はじめに

前回は、旅館経営者が見るべきKPIとして、RevPAR、TRevPAR、

そしてGOP PAR(後日時間を割いて解説予定)という3つの重要指標を解説しました。
 

これらの指標を改善するための具体的な戦略として、

今回は「プラン設計」と「販売チャネルの最適化」について掘り下げてみたいと思います。

 

 

どのように料金を設定し、どのようなプラン設計で、どのチャネルで販売するか。

この3つの意思決定が、旅館の収益性を決定づけると言っても過言ではありません。

 

特に現在、旅館経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。

円安が長期化し、食材や光熱費などの物価高騰は右肩上がりで上昇を続けています。

その結果、損益分岐点は確実に上がっており、

従来と同じ売上では利益が出せない状況に陥っている旅館も少なくありません。

 

このような環境下で、単価UP(ADR:平均客室単価の向上)は避けて通れない経営課題です。

同時に、単に売上を伸ばすだけでなく、収益率を上げていくこと(RevPAR、TRevPAR)

つまり利益を確実に残せる経営体質への転換が求められています。

 

しかし多くの旅館が、この重要な戦略を十分に練られないまま、

場当たり的な価格設定や、OTA依存の販売体制を続けているのが現状です。

 


こんにちは! ホテル結マネージメント代表の後田大輔です。
30代から10年間、全国の旅館・ホテルの事業再生の最前線で、
経営者やスタッフの皆さんと共に困難に向き合ってきました。


その経験を活かし、現在は業界で唯一、
旅館の事業承継を専門とするアドバイザーとして活動し、また
旅館のレベニューマネジメントの支援家としても活動しています。

 


プラン設計とグレーディング戦略

旅館の価格設定において重要なのが、プラン設計です。
旅館の多くは、複数のプランを用意していますが、その設計が戦略的に行われているケースは意外と少ないものです。

 

3段階のグレーディングが基本

私が推奨するのは、スタンダード・ミドル・ハイグレードの3段階設計(基本的な考え方)です。

旅館では「松・竹・梅」という表現を使うこともあり、日本の顧客には馴染み深い考え方ではないでしょうか。

 

スタンダードプラン(ランクは梅)は、価格重視の顧客向け。

料理品数を絞り、部屋タイプも標準的なもの。しかし「安かろう悪かろう」ではなく、

旅館の基本的な価値はしっかり提供します。

 

ミドルプラン(ランクは竹)は、最も販売したいメイン商品。

料理にも客室にも適度なグレードがあり、価格と価値のバランスが取れている。

多くの顧客がこのプランを選ぶことを想定します。

 

ハイグレードプラン(ランクは松)は、特別な体験を求める顧客向け。

最上級の料理、露天風呂付き客室、特別なサービスなど、明確な差別化要素を持たせます。

 

この3段階を設定することで、顧客に選択肢を提供しつつ、価格の「アンカリング効果(基準付け)」を活用できます。

ハイグレードプランがあることで、ミドルプランが割安に感じられ、結果としてミドルプランの販売比率が高まります。

 

価格差の設定は「知覚価値」で考える

3つのプランの価格差をどう設定するか。

これは、コスト差ではなく、顧客が感じる価値の差で決めるべきです。

 

例えば、スタンダード15,000円、ミドル20,000円、ハイグレード30,000円という設定。

ミドルとスタンダードの差額は5,000円ですが、ハイグレードとミドルの差額は10,000円です。

これは、ハイグレードの特別感を価格でも表現し、ミドルプランの「ちょうど良さ」を際立たせる戦略です。

 

重要なのは、価格差に見合った「知覚できる違い」を必ず用意することです。

料理の品数、食材のグレード、客室の設備など、顧客が「これなら納得」と思える差別化要素が必要です。

 


販売チャネルの最適化:OTA依存からの脱却

価格戦略と並んで重要なのが、販売チャネルの戦略です。
多くの旅館が、OTA(オンライン旅行代理店)への依存度が高く、手数料負担に悩んでいます。

チャネル別の特性を理解する

旅館の主な販売チャネルは、自社サイト、OTA、電話予約(直接予約)の3つです。

それぞれの特性を理解し、役割分担を明確にすることが重要です。

 

自社サイトは、手数料がかからず、顧客データを直接獲得できる最重要チャネルです。

従来は、認知度や集客力でOTAに劣るとされてきましたが、状況は変わりつつあります。

 

近年、メタサーチ(主にGoogle Hotel Adsなど)経由での予約流入が増加しており、

自社サイトのベストレート設定による効果は如実に表れています。

 

つまり、自社サイトの最低価格保証を徹底し、適切な導線設計を行うことで、

OTAから自社サイトへの予約転換は十分に可能なのです。

 

重要なのは、「やると決める勇気」です。
 

OTAへの在庫配分を戦略的に絞り込み、自社サイトに注力する意思決定をすれば、

パワーバランスは確実に変えられます。
 

最近、「嫌われる勇気」という本(アドラー心理学)を読んでいて、

「勇気」という言葉が心に刺さったので使ってみました。

 

さらに、自社のオウンドメディア(Instagram、X、Facebook、TikTokなど)の活用も重要です。

SNSを通じた情報発信は、宿泊前の期待感を高め、自社サイトへの流入を増やします。

そして、宿泊後のフォローアップで関係性を深めることで、リピート化につながります。

 

自社サイトは、リピーター獲得や高単価プランの販売に適しているだけでなく、

顧客との直接的な関係構築の起点として、ますます重要性を増しています。

 

OTAは、圧倒的な集客力と認知度が強みです。

新規顧客の獲得、特に初めて訪れる地域での認知拡大には欠かせません。

ただし、10〜15%程度の手数料が発生し、顧客データも限定的です。

 

電話予約は、特に年配の顧客層や、特別なリクエストがある顧客に利用されます。

きめ細やかな対応ができる一方、受付時間が限られ、予約管理の手間もかかります。

 

近年の深刻な人手不足により、電話予約の対応には大きな変化が生じています。

一部の施設では電話予約を受け付けない、あるいは電話予約の場合は料金を高く設定するケースも出てきました。

また、チャットボットの普及により、オンラインでの問い合わせ対応は効率化が進んでいます。

 

しかし、高齢化人口の増加により、電話での予約を希望する顧客層は確実に増えています。

この「電話対応ニーズの増加」と「対応キャパシティの限界」のギャップは、業界全体の大きな課題となっています。

 

だからこそ、電話予約の位置づけを戦略的に見直し、

どの顧客層に対してどのような対応をするかを明確にすることが重要です。

 


チャネル戦略の基本方針

私が推奨するチャネル戦略は、

「OTAで認知を獲得し、自社サイトへ流入させ、ここでリピーターを育成する」

という考え方です。

具体的には、以下のような役割分担です。

 

OTAでは、スタンダードプランを中心に掲載し、新規顧客の獲得を目指します。

在庫の一部(例えば全体の50〜60%)をOTAに配分し、直前の空室埋めにも活用します。

 

自社サイトでは、ミドル・ハイグレードプランを充実させ、「自社サイト限定特典」を付けるなどして、

直接予約のメリットを明確にします。また、早期予約割引など、

計画的な旅行者向けのプランも自社サイトで展開します。

 

電話予約は、特別なリクエスト(記念日プラン、アレルギー対応など)や、

団体予約に対応する窓口として位置づけます。

 

直販比率の目標設定

健全な旅館経営のためには、直販比率(自社サイト+電話予約)を

40〜50%以上に高めることを目標にすべきです。

 

現在、OTA比率が70〜80%という旅館も少なくありませんが、

これは手数料負担が重いだけでなく、OTAの方針変更や手数料改定に経営が左右されるリスクがあります。

 

直販比率を高めるには、自社サイトへの投資(予約システムの改善、SEO対策、コンテンツ充実)と、

リピーター施策(メルマガ、会員制度、リピーター特典)が不可欠です。

これらは短期的にはコストですが、中長期的には確実に収益性を高める投資です。

 


価格とチャネルの連動戦略

価格戦略とチャネル戦略は、別々に考えるのではなく、

連動させて設計することが重要です。

 

例えば、繁忙期の週末は、OTAでの販売を抑制し(在庫配分を減らす)、

自社サイトでの高単価プラン販売に注力します。

一方、閑散期の平日は、OTAでのプロモーションを積極的に行い、稼働率の確保を優先します。

 

また、早期予約(30日前、60日前)は自社サイト限定の割引プランで囲い込み、

直前予約(7日前以降)はOTAも活用して空室を埋めるという時間軸での使い分けも効果的です。

 

旅館特有の在庫コントロール:夕食キャパシティの制約

旅館やリゾートホテルでは、さらに複雑な在庫コントロールが必要になります。

繁忙日で客室に空きがあっても、夕食提供のレストランのキャパシティがオーバーする

というケースが頻繁に発生します。

 

レストランの座席数、調理部門の能力、配膳スタッフの人数など、

夕食提供には複数の制約条件があるからです。

 

このような場合、効率的・効果的な在庫コントロールとして、

朝食付きプランや素泊まりプランの販売が重要な戦略になります。

 

1泊2食付きプランだけでなく、朝食付きプラン、素泊まりプランを用意しておくことで、

夕食のキャパシティを超えた分の客室在庫を有効活用できます。

特に、ビジネス利用や観光の拠点として利用する顧客層には、こうしたプランのニーズがあります。

 

つまり、客室在庫とレストラン席数の両方を最適化するという、

旅館特有の在庫コントロールが求められるのです。

この視点を持つことで、稼働率と収益性の両方を高めることができます。

 

このように、時期・曜日・予約タイミング・提供形態によって、

価格とチャネルを動的に最適化することで、RevPARとTRevPARの向上が実現できます。

 


おわりに:戦略的な価格とチャネル設計を

価格戦略とプラン設計と販売チャネルの最適化は、旅館版RMの中核を成す重要テーマです。

 

3段階のプラン設計、OTAと自社サイトの役割分担など、これらを戦略的に設計することで、

RevPARとTRevPARは確実に改善します。

 

次回は、需要予測と在庫コントロールの実務について解説します。

過去のデータをどう読み解き、未来の需要をどう予測するか。

そして、限られた在庫をどのようにコントロールすれば、収益を最大化できるのか。

旅館特有の予約パターンを踏まえた実践的なアプローチをお伝えしたいと思います。

 


 

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