堀 雄之介 雑記

堀 雄之介 雑記

物書きを目指す男の雑記帳です。
自作の小説紹介と日々の読書感想を書いております。

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「それで、どうなるんだよこの街は。戦争が始まったら、焼け野原になっちまうのか? 早々に逃げ出したほうがいいのか?」
「逃げ出すって、どこへ行く気だよこの馬鹿は。アンタなんか一人じゃ三時間も生きてられないよ」
 カベロが嘲笑すると、ニーノはふくれっ面で睨み返す。
「実際にドンパチ始まってからも、そんな憎まれ口が叩けてればいいがな。オメーみたいな派手な女は、真っ先に的になって撃たれんぞ」
 カベロが立ち上がり殴る振りをしただけで、ニーノは頭を抱えて怯えた。
「実際、どうなるんだろうな、このデザーは・・・・・・」
 ポーダが呟くと、皆はしばし黙り込む。
「レイジさん、それで良い作戦はできたんですか?」
 パルが努めて明るい声を出して聴いた。レイジは疲れた顔を消し、あわてたように応える。
「いや、なんにせよ情報不足という共通認識を得ただけだよ。レビアル側の兵数、武器、進軍速度、なにひとつ確かな話はないんだ。ジーロもその辺は曖昧でさ。斥侯を出すことで、まずは落ち着いたんだ」
「セッコウってなんだよ」
 代表してニーノが問う。他のメンバーも、そんな言葉を聞くのは初めてだった。
「少人数で派遣されて、敵情を探る役目のことだよ」
「そいつは危険な役だな。見つかったら殺されるかもしれねえぞ」
 舌を出して、ニーノがおどける。
「そんな他人事みたいに言うなよ」
 レイジの言葉に、その場の全員が凍り付いた。
「まさか、おまえがそのセッコウとやらの仕事をせにゃならんのか?」
 テーブルを倒す勢いで、ポーダはレイジに詰め寄った。
「ああ、軍師として、実際に自分の目で見て対策を考えろって、局長の命令」
「なんてこと! あいつぶっ殺してやる」
 カベロが立ち上がり駆け出そうとするのを、パルが必死に押し止めた。
「ひでえ話だなそりゃあ。死んで来いって言ってんのと同じだぞ。ただでさえ、街の外には機獣がうようよしているってのによ。やべえって」
「ジーロも案内を買って出てくれた。あと、もう一度言うけど、他人事みたいに言うなって」
 今度はニーノが立ち上がり、レイジの胸ぐらを掴む。
「まさか、まさかおまえ、オレたちもか?」
「そうだよ。言わなかったか? ポーダの一行は、本日正午より、ジーロ他一名と共に、レビアル軍の偵察へ向かえ、とのお達しだよ」
「ふざけんなよテメエ!」
 ひときわ大きなニーノの声は、店の外にまで響きわたった。




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 翌朝、ポーダのチームに所属している狩人たちは、たまり場である町外れの食堂に集まっていた。普段ならばここで腹を満たし、狩りの計画を練り、互いを罵り合うのだが、このときは陽気なニーノですら沈黙していた。
 思い空気を破ったのは、チームに参加して間もないパルだった。
「・・・・・・その後、ジーロさんはどうされたんですか?」
「わかんねえ。月光亭に衛兵が飛び込んできて、どっかへ連れ去っていった」
「それよりレイジは? そんな爺さんより、仲間の行方が大事でしょ?」
 噛みつくようにカベロが問いただすと、ポーダは大きな体を縮める。
「そっちの方も、わからねえんだ」
「なんだよそれ。アンタ仮にもリーダーなんでしょ? アンタが"ゴミ捨て場”にレイジを行かせたんだよ。その後の安否くらい確認しろよ」
 カベロの剣幕に、周囲の他の客たちは距離をとり、狩人たちを恐ろしげに眺めていた。
「しかし、おっかねえなあ。戦争に
なるっての? そんなの、おとぎ話でしか聴いたことねえよ。どうなっちゃうのこの街」
 ようやく開いたニーノの口は、カベロの鋭い一瞥により閉ざされた。
 すると、いつものように沈黙を守っているソイがある一点を指さしている。その指の先を、ポーダの視線が追った。
「レイジ! この野郎どこ行ってやがった」
 自分が指示したことも忘れ、ポーダは安堵と同時に怒声をあげていた。そこには、この世の不幸を一身に背負ったような顔で、レイジがよろよろと仲間たちのもとへと歩いてくるのが見えた。
「座れ、まあ座れ。なんか食うか? 飯食え飯。おまえ顔真っ青だぞ」
 ニーノに促されると、倒れ込むようにレイジは腰掛ける。
「おまえ、丸一日もどこ行ってたんだ。探したんだぞ。局長も戻らねえし、下手したら騒乱罪かなんかで務所にでもぶち込まれたんじゃねえかって心配したぜ」
 ポーダは目に涙を浮かべている。
「・・・・・・刑務所がどんなとこかは知らないけど、そっちのほうがましだったかも」
 呟くようなレイジの言葉は、騒がしい食堂で聴くには小さすぎた。
「ちょっと静かにしてくれるかい?」
 カベロの一声で、周囲は水を打ったように静寂する。
「一日中、局長に拘束されてたんだ。ジーロも同じ部屋にいたよ。彼からレビアルの情報を詳細に聞きだし、その対策、計画を練ることを、手伝わされていた」
「なんで、おまえが?」
 食べ残っていたサンドイッチを口にしながら、ニーノが聴く。
「オレだけなんだってさ。戦争ってやつを僅かでも理解している者は、この街に他にはいないらしい」
「マジかよ。じゃあ、おまえが作戦やらなんやらを考えるのか? 大丈夫かよこの街は」
 ニーノの憂いに、その場の誰もが共感していた。レイジ本人ですらも。
 そのころ、ポーダは騒動の発端となったジーロを伴い、月光亭で多くの狩人たちを前に論争をくりひろげていた。いやそれは、単なる口喧嘩、罵り合いと呼ぶべきものだった。
「なんで俺たちが、そんなジジイの言うことをきかねばならんのだ」
 隻眼の大男が吠えると、蛇のような目つきの痩せぎすの男が乗じた。
「第一ポーダ! てめえが頭面してるのが気にいらねえな」
「ハゲ局長の命令なんざ、きいてやる義理なんかねえや」
「俺だってハゲ局長の言いなりになんかなりたくねえよ。だがな、このデザーがなくなっちまうことは認められん。家族仕事も、デザーあってからこそだ。おまえ等だってそれは同じだろうが!」
 ポーダの反論は、百倍する野次で打ち消される。
 天井に向けて二発の銃弾を撃ち、小男が立ち上がった。
「レビアルだがなんだが知らねえが、他の街なんざあるわけねえだろ。このデザーの外では生きられねえ。そんなことは、狩人ならば誰だって知ってることだ」
 そうだそうだと合唱が始まり、月光亭の店内は異様な空気に満たされていた。
「なんだテメエらは、結局怖いのかよ」
 不思議と響く声音だった。それまで沈黙を守っていたジーロが、狩人たちに向かい初めて放った言葉だった。
「なんだとクソジジイもう一回言ってみやがれ」
 瞬く間に喧噪に包まれた店内だったが、続く老人の言葉に再び凍り付く。
「しばらく見ねえ間に、狩人たちは腑抜けたって言ってんだ。馬鹿みてえに口ばかり達者になりやがって。俺の時代は、皆腕だけで語り合ったもんだ。意見が合わないときは、腕っ節で決めたんだよ」
 ジーロは白銀に輝く長刀を抜き放つ。
「上等だジジイ、ぶっ殺してや・・・・・・」
 伝説の狩人の前に立ち向かった哀れな青年は、決め科白も言い終えぬ間に、利き腕を吹き飛ばされてしまった。
「次に文句ある奴あ誰だ?」
 ジーロが放つ殺気と気勢は、彼が本物であると狩人たちに認めさせるに十分なものだった。それはすなわち、彼の話が真実であることの証明でもあった。