ω・´;)ゴゴゴゴゴゴ

3Dプリンタで作るならイメージ出来ますが、金型はイメージが出来ない…



五鈷杵の刃は

チューリップの花みたいな、内窄みの形状で、中央の刃も付け根にくびれがある

という複雑な立体構造。


こんな形状だと

1個毎に砂型を作っては壊して、作っては壊して…

ってやるしかないのでは…?

と思ってしまう…

まぁ、素人の意見なんですけど_(:3 」∠)_




気になる〜!

ということで探したら、YouTubeに製作過程の動画がありました⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝



やはり砂型…。


予想通りではありますが

彫金を施す前の状態だと装飾はほぼないのか…

というのが初見の感想。


やはり、ダイキャストみたいに精密金型に加圧で流し込んで、一発でドーン!と完成 ではないのですねぇ。



予想外だった点としては

『刃の先端は繋がっている』

という…


どうやら刃の先端が空気抜き穴になっているような構造…


ということは、インドやチベットの五鈷杵の刃の先端が繋がっているのは

『切り離してない』

ってことっぽいですねぇ(  ॑꒳ ॑   )



着色は

・大根おろしで五鈷杵を洗う

・銅鍋に胆礬(硫酸銅)と緑青の溶液を入れて、一緒に煮込む

という…(  ॑꒳ ॑   )


調べてみたら

・煮汁の成分

・煮込み時間

・煮込む温度

などを変えることで発色が変わる模様。



さらに、この煮込むことで起こる発色は、金属そのものが変色しているのではなく

表面に酸化膜が構成されて起こるものだそうで。

日常の摩擦などで剥がれてしまうとのこと。


日常使用するには、何かしらの保護剤の塗布が必要な模様…。



【材料の話】


[佐波理]

別名はいっぱいあって『響銅』『鳴金』などが有名。


資料をザッと浚ったところ、表記としては

製品としては『佐波理』と『鳴金』が混在

宗教関係や美術品としては『佐波理』が多い(正倉院も『佐波理』としてる)

歴史や金属関係の論文では『響銅』が多い

みたいな傾向がある印象。


まぁ、あくまで印象ですけど_(:3 」∠)_



『佐波理』ですが、コレって結局のところなんなんだろう?

ってなことを思いまして…。


調べてみると、成分はおおよそ銅8割,錫2割程度の合金とのこと。

※正倉院の収蔵品の佐波理は成分の割合も細かく公開されてる(銅80%,錫21%,ヒ素1%など)


正倉院のサイトでは、佐波理は『高錫青銅』と説明されてました(  ॑꒳ ॑   )


現代の一般名称でいえば

銅と錫の合金=青銅

なので、ものすごーく広い意味で言えば、佐波理は10円玉と同じ金属

って事ですね( ˙꒳˙ )


仏具と十円玉では成分の割合が全然違うので

釘(軟鉄)と包丁(鋼)は同じ『鉄』

みたいな感じではありますけれども。

青銅の硬度は主に錫の量で決まり、多いほど硬い、とのこと。

10円玉は錫が1〜2%で、仏具の場合は20%弱。




この佐波理で出来てるモノって、美術品や仏具意外で何かあるかな?

と思って成分の割合が同等、もしくは近似のものを探したところ


佐波理=古代の『青銅の剣や鉾』


などが近似した成分構成である、ということでした。


ってことは…

佐波理で作られた独鈷杵とか、文字通り意味で『古代の武器』のレプリカ…? (・`ω・´;)



調べてみたところ、佐波理の割合の青銅の鋳造は難易度がかなり高くなる模様(硬度が高いので、割れたりする)


もしも、現代技術の五鈷杵が青銅器時代に存在していれば、『宮殿の宝物庫に収蔵されるクラスの品質』って事になりそうですねぇ(  ॑꒳ ॑   )



ちなみに青銅器時代といえば、中国であれば殷〜周のあたりでしょうか。

(技術の伝来の関係で、日本には青銅器時代がなく、磨製石器から鉄器時代へ飛び級している)

封神演義などの舞台となっている時代なので、1990年代後半に週刊少年ジャンプを読んでた層にはイメージし易い時代かも?( ̄∇ ̄)




[四分一]

『四分一』という金属は『銅と銀の合金』とのことで、『朧銀』とも呼ばれるらしい(  ॑꒳ ॑   )


名前的に銀が25%くらいなんだろうな〜と思ったら、大半が銀というのもあるそうで…


割合ではなく、合金の名前?と思って調べたら

・銅+亜鉛=黄銅(真鍮)

・銅+錫=青銅

・銅+金=赤銅(紫金)

・銅+銀=四分一

という名称、とのこと。


四分一について調べると

銀92〜93%程度+銅7〜8%程度の割合が最も硬く

この割合を超えると徐々に柔らかくなる

という合金である、と。


つまり

最も硬い四分一=シルバー925(アクセサリーの定番金属)

ですね(⁠ ⁠╹⁠▽⁠╹⁠ ⁠)

※浄土宗や曹洞宗の数珠に付いている銀環もシルバー925が多い


面白いなぁ、と思って金属関係の書籍を読んでみたら

日本では平安時代末期から装飾用の銅合金が研究、生産されていた

という感じらしく。


メッキや塗装といった方向ではなく

『合金』という方向に発展していった。


更にカラーバリエーションをもとめて

溶液で煮て、酸化被膜を作る

という方向へ進んで

『地金と酸化被膜のコラボレーション!』

みたいな感じで、酸化被膜の

・成分

・厚さ

などが研究された

みたいな経緯があるっぽい。


漆が万能過ぎて、塗装ってものがあんまり発達しなかった可能性が…?(⁠ ⁠╹⁠▽⁠╹⁠ ⁠)




[四分一佐波理]


動画内で説明されてた名前です(`・ω・´)


四分一は『朧銀』

佐波理は『響銅』

なので、四分一佐波理=朧銀響銅


これを胆礬(硫酸銅)と緑青(青銅の青っぽい錆)を溶かして作られる、火口湖のようなエメラルドグリーンの溶液で、良い色になるまで煮たもの(`・ω・´)キリッ




まぁ、別名はともかく、名前的に

銅+錫+銀

を主体をする合金、だと思うのですが…


この成分の金属って〜?と思って調べたら

SnAgCu系の無鉛はんだ

が該当Σ( ̄。 ̄ノ)ノ

※はんだ=金属の接合に使用する合金。主に電子回路の製造に使用される。


はんだってことは

・比較的簡単に溶ける

・かなり軟らかい

という金属のはず…


成分の割合と添加物で、うまいこと剛性と弾性を確立してるんでしょうねぇ。

こればっかりは (ヘ ॑꒳ ॑)ヘ_/カタカタ って調べてもさっぱり…


企業秘密、というよりは

職人の経験値

って世界な気がする (・`ω・´;)ゴゴゴゴゴゴ



【銅合金製である理由】


仏具=金色

というのは浄土教(浄土宗や浄土真宗など)によるイメージで。


実のところ、密教の五鈷杵が金色である必要性は見当たらず。


〜補足〜

金(Au)ではない『金色の金属』=真鍮 というイメージはあるものの

実のところ仏具は真鍮(銅+亜鉛の合金)製ではなく青銅(銅+錫の合金)が多い

(安価なものや大きなものは真鍮もある)

※おりんなどの打楽器類は真鍮の鋳造だと強度的に不足しがち(冷間での圧延や鍛造などで加工硬化する必要がある)


青銅は

錫の添加量が少ないと銅色(十円玉系)で

錫の割合が高くなると金色となり

半分近くが錫になると銀色になる

はい\_('ω' )ココ重要



疑問

「何故、五鈷杵は青銅で作られているんだろうか」



実際に仏具として使われているものって、金属製なんですよね。


木製品や水晶製なども存在はしますが…

存在するってだけで、実際に使われているのは金属製。

その金属も銅合金製です。


様々な金属が存在する現代で、なんで銅合金なのかな?と。



「お釈迦さまの時代から〜」

とかかな?と思ったのですが、インドの歴史をみると

インドの鉄器時代は紀元前10世紀頃から

という説が有力らしいので、お釈迦さまの時代(紀元前6〜8世紀頃とされる)は鉄器がある時代。


資料を読んでみると、初期仏教の経典にも鉄と思われる金属名が記されている模様。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeb1947/1960/48-50/1960_48-50_L210/_pdf/-char/ja

※真言宗智山派 総本山 智積院 68代目 化主猊下が書かれたものです。


つまり『元々、青銅しかなかったから』というわけではなさそう…。



色々と調べてみたものの

『五鈷杵などの金剛杵が銅合金製である理由』

というのは不明。


正倉院に収蔵されてる三鈷杵は鉄の鍛造品

ということを考えると『経典で推奨の材質が指定されている』というわけでもなさそうですね…。


さらに言うと鍛造品なので『鋳造』という製法指定もなさそう…。




先の化主猊下の論文を読むと


「鉄は生産性のある道具(農機具など)に使うもの」

みたいな位置付けで、鉄で作るのを避けたのか?


と思う部分もあるし


「銅は富裕層の使う贅沢品」

みたいな資産価値が高い的な記述もある


という感じなので、そこを踏まえると

金属自体のイメージや社会的な意味による材質の選択ではない

ということになりそう…。



お釈迦さまの使用されていた鉢は青銅製

とのことなので

お釈迦さまの居られた環境においては青銅は贅沢品とはみなされなかった

という可能性もありますが…




角度を変えて観て…

五鈷杵は密教仏具なので、密教が理由とか?


密教の歴史を調べると

1世紀〜3世紀頃に原型が出来て、7世紀頃までに体系化されて成立。

8世紀頃、中国を経由して日本へ。

という感じの流れ。


5〜7世紀にヒンドゥ教がインドで主流となったそうなので、そのあたりの影響もあるかも?



インドのヒンドゥ教といえば金属食器文化圏だけど…

そこに関係あるのかな?と思って食文化関係を調べてみたところ


ヒンドゥ教では

「他人が使った器は不浄」

ということで使い捨てにするor徹底洗浄するという文化がある

※日本でいう『鍋料理』や『大皿料理』なども不浄に区分される模様。


つまり、『洗浄し易い金属食器を使う』という事な模様。


現代のような高性能な食器洗剤などがあるわけではないので、加熱消毒でしょうか?

鍋などで食器を煮たり、直火で焼いたり、みたいな…。



条件的に考えると

・時代的にステンレスやアルミは実用化されていない(実用化は19世紀)

・真鍮が量産できるようになったのは12世紀頃

※亜鉛を精製する技術が確立されたのが12世紀頃とされている


食器は量産する必要がある

量産に適した製造方法=鋳造

鋳造=金属を液状まで溶かす必要がある

というように順を追って考えると、時代背景と技術水準的に鋳造に適した金属は青銅くらい…


もしかして…

食器などの製造で青銅鋳造技術が高かったから

って理由で、青銅の鋳造で作られたのを背景として、そのまま継承され続けてる、とか…?



それとも、阿闍梨様(住職になれる密教僧)しか触れない経典とか、口伝の中に五鈷杵の材質指定や製法指定があるのかなぁ…?



〜余談〜


青銅ってゲームなどで

鉄系武器の1つ前、初期装備の次!みたいな位置付けにされてる

というような場合が多い影響からか、あまり硬くない、どちらかというと軟らかい、みたいなイメージを持たれたりしますが…


実際にはナタみたいな使い方も出来るくらい頑丈だし、木が削れるくらい鋭い。



流石に、刃物としての切れ味の持続性では鉄よりは劣りますが(^_^;)



【五鈷杵は武器なのか】


神様(天部)や仏様の古い尊像が持ってる金剛杵は、ほぼ独鈷杵。

次点で三鈷杵。


世界的にみても信仰対象になっている方々のシンボル的な持ち物は

多くの宗教で一般的には『刃が1つ』(剣や槍など)

多くても『刃が3つ』(ポセイドンのトライデントなど)

となっています。

※正倉院に収蔵されている金剛杵も三鈷杵で、装飾がなく、如何にも武器!って感じ作り。



『武器』という面から考えると、独鈷杵は当然の構造。


三鈷杵は『相手の武器を受け止める機能を持った武器』として。

つまり、防御方面に進化した武器と考えられます。


沖縄の釵とか、西洋のソードブレイカーといったものが実在するので

『鍔に刃をつけたんだな』みたいな感じで、まだ理解し易い。



武器という道具の歴史などから考えて、五鈷杵というものは

独鈷杵や三鈷杵とは異なり、宗教上の理由(五智如来など)に合わせて創作された

のではないかなぁ、と。


いわゆる、超常的な力を前提とした、ファンタジー系の武器。



ぶっちゃけ『武器』という側面から考えて

『刃が5つある』という利点って…?という…


簡単にいうと

刃が5つもあると、加わる圧力が分散する&摩擦が増えるため、独鈷杵に比べると貫通力に劣る

防御の用途を考慮して刃を増やすとして、刃は2つ、もしくは3つあれば要は足りる

刃が増えることにより形状が立体的になって携帯性が悪くなり、メンテナンス性も下がる

という感じなので、武器としての実用性でいうと三鈷杵で足りるという…



インド文化圏にはウルミ,ジャマダハル,チャクラムなどの特殊な武器が存在するので

一般的な考えでは思いもよらない方向へ進化した実用品である可能性もありますけど…

・ウルミ…『鬼滅の刃』の甘露寺蜜璃の日輪刀みたいな剣

・ジャマダハル…『ドラゴンクエスト』のドラゴンキラーみたいな剣

・チャクラム…『忍たま乱太郎』の滝夜叉丸が使う戦輪



【そして…】



買っちゃいました⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝



動画を観て、興味を持って、色々調べて

「すごいなぁ…」

「四分一佐波理を煮仕上げした現物を観てみたいなぁ…」

と思っていたところ、先の動画の仏具工房の公式サイトがリニューアル。


その記念として『四分一佐波理五鈷杵』を10本限定で受注生産と告知が。

※受注は2024年8月31日まで



毎日、サイトをチェックして

「私では使えないし…」

と、グダグダして8月下旬…


そこに流れてきた

『職人の高齢化で工場が閉鎖されてため、ピーポくんのぬいぐるみの製造がストップ』

というニュース。


職人の高齢化…

製造がストップ…

四分一佐波理五鈷杵の現物を観るなら今しかない!


という感じでした( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \


3週間ほど悩んだので、衝動買いではない…はず(*°∀、°*)



学術書とか、色んな研究サンプル(試料)の為に走り回った経験がある方は共感してくださると思うのですが

・「欲しい!必要だ!」って時に、絶版になっていて手に入らない

・大量の資料と突き合わせて多角的に確認したら矛盾が!原本を確認しないと!再検査しないと!って時に…

みたいなのが…ですね(T ^ T)


入手の機会を逃すと

図書館に引き篭ったり、古本市や古書店を渡り歩いたり…

まぁ、かなり大変_(:3 」∠)_



その経験を引き摺ったまま研究の道に進んだ人とか


「手に入るときに、とにかく手に入れろ!」

というのがお約束になり

そして、部屋が資料や研究サンプルで溢れる…


ってのがよくあるパターンですね (・`ω・´;)ゴゴゴゴゴゴ



なんにせよ、私では仏具として使えないので、届いたら普段は防湿庫にしまっておきましょう⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝


【防湿庫】

大切なものを『良質な環境で保管し、長持ちさせる』という目的の装置。

食品を冷蔵庫に入れる=金属や紙を防湿庫に入れる、みたいな位置付け。

一般的にはカメラレンズ(1つ数万〜数百万円)の保管に使用される。



〜補足〜


意義や役割は高野山大学公式チャンネルで、高野山大学の副学長が説明してくださってます。

金剛杵のことを知りたい方は高野山大学公式チャンネルへどうぞ〜⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝