お遍路関係で旅道具、道中の生活用品をピックアップして、解説・評価・必要な機能・選び方などを書かれているブログや動画は多いのですが
『巡礼用品』
って宗教視点でやってるのは少ないな、と思ったので書いてみます(`・ω・´)


【輪袈裟】

形状:首から提げる『布を紐で繋いだ』形状の輪っか。
意味:仏教徒である証。

僧侶が『黒い着物の上に巻き付けてる衣』の簡略版という位置付け。


仏教的には、最重要アイテムで
『数珠はなくてもいいけど、輪袈裟の着用は必ず!』
くらいの位置付け。

輪袈裟の着用に関して、正式には
『授戒会などの儀式を受けて正式な仏弟子となり、輪袈裟の授与を受ける』
というような手順が必要となります。

実際のところ、あんまり気にしている人、いないけど…_(:3」∠)_


輪袈裟着用が必須になってる行事は多く、御朱印ブームで減少したものの
「輪袈裟着用なき者は、参拝者として認めない」
というお寺もあります。
※浅草の浅草寺なども、御朱印ブーム前(90年代〜00年代頃)は御朱印(納経印)を頂くには輪袈裟着用が必須でした。


宗派が正式に説明してるものだと浄土宗があります。


所属宗派,所属寺院,寺院内の立場などを示す刺繍が入っていたりするものが結構多いです。
巡礼関係の書籍やサイトなどでは『巡礼者のネクタイ』と言われますが、どちらかというと社員証や入館証などに相当するのでは?というのが個人的な印象。

『所属や立場がわかる』もので
『整った服装(礼服やスーツ)の着用が望ましいが、カジュアルな私服に着用することもある』
という条件を満たすもの…って要件に該当するものなので(^_^;)

実際、輪袈裟が会員証として機能している寺院も存在します。



真宗では名称が異なり
真宗大谷派(お東さん)では『略肩衣』
浄土真宗本願寺派(お西さん)では『門徒式章』
となっていますが『仏弟子・仏教徒の証』という意味では輪袈裟と同じものになります。


[色]

ビジネススーツなどと同じで無難な『定番色』というものがあり、多くは
・焦茶
・深緑
・紫
の三色のいずれかです。

これは、一般檀信徒向けの授与品に多い定番色で、言ってみれば『業務用の定番』の色。

巡礼の先達などで、他と識別する必要がある場合などは
・目立つ色(朱など)
・特別な生地(金蘭)
などが用いられることも。

※金襴
金箔を巻きつけた金糸,細く切った金箔を織り込み、紋様を表現した織物。
京都の西陣織などが有名。
本物の金蘭生地は洗濯が出来ないため、人間が着用する事を想定したものは着色した化学繊維を使用される場合が多い。


巡礼用は個人向けだからなのか、目立つ色や金蘭生地を用いたものも結構多いです。


[取り扱いルール1]トイレに行くときは外す
正確には『トイレに持ち込んではならない』というルール。

これを駅のトイレなどでやろうとすると、カバンやポーチなどを駅のトイレの出入り口に置いていく事になるため、盗難や紛失の心配があるのはもちろんですが、それ以上に『不審物として通報される』という可能性が…。

僧侶に
「新幹線などでの移動中にトイレへ行く際、カバンに入れた袈裟や輪袈裟はどうしてますか?」
と訊いたら
「トイレに持ち込む」
と返ってきたので『ですよね〜(^_^;)』という感じ…。

複数人で移動しているのであれば、同行者に荷物を預けて…という方法も取れますが、一人ではそういうわけにもいきませんから。

持ち主のわからない不審物=警備員や警察に通報
という、周囲に多大な迷惑のかかる騒ぎに発展する可能性を考えると、柔軟に対応しないと色んなところに迷惑ですし。


[取り扱いルール2]食事のときは外す
このルールの線引きは曖昧なところがありますが、『食事』の際には外すというルールです。

何が曖昧なのか?というと、どの宗派も『食事の時は輪袈裟を外す』としているのですが
『飲食時』と説く僧侶と、『食事』と説く僧侶が存在している
という事なんです…。

簡単にいうと
『輪袈裟を着用した状態で、水やお茶を飲んで良いか』
という線引き。

日常ならそれほど問題はないのですが、お遍路(特に歩き)だと
『小まめな水分補給』というのは必須
なので『輪袈裟を外すこと』になると…_:(´ཀ`」 ∠):

授戒会では一部の例外(丁子など)を除いて、飲食物を口にする際は輪袈裟を外すので
『水やお茶を口にする際にも外す』のが正式だけど、黙認されてる
みたいな感じかなぁ…と勝手に思っております( ˙꒳˙ )


たまに『精進料理なら、着用したまま食べても良い』と言われる方(※僧侶ではない)も居られますが…
おそらく『修行としての食事』の話なのではないかなぁ、と。
修行体験などでは輪袈裟を着用した状態での食事もありますし。

ただ、この場合は所定の作法厳守が必須なので…。
作法『食事中、言葉を発してはならない,音を立ててはならない』
食器の使い方なども作法として指定があったりします。

一般在家は精進料理であっても輪袈裟を外すのが無難なのではないかと…(・`ω・´;)


[取り扱いルール3]着用前に拝む
正式なルールなのかは不明。

授戒会などでは
『仏弟子の証を着けさせていただく』という事に感謝
ということで
『輪袈裟を捧げ持って拝む』
というのは基本所作として指導がある場合もあります。

この際に
・十念
・御宝号
・三帰依文
などをお唱えする場合もあったり。
※宗旨宗派により異なります。

十念は
「阿弥陀仏の名を10回呼べば、必ず救いに来てくださるよ」
という教えに基づいて行われる『南無阿弥陀仏を10回唱える』という所作。

御宝号は
「南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛」
という真言宗でよくお唱えする定番の所作。

三帰依文は
『南無帰依仏・南無帰依法・南無帰依僧』
というもので、巡礼経本に載ってる『三帰』の別バージョンというか、原文版?みたいなものです。
いわゆる『南無三』です(`・ω・´)

三帰依文はパーリ語版の
ブッダン・サラナン・ガッチャーミ
ダンマン・サラナン・ガッチャーミ
サンガン・サラナン・ガッチャーミ
って唱える方も居られます。


正式には『袈裟被着偈』というお経を唱える
とは訊きますが、授戒会などで輪袈裟着用の際に袈裟被着偈を唱える様に指導を受けたことがないので、在家が唱えるものかは不明。


[形状の異なる輪袈裟1]環状の輪袈裟
着用要件:比叡山延暦寺の結縁灌頂会を10回受ける
※条件を満たすのに最低10年かかる

通常、輪袈裟といえば
『布を紐で繋いだもの』
ですが
『布を環状に縫い合わせたもの』
が存在します。
※正式には、紐のない環状のものが『輪袈裟』で、紐で繋いでる一般的なタイプは『半袈裟』『切袈裟』という名称らしいです。


この『布を環状に縫い合わせたもの』は原則的に『僧侶専用』なのですが…
比叡山延暦寺の結縁灌頂会10回目の記念品として授与され、その後は着用OKになります。

この輪袈裟は
・着用が許されている方が少ない(結縁灌頂会自体、年間最大720名しか参加できない)
・着用要件を知っている方が少ない(結縁灌頂会の参加者くらいしか知らない)
・結縁灌頂会以外で着用される方ほぼ居ない
という感じなので、知る人ぞ知る隠れた存在。

結縁灌頂会の入壇者の3〜4割くらいは着用されている印象なので、着用の允可を頂いている方は多くても300人弱くらい…?


そのためか
「僧侶専用だから、在家が身に付けてはならない」
というようなことを言われる方もおられるそうですが…

比叡山延暦寺(天台宗の総本山)が
結縁灌頂(在家が受けられる唯一の灌頂儀式)の際に
儀式参加者一同の前で、表彰形式で授与する

という輪袈裟なので、実際にはどこでも着用OKです(`・ω・´)


延暦寺の結縁灌頂の際の法話によると、この輪袈裟は
『比叡山延暦寺結縁灌頂会 入壇十回記念品専用』
として専売契約をしている生地で作られている、とのこと。


[形状の異なる輪袈裟2]前掛け型

内容を修正いたしました。
誤情報の記載をしてしまい、申し訳ございません。

※誤情報を訂正線で残しておくとサーチエンジンなどの検索にヒットして、誤情報の拡散が継続してしまう可能性があるため、削除いたしました。



『禅宗』と呼ばれる宗派の僧侶が首から提げている前掛けのようなタイプの輪袈裟で『絡子(らくす)』といいます。
※浄土宗の僧侶などが着用している『威儀細』とは異なります。


[修正記述]

お寺へ行って僧侶にお伺いしたところ
・在家用の絡子であれば、着用可
とのことでした。
※着用される方はかなり稀、とのことです。

授与については
「絡子の授与は行われていない」
とのことのようです。


〜絡子を着用されている一般在家の方への確認結果〜

絡子を持っている友人,知人から訊いたものであったため、各々にいただいた経緯を確認したところ
・大本山で授戒後、菩提寺へ報告へ行ったら住職から渡された
・本堂の大規模修繕落成記念授戒会を受けた檀家に渡された
・寺の役員になった際に渡された
・村の寺の授戒会で渡された
といったもので、いずれも村や集落の菩提寺からのもので、頂いた時期は30年〜50年ほど前とのこと。


[形状の異なる輪袈裟3]ポンポン付き


山伏が着用している

『ポンポンが6つ(うち2つは背中側にある)付いているY字型の輪袈裟』

という非常に目立つ構造が特徴。


正式名称は『結袈裟』『梵天袈裟』など。


完全に山伏専用で、主に本山派の系統で使用される袈裟。

パーツの形状で『在家or僧侶』が分けられていたり、色で階級がわかったりする。


※本山派

京都大学医学部附属病院の近所にある聖護院門跡を総本山とする修験道の宗派。

明治時代の国家神道,廃仏毀釈,修験禁止令などの影響で『天台系の修験道』と表現されることも。

(※このあたりの宗教的な分類は明治政府による近代化,西洋化の推進の影響で、歴史的にややこしい)



知り合いの山伏さん曰く

「立体物なうえにフワフワ感が大事なので、保管,運搬に場所を取るのし、収納に気を使う」

とのこと(笑)


梵天(フワフワのポンポン)がクシャっと潰れてたら、確かに…という(^_^;)



[形状の異なる輪袈裟4]編んだ紐で出来てる


輪袈裟の一部が

インテリア用の飾り結びのような、紐を編んだ形状になっている

という構造の輪袈裟。


正式名称は『修多羅袈裟』


こちらも山伏専用。

先に挙げた結袈裟とは宗派の違いで、主に當山派(当山派)の系統で使用されます。


※當山派

京都市営地下鉄東西線の醍醐駅の近所にある醍醐寺(真言宗醍醐派)を総本山とする修験道の宗派。

醍醐寺が真言宗醍醐派の総本山でもあるため「真言系の修験道」と呼ばれたりも。



あくまで『紐を編んで作ったもの』であるため、自作のハードルが低いらしく、編み込み部分を自分で作る山伏さんも居られるとか。


在家山伏はわりと「まず、使えることが重要なんだよ」みたいな思考で

電動ノコギリと石膏を持ってきて法螺貝を自作したり

溶接機を持ってきて錫杖を自分で修理したり

重機を持ってきて登山道を整備したり

という感じで、活力や行動力にあふれた人が多いので、まぁ、現物があるわけだし自作する人もいるんだろうなぁ…感( ̄▽ ̄)



【輪袈裟の選び方】

身も蓋もない言い方をすると
『授戒会へ入壇して
 輪袈裟の着用允可を頂いて
 輪袈裟を授与品として頂く』
というのが正規ルートで。

自分で輪袈裟を選んで購入するのは、授戒会入壇以降という…。



私が普段、最も着用頻度が高いのはこの輪袈裟。


厳密には輪袈裟ではなく『略袈裟』というらしいです。
本来は京都三弘法巡り用品とかなんとか。

京都の東寺の食堂の巡礼用品コーナーにありました。
※東寺は『四国八十八ヶ所0番札所』(ということになってる、らしい)

カラーバリエーションは『カラシ色』と『さくら色』の2種類。
※白もありますが、手触りが全く異なるため、集印専用…?

綿とポリエステルの混紡で出来ていて、布が2枚縫い合わせてあるだけ
紐がなく、布で簡単に繋いであるだけ
という非常にシンプルな構造のため
Tシャツなどと同じ感覚で、洗濯機で洗って、干すだけで、ある程度は皺は消えて着用可能に。
気合いを入れて仕上げるなら、アイロンできっちりと仕上げ易い。
というのが便利で、普段使いしてます(笑)


【輪袈裟止め】

巡礼用品として、ちょくちょく見かけるアイテム。
ネクタイピンのようなもので、特になくても問題ない感じ。

というより『巡礼用品以外で見たことがない』というものなので、巡礼専用品な気がします…。

僧侶で輪袈裟止めを普段使いしてる方、見たことありませんし(^_^;)


形状としては主に
・独鈷杵型(前止めタイプ)
・三鈷杵型(前止めタイプ)
・メダル型(前止めタイプ)
・クリップ型(襟首止めタイプ)
の4種類があり、メダル型とクリップ型が弘法大師様の姿が刻印されたものが主流。
他のデザインだと、観音様(主に観音霊場)や法輪など。

という感じなので、巡礼用に考案,販売されている物なんじゃないかなぁ、と。


〜使用上の注意〜

五体投地を行う際に前止めタイプの輪袈裟止めを着用していると、輪袈裟止めの重さで輪袈裟が振り回されるので、五体投地の際は輪袈裟止めを使わないor襟首止めタイプを推奨。

特に禮拝場所が畳ではなく、板間の場合は金属(輪袈裟止め)が床板に当たり、お寺の床に傷が付く可能性が…。


【注意事項】

「他所の専用品を持ち込むべきではない」
という、使い分けの徹底を主張される方も居られます。

例.西国三十三所の輪袈裟を、四国八十八ヶ所で着用する
例.四国八十八ヶ所の輪袈裟で、比叡山延暦寺の結縁灌頂会に入壇する


この点については
宗旨宗派,宗教観の違い,個人の考え方
なので「それはあなたの考えですよね」という範囲だと思います。

人によっては『捨て往来手形』を根拠に
「寺院名,組織名などが入った輪袈裟はお遍路で使うべきではない」
という主張の方もおられるそうですが…。