目指したもの:コロナ禍でも安全に使える数珠

注意事項
1回目の緊急事態宣言時に考案,改造し、後に職人さんに新規発注した数珠。
平時における発案,改造によるものではありません。





コロナ禍中、一緒に歩んだ数珠です(`・ω・´)



【材質:本水晶】

水晶を使っているのは高級感や宗教上の意味などではなく。

この数珠で想定している使用状況が
『お堂に入る際、手にアルコールを吹き付ける』
というもので。

・アルコールに濡れた手で、数珠に触れる
・アルコールが数珠に吹き付けられる
というのが前提条件。

木材,木の実
→アルコール消毒する=水分や油分が抜ける=急激な乾燥=割れる可能性がある

タイガーアイなど、メノウ系統の石
→潜晶質で多孔質な石材(※染料などが染み込む)なので、理屈上は変色,劣化などがあり得る

不純物を含む水晶(紫水晶,黄水晶,茶水晶など)
→アルコールで変質は起こり難いものの、加熱、紫外線,放射線などで変色が起こりえるため、安定した物質であると言い切れない
※消毒方法にはアルコールなどの液体を用いた消毒の他に『紫外線殺菌』という選択肢も存在する
※他の消毒方法として『高温で蒸す』『茹でる』『熱湯に浸ける』などの選択肢も…

という感じで検討した結果、物質として最も安定していて、消毒方法の選択肢が多い、無色透明な『本水晶』を使用。


安定性だけなら新玻璃(=ガラス)も変質,変色,劣化という面では優秀ですが…
硬度(傷付き易さ)や耐衝撃も含めて観ると本水晶が最優秀という印象が…(⌒-⌒; )


ちなみに僧侶によっては
「本水晶の数珠は僧侶が正式な儀式の際に持つものだから、在家が使うべきではない」
と説く方も居られるので、一応、取り扱い注意。

とはいえ、まともにアルコール耐性のある数珠ってなると本水晶か、新玻璃(ガラス)になるわけで。
消毒前提で、修理など耐用年数も考慮するなら、総合的には本水晶が一番高耐久,長寿命だと思われます。


ちなみに当時はアルコール消毒薬が貴重だったため、石鹸や洗剤などでゴシゴシ洗ったりもしてましたが、特に劣化などは観られない印象。
石鹸や洗剤で洗うことが石的に良いのかどうかはわかりませんが…



【形状:臨済宗】

必要最小限の機能を満たす形状という、消毒の効率化ための選択。

在家が勤行で弟子玉を使う機会がほぼないという使用実態から、消毒薬の節約のためにも弟子玉のない数珠が望ましい。
※コロナ禍中において、消毒用アルコールは入手困難な貴重品。



該当するのは
・臨済宗型
・曹洞宗型
・真宗型
の3種類。
※真宗型=いわゆる『一重の数珠』『略式念珠』などと呼ばれる形状。


一般的な在家日常勤行次第なら真言の読誦指定回数は7回もしくは21回

この点を考えると
真宗型を21玉で作成して、7玉目と8玉目の間に目印になる形状や大きさの異なる玉を入れる
という手もありますが…。
※通常、真宗型は22玉,20玉,18玉のいずれかですが、厳密には珠の数に指定がなく、珠数はあくまで慣例。


授戒会などで頒布される経本だと『百遍』と指定のある場合も…。
※ここでいう『百遍』は『100回唱える』ではなく『数珠一巡相当=108回唱える』という指定


授戒会などで頒布される経本で考えると真宗型では足りない場合も想定されるため、108回数えられる数珠が必要。


条件は
・珠の数は108
・配列は7−14−33−33−14−7または7−14−66−14−7
・弟子玉なし
が最低限必要な数珠、ということになります。

条件に該当するのが臨済宗型。
※曹洞宗型は18−18−18−18−18−18という特殊配列なので、7回,21回のカウントに不向き


半繰念珠を弟子玉なしで〜というのも検討しましたが、色々と「う〜ん?」という感が(^_^;)

個人的な感覚なのですが
・臨済宗型ベースで改造したものは、一応は正式な型
・半繰念珠から弟子玉を無くす=玉数を変える=正式な型ではない
珠の形状やサイズ、房などはいじっても根本的な機能(カウントする)には干渉しないけど、珠の数,配列は機能に影響するので『数,配列』をいじるなら『カスタマイズ』とか『カスタムオーダー』ではなく、『オリジナルデザイン』になると思うのです(^_^;)




【四天玉のカスタマイズ】

親玉から数えての7玉目と8玉目,20玉目と21玉目の間に入っている四天玉。
これが『そろばん玉』にしてあります。


通常は、メインの玉(主玉)より直径が1〜2mmほど小さい玉ですが
「読誦中に、そんな些細な違いに気付くのが難しい!」
という理由から、形状の異なる そろばん玉型に変更。

最初からこの形状にしていたわけではなく。
実際に使っていて「あれ???」ということが多々発生したため、この仕様に。



【房のカスタマイズ】

『消毒薬が掛かる』という前提なので
・頭付房などの複数部品で構成されたものではない
・小さく、短く、乾き易く
・房がシンプル過ぎるとブレスレットっぽく見えるので、数珠っぽく
という注文で、編んでもらったもの。


臨済宗型だと本来は紐房なのですが、紐房は形状的に『凹凸のある四角い棒状』であり
アルコールや次亜塩素酸を吹いたペーパータオルで拭ったら、ペーパータオルがやすりで削ったみたいにボロボロになった
ボロボロになったペーパータオルが房に入り込んで、取るのが大変だった
という経験から「標準的な紐房は止めよう」となりました(笑)

よくある頭付房は中に芯材が入っているため、アルコールで芯材が劣化する可能性が高い。

梵天房は『紐の先端に毛玉』という構造上、耐久性(※毛玉が取れる?)と衛生面(※毛玉なので表面積が大きく、立体なので消毒し難い)に不安がある。

かがり梵天房はアルコールを吹き付けると房の中にアルコールが入り込んで、紐と房の接着部分を劣化させる可能性が…


結果、フリンジ型が消毒し易くて、耐久性も良さそうだなぁ
と考えたのですが…。

よくよく考えると
「房が小さ過ぎると腕輪念珠(アクセサリー)っぽく見えるのでは?」
と思ったため
「編み込みのワンポイントくらいは必要なのでは?」
という方向性で、現在の形状に。

ちなみに元々は15cmくらいある、通常の房と同じような長さでした。
数珠屋さんから「お好きな長さに切ってご使用ください」と言われていたので
「長いと消毒薬がたくさん必要」
「房はひらひら、ぷらぷらと動かないものが望ましい(コロナウイルスが付着するかも?)」
という観点から
『2cmもあれば房の編み込みは解けてこないだろう』
という理由で、2cmほどに切りました

そんなわけで紐房なのですが、現状でフリンジ型になっているのは単に『紐がほつれて糸状になった』だけだったり…
※つまり、現状は紐がボロボロに解けて、傷んでいる状態。


想像以上に色落ちがすごいので、次の修理で白い色に変えてもらおうかな、と思ってます(笑)
※アルコールは溶剤の一種なので、紐の染料を溶かす=色落ちさせる性質があります。

元々は『アルコール消毒薬でシミ汚れっぽくなるから、シミになっても目立たない色を』という目的で、黒系と赤茶系の紐を使っていたのですが…。

想定とは逆に、シミ云々より色落ちによる周辺への色移りが問題になったので、濃い色は避けたほうが無難という結論に…_(:3 」∠)_

とはいえ、コロナ禍中の頃(特に県を跨ぐ移動制限のある緊急事態宣期間中)はアルコール消毒薬が貴重だったため、石鹸や洗剤などでゴシゴシ洗ったりもしていたので「まぁいいっか〜」で、コロナ禍明けまで来ました(笑)



【中糸のカスタマイズ】

一般的に数珠は『正絹=混じり気のない絹糸』で作製されます。
この数珠は『とにかく伸び難いものを』と頼んで、伸縮性が低く、耐久性の高い化学繊維を編んだものになっています。

具体的にどんな繊維なのかはわかりませんが
素材の希少性や格付け(ステータス)や慣例より、徹底した実用性を!!!
という要望に応えて、化学繊維で編んだ物とのこと。

数珠屋さん的にも、私的にも予想外だったのですが、この化学繊維は復元性があるらしく。


1.5cmも伸びていたので「修理に出さなきゃなぁ…」と思いつつ、色々あって修理に出すのを保留していたら2〜3ヶ月くらいで元通り?の長さに戻っていました(゚o゚;;
※私は数珠を複数持っており一連が要修理状態でも、直ぐに困る!ということがないため。


この数珠を使った期間から計算すると
少なくとも5万4,000回以上
は爪繰ってますので、結構高耐久な材質なんじゃないでしょうか。
※私の経験上、正絹は3万〜4万回くらい爪繰ると寿命(中糸交換の時期)になります。


【総評】

1日に何度も石鹸や洗剤でゴシゴシ洗ったり
消毒液を吹き付けて拭ったり
という感じで衛生第一に、コロナ禍の数年間を酷使してきましたが、珠に目立った傷はなく。

房の色落ち&ほつれ以外に問題は出てない印象。

本水晶の物理的な強度(硬度)と化学的な耐性、といった物質的な安定性は優秀であると思います。


房の種類としては、シンプルに紐を編んだ『紐房』が、耐久性,メンテナンス性ともに◎

洗浄や消毒を考慮すると、サイズとしては、最大でも5cmくらいかなぁ…感。
長いと消毒や洗浄に手間が掛かりますし(※数珠の房は物理的に実用的な意味はない)
この数珠を作った当時は『消毒液が貴重』ということで、4cmほどと小さめになってます。

房の色は、数珠を石鹸などで洗ったり、消毒したりすることでシミになることよりも、色落ち&色移りの問題の方が大きいため、白系の方が無難だろうな、という気はします。


最近では
石鹸とかでゴシゴシ洗っても平気なんだし、歩き遍路に適してるのでは?
とか思ったりしてます(笑)