★2020.6.3初稿
★2020.8.23改訂
マンション1階分の高さを3.8mから3.4mに変更
身長対比図付加
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日本のどこか。
未来のいつか。
私は、某イベント企画会社が主催する
「巨大ロボットに会うバーティカル・ツアー」
に参加している。
巨大ロボット同士の戦闘で廃墟となった地域で
奇跡的に破壊を免れ、ポツンと空にそびえる超高層マンション。
それを1階から順に登っていき、
マンション前の広場に立つ巨大ロボットたちを
外廊下から眺める、という趣向だ。
「垂直」に移動するツアーだから「バーティカル」。
「バーチャル」じゃない、現実なのだ。
「はーい!皆様、お集まりですね~!」
ツアーコンダクターの狭山さんが、エレベーターホールの前で旗を振った。
アナライザーがツアー客の間を回り、名簿(メモリー内)をチェックしている。
「それでは、大変お待たせいたしました。
これから皆様と、このマンションの2階へ上って行きたいと思います!
で・す・が…上る前に、ひとつ確認です。皆様、お忘れ物・落とし物はございませんか?
上り始めてしまったら、当分、ここには戻って来ませんよ~??」
「お忘れ物は、ないけどさぁ。なんか忘れてない?モスピーダ、どうなったの?」
「そうですよ~、リストには載ってるのに。見られないんじゃサギっすよ~?」
「スパロボ小僧」と「キャラT」がドヤ顔で物言いをつけた。
狭山さんの笑顔が「ぴくっ」と痙攣した。無理もないことだ。
このタイミングで、それを言い出すか。こいつら…。
・ モスピーダ・・・・・アニメ「機甲創世記モスピーダ」(1983) 全高2.05m
引用元:RIOBOT 機甲創世記モスピーダ – 株式会社千値練
モスピーダとは、異星生命体「インビット」に占領された地球の奪還作戦に投入された兵器のひとつ。普段はバイク(アーマーサイクル)形態だが、ライドスーツ(左写真)の上に変形・装着することにより、ライドアーマー(右写真)と呼ばれる強化服となる。
【機甲創世記モスピーダ】OP(一部)+メカ変形シーン+ED(一部) - ニコニコ動画
機甲創世記モスピーダ OP&ED (1080p) - YouTube
「ただいま、お調べしております。皆様、お静かにお待ち下さい~!」
言い放つと、狭山さんはアナライザーと話し込み始めた。
私はクレーマーたちに声をかけてみる。
「モスピーダは『巨大』でも『ロボット』でもないですよ。いいことにしませんか?」
「えー?2.05mなら充分巨大じゃないですかぁ、コウジさん」
「それ言うんだったらさぁ、ほとんどのロボットが『強化服』ってことになっちゃうよ~?」
「あのねぇ。細かいこと言ってたら、ホントに巨大なロボを見る時間が」
「えー、お答えいたします~!」
狭山さんが目を走らせる端末が、小刻みに震えている。
「収集班によりますと、
『モスピーダの操縦者2名とお仲間は、まったく人の話を聞かないため、収集は不可能だ』との事です。困った人たちですね~!」
オタクたちは黙った。私も含め。
★1階に登場したロボット(話のみも含む)★
「さて、ここから最上階までの間、皆様が上の階に上る方法は二つございます。
こちらのエレベーターと、あちらの非常階段です。エレベーターは4基ありますが、現在は右側の2基しか稼働しておりません。ご注意のほど、お願い申し上げます。
なおエレベーターはアナライザーが、階段は私がご案内します。それでは、お進み下さい~!」
ほとんどのツアー客が、ぞろぞろと階段の方へ動き出した。
「あらー。皆様、健康的ですね。グッドです~!」
まあ、まだ1階だからなぁ。
開いたまま固定された非常扉の手前で、狭山さんは最後尾の到着を待っている。
私はその後ろで、リュックを肩に1階エントランスを眺めた。
「…地味、だよなぁ」
「あなたも、そう思われますか」
振り返ると、私の隣に初老の男が立っていた。
高そうなカメラセットを抱えている。ツアーが始まった時から大活躍している装備。
新たなロボットが現れるたびにベストポジションに陣取って、黙々とシャッターを切る。
そんな彼を、私はひそかに「カメラ仙人」と名付けていた。
「これだけの高層マンションに、このエントランスは…地味、ですなぁ」
「そうなんですよ。2階か3階まで吹き抜けのホールとか、そういうのが多いじゃないですか」
「まったくです。エントランスは建物の顔。高層マンションには、高級ホテルの顔が望ましい」
「せいぜい、ここは高めのビジネスホテルですよね…んっ?」
どん、と私のリュックが揺れた。
「キャラT」が肩でぶつかり、いそいそと追い越して行ったのだ。私には目もくれない。
「狭山さ~ん、さっきは失礼しました~!」
カメラ仙人と私は、黙って苦笑を交わした。
狭山さんの旗を先頭に、ツアー客たちは階段を上り始める。
高い柵に囲まれたコンクリートの階段は、やっと二人が通れるほどの幅。
「狭いなぁ」
「ビンボ臭い階段だなぁ」
「すみませんねぇ」
「いやぁ、狭山さんのせいじゃないですよぉ」
「あんたのせいだよね」
「何か言ったか?」
中間の踊り場で、階段は左へと折り返した。
わずかな高さでも、吹き抜ける風は勢いを増す。
「もっと風吹かないかな~っと」
「子供。さくらを見上げるな」
「やだぁ!」
「だからあんたは。いつもスカート短いって」
「だってぇ…これお気に入りだし。こんな急な階段、上ると思ってなかったし」
「はーい。2階に到着です~!」
2階の非常扉をくぐると、そこには『外廊下』が伸びていた。
左側の壁には、6枚のドアが遠近法の課題のように等間隔に並んでいく。
右側には、真新しい白銀の柵。大人が肘をついて、外を眺められる程度の高さ。
「記録映像で見たことある。こういうの、『団地』って言うんだぜ」
「昔、これが普通だった時代があってだな…」
「プライバシーとか防犯とか、どうなってんの、これ…?」
「私、なんだかわくわくするなぁ。住みやすそうじゃない、ここ?」
「…さくらが…そう言うなら」
「れいか、お願い。そこで赤くなるのやめて」
「よーい、ドン」
小学生3人組が弾かれたように走り出した。
「止まらんか、小僧ども!!」
カメラ仙人、保護者だったのか。
意外にもエレベーター組は後から合流してきた。足の遅い人が多いらしい。
ツアー客が落ち着くのを待って、狭山さんは廊下の彼方へと旗を振った。
「はーい、皆様。こちらが、このツアーを通じて、ロボット観覧の舞台となる外廊下です。
ご覧の通りのオープンスペースですので、各階の住居を利用して、休憩室とお手洗いを設けさせて頂いております。各部屋のドアにあります表示札をご確認の上、ご利用下さい」
「なるほど~。ちゃんと男子用・女子用に分かれてるんだな」
「よかったー!トイレ行ってこよーっと!」
「タケオ!ちゃんと話を聞いてからだ!」
「…は~い」
スパロボ小僧は、タケオというのか。
「ありがとうございます。タケオくん、もうちょっと待ってね?
改めまして、ツアー中の注意事項を申し上げます。
まず火災およびロボットへの危害予防のため、外廊下は常時禁煙とさせて頂きます。
喫煙を希望される方は、喫煙所表示のある休憩所をご利用下さい。また飲酒は…」
「すいませ~ん、ちょっとお聞きしたいんですがぁ」
「…へ!?」
とんでもない大声に、狭山さんは固まった。
ぶっきらぼうだが、若い女性の声のようだ。
「ここは、どこですかぁ!?」
声のした方向…柵の外に向かって右手から、重い金属質の足音が響いてきた。
赤くまぶしい光が、ちらちらとツアー客たちの顔を横薙ぎにしていく。
突然、外廊下が影に覆われた。
ぬっと現れたのは、白と黒のツートンカラーも鮮やかな…胴体だった。
・ AV-98 イングラム・・・・・アニメ他「機動警察パトレイバー」(1988~) 全高8.02m
引用元:機動警察パトレイバー から AV-98 イングラム 趣味とかコレクションとか
「わーっ!」
「アルフォンスだ!」
「イングラムだ!」
「誰ぇ?いまアルフォンスって言ったの」
「声でかい!声でかい!」たまらず、私は叫んだ。
「あ、ごめんなさい…なんで個人的な愛称を知ってるの?怪しいなぁ」
白黒の機体は身をかがめた。クリアグリーンのカメラアイが、ツアー客を見回していく。
「一般人と思われる…20名弱…子供3人、拘束や虐待の兆候、なし…」
「マイク入ってっぞー」
「うるさいなあ。そこのヘンな事情通!あとで事情聴取ね!」
「ええええ!?」
「…ふむ。ま、いっか」
軽やかな作動音が響き、金色に輝く桜の代紋をつけたハッチが上がり始めた。
上下に開いたハッチの奥、狭苦しいコクピットに、オレンジの制服姿がおさまっていた。
ヘッドギアからのぞく、明るい赤茶のショートヘア。太い眉、くるくると躍る瞳…
「泉巡査!お、お疲れ様です!!」
「だーかーらぁ。なんであたしの名前知ってるのよ?そこ動かないでね!」
胸を覆っていたストッパーを跳ね上げながら、彼女はびしっとキャラTを指さした。
「野明ぁ!そのくらいにしとけ。不審には違いないが、ちと行き過ぎだぞ」
下の方から、若い男の声が響いた。
「遊馬ぁ!いたの!?」
…なんで拡声器なしで、こんな大声が出るんだ?
「いて悪いか。やっと追いついたと思ったら尋問開始寸前かよ。油断もスキもないな」
柵から見下ろすと、白黒の機体の足元に、同じく白黒のゴツい車両が停まっていた。
分厚いドアが開き、「泉巡査」と同じ制服の男が、まぶしそうにこちらを見上げる。
二人の若い警官が名刺を差し出した。
コクピットから外廊下に降り立った女性警官は『泉 野明(いずみ のあ)巡査』。
『指揮車』から階段を上ってきた男性警官は『篠原 遊馬(しのはら あすま)巡査』。
二人とも所属は『警視庁警備部特車二課』 - 通称『パトレイバー』第二小隊。
そして白黒の人型作業機械『レイバー』は「AV-98イングラム」、その1号機だ。
「どうも、こちらの泉巡査が大変お騒がせしております」
「…うるさいなぁ」
「とんでもない。ご迷惑をおかけしているのは当社ですよ。あ、私はこういう者です~」
「…ツアーコンダクターの狭山さん…ちなみに、こちらはどういったツアーで?」
狭山さんは、すぅっ…と息を吸った。
「『巨大ロボットに会うバーティカル・ツアー』と申しまして」
「ば…バァ叱るツアー!?」
「バーティカル・ツアーだろ!どういう耳してんだ!?」
「あの~…」私は三人に向かって、そーっと手を挙げた。
「そのツアー客の人たちが、ボーッと待ってるみたいなんですけど」
ツアーは、いったん『休憩』となった。『自習』みたいなもんだ。
客たちはイングラムを眺めたり、記念写真を撮ったり…手を洗いに行ったりしている。
狭山さんは「機体に手を触れないで下さいね」と注意していたが、さすがに2階の柵から身を乗り出す剛の者は「今のところ」いないようだ。
なお私はというと、巡査2名とツアー主催者側の会合に、なんとなく付き合わされていた。
「それで…お二人とも、ここに来られた経緯については、何もご存じないと…?」
「はい。気がついたら、ヘンな街にいたんです。建物は見たことないし、道も地図にないし!
隊長とも太田さんとも、誰とも無線が通じないし!携帯もつながらないし…!」
「ホントですよ。ここはどこ?今はいつ?って感じで」
「おまけに、どこにも人っ子一人いないんですよぉ!」
「だからって、いきなり街を飛び出して荒野を突っ走るこたぁないだろうが?」
「だ…だってぇ、ここに人影が見えたんだもん~!!」
「こんなザマですから。もう、完全に迷子ですね」
「おかしいなぁ…ちょっと待って下さいね。確認してみます」
狭山さんは端末を耳に当てた。
「もしもし…あ、収集班長ですか?お疲れ様です。…あの、先ほど来られた『特車2課』の方々なんですが…いえ、それが何もお聞きになっていないそうで…えぇ!?」
送話口を手でふさいで、狭山さんは目を眇め(すがめ)た。
「『特車2課第2小隊の後藤隊長に、ちゃんと話を通した』そうですよ…?」
「なにーっ!?」
「あの○ソ親父~!!」
【回想】
後藤隊長 「篠原、泉。ちょっとした作業を頼まれてくれんか。1号機と指揮車で、埋め立て地の端っこまで行ってくれればいい。細かいことは先方から聞いてよ。いい散歩でしょ?」
なんなんだ?と首をひねりながら歩いて行く1号機。のろのろと続く指揮車。
やがて『先方』と思われる車両が見えてくる。見たこともない、巨大なワンボックス。
篠原巡査 「な…なんだ?あの『瞬間物質移送機つきのスーパーXⅡ』は…?」
黒眼鏡の男 「あ、お疲れ様です~!それじゃ早速、転送開始しますね~?」
狭山さん・アナライザー・私は顔を見合わせた。
(ヒドい上司も…いたもんだ)
「なるほど…だいたい、話はわかりました」
こめかみを指で揉みながら、篠原巡査は声を絞り出した。
「今は未来…それも『レイバーが存在しなかった』未来。つまりここは『異世界』ってことだ。
レイバーの代わりに作られた『巨大ロボット』同士の戦闘が起こり、街はメチャクチャになった。
しかし戦闘は過去のこととなり、復興が進められているところだ。
このツアーは、そんな日々に楽しみを見いだすために企画された…と」
「はい…おっしゃるとおりです」
あ、まだ『ライトノベル』って言葉を知らないのね。
「なにを動じることがある?俺たちは怪奇現象とも、巨大生物とも遭遇してきただろ?」
「うーん…まあ、そうだけど」
「まだ何か、納得がいかないか?」
「なんかさぁ…わかんないんだよ。巨大ロボットが、街をメチャクチャにしたんでしょ?
なのに、その巨大ロボットを見物したいって気持ちに…なるものなの?」
「正義のロボットを見たいんだ」
3人と1体が、私を見た。
なんてこった。また口が滑ってしまった。
「…正義のロボット」
泉巡査が、噛みしめるようにつぶやく。
「わかりました。それで、わかりました。
ゆっくり見て下さい、正義のロボット・アルフォンスを」
つづく
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初稿あとがき
いやぁ…今回も難航しました。
せめて最低限、週刊ペースは堅持しようと思ったのに…
土壇場で完全に詰まった時、重要なヒントをくれた妻に、心から感謝を捧げます。
おかげで、とっ散らかったピースがガシャガシャと収まっていきました。有り難い
「モスピーダ」ファンの方々、ゴメンなさい。
「巨大ロボットじゃないよなぁ?」と迷いつつ、つい登場予定リストに載せてしまったので、
せめて挨拶(言い訳)だけでも書いておこうと思いまして。
『高層マンション』についても、(今さら)色々と勉強しました。
調べてみると、目からウロコがバラバラと。本当に「私の知らない世界」でしたね~。
…いつか住んでやるぞ、という思いも、湧いてきてしまいましたが。
もちろん、ここで描いているマンションは『トンデモ』ですよ。その辺の説明は、次回以降に。
そして超難物『パトレイバー』との戦いは、あと1回続きます。
これについても、次回ゆっくりお話しましょう。では…
次回「巨大ロボ・ツアー06 2階② パトレイバー(承前)そして…」に
ターゲット・ロック・オン!